03 - 御呼ばれしましたお茶会で
ヒロイン()が行方不明になりました。
本人不在の処でも状況は悪化の一途です。
逆転の目はあるのか!?
尚、ヒロイン枠が空きましたので、悪役令嬢がinします(え
ちょっぴり肉食系ですが、チョッピリなのでウィルビア君は安心する様に。
ガチの肉食系なブリジッド殿下の場合、役不足なのでinできませんでした。
ジッサイ=ゴアンシン!!!
+
王宮の方は、貴族の嗜みな何かで女王陛下に拝謁した時に言ったけど、アレ、マジで式典とかでも使うから普通にファンタジーな王宮だったんだけどコッチはマジでヤヴァイ。
というか、王太子殿下であるが何でコッチに居を構えているん。
「こちらです」
先導してくれるのはキッチリとした淑女の格好、クリスティアナ嬢だ。
薄い緑色のワンピースに、上級貴族を示す白と赤との2枚のショールを羽織っている。
正装姿じゃないが、裾などに入った金糸や銀糸の刺繍が実に華美さをかもしている。
似合っている。
実に似合っているが、俺、私服姿っぽいクリスティアナ嬢を見たのは初めてかもしれない。
学院では基本、黒基調の制服姿だったから。
凹凸の少ない小柄なクリスティアナ嬢だが、体のラインが浮き出す様な今流行りのワンピース姿には色気がある。
後、美人さんである。
可愛い系というよりも美人系だ。
こんなクリスティアナ嬢を捨ててアレに走ったんだから、チャールズの好みは理解し辛い。
俺なら、握ったら離さない自信があるよ。
出さないけど。
高嶺の、というか棘満載の花なのだ。
本人の性格は良いよ。
でもね、婚約者持ちという最大の棘こそ消えたけど、血筋が王家に近いとか、そもそも三頂五大のフォルゴン公爵家の娘さんな訳で。
しかも当主から愛されていて、家から外に出したくないので入り婿させると当主が公言する様な相手なのだ。
実に怖い。
それなりの武勲持ちの家柄とはいえ、別に国家の重鎮を輩出した事も無い極々普通の伯爵家次男坊としては、コネや何かの意味でお近づきには成りたいが、ご縁は無いよねと思う相手な訳だ。
可愛いけど、残念ながらも。
だから、手は出さない。
手は伸ばさない。
大事な事なので2度言いました。
実に大事な話。
愚にもつかない事を考えながらクリスティアナ嬢の案内で歩く。
侵入者迎撃用なんだろうけど、実に複雑に作られた構造は複雑怪奇。
案内が無ければたどり着けないと思う。
そんな先の、応接室。
「どうぞお入り下さい」
入り口に立っていたメイドさんが扉を開けてくれた。
クリスティアナ嬢に続いて入った、その部屋は普通でした。
要塞の中の部屋としては ―― という言葉が頭につくけども。
開放的ではないにせよ、白を基調とした装飾の施された部屋は圧迫感を感じさせない作りになっている。
その真ん中、応接セットにブリジッド王太子殿下が腰かけて居た。
立ち上がって迎えてくれる。
「ようこそ、よく来てくれた。クリスティアナも案内、年の瀬で忙しい中にすまんな」
「思召しとあれば」
「勿体ないお言葉です」
頭を下げて礼をする。
軍に入っているか士官学校なゲルハルド記念大学生であれれば敬礼もあるけど、文官系な王立大学院生の俺は、お辞儀が基本なのだ。
とはいえ、90度までは曲げないよ。
そこまで礼儀作法のルールが厳格化されていない、この国では、アバウト45度が上位者への礼として適っているとされているから。
「では改めて名乗ろう。ディージル公爵ブリジッド・オーベルだ」
胸を張っての堅苦しい名乗りだけど、ここら辺は儀礼って奴なので仕方がない。
いや、王族相手に堅苦しいもクソも無いが。
とも角。
このブリジッド殿下、王家の名前がオーベルで、王太子なのでディージル公爵位を預かっている訳だ。
要するにトールデェ王国を正確に書くならオーベル朝トールデェ王国な訳だ。
フルネームで列挙すれば、ブリジッド・デューク=ディージル・オーベル・トールデェとなる。
王族の名前って面倒くさい。
俺なんてシンプルよ。
「有難うございます。私はゼキム伯爵の子、ウィルビア・ゼキムです」
正妻の子、嫡子なので家の名前までがフルネーム。
庶子の場合だと、名乗れない。
アレ、貴族も面倒くさい?
「そう固くならずとも良いぞ」
面倒くさいと言う気分が顔に出たのかしらん。
「いや、すいません。殿下の様な王族の方にお会いするのは初めてでして」
「ははははっ、中々に素直な奴だ」
笑い声。
誰? と見れば美丈夫さんだ。
美形という表現をするには線の太い筋骨隆々とした体を、金掛けてるのが見てて判る服で包んでいる。
視野が狭かった。
やっぱり緊張しているね、俺も。
「兄上!」
と、クリスティアナ嬢が声を上げた。
お兄さん? フォルゴン公爵家の嫡子さん。
これまた重役級の人物? 勘弁してよ。
「やぁクリス、久しぶりだね。可愛い顔が見れて嬉しいよ」
「兄上もお元気そうで」
兄妹仲が良さそうで結構でありますね。
手と手を合わせて喜ぶ姿は、実に微笑ましいです。
偉丈夫と小柄という事で、何処かしら犯罪臭いのはご愛嬌。
後は、ソッチで会話して欲しいけど、お兄さん、コッチを見た。
気さくな感じで笑顔だけど、目があんまり笑ってない。
値踏みされてる気分だ。
「おっとすまない、フォルゴン公爵家が長子、オズウェル・フォルゴンだ。妹が世話になってるね」
「ゼキム伯爵の子、ウィルビア・ゼキムです。私こそ友人として親しくさせて頂いています」
「友人、友を守る ―― 護ったか。舞踏会の話は聞いているよゼキム家の子、ウィルビア。クリスの身内として改め言わしてもらう。有難う」
固い。
固いです。
口調こそ砕けてますけど 「ゼキム家の子、ウィルビア」 なんて正式な場所の言い方です。
普通はしません。
怖いです。
何ぞ、この状況は。
「はははっ、立ち話もなんだ。座らないか」
王太子殿下、ナイスです。
御身が輝いて見えます。
いや、誇張抜きで凄いです。
今日もズボン姿の男装ですが、凛々しくも似合ってます。
躰のラインが見事に浮き出てて、実に凄い。
というか胸元の、内側からの自己主張が圧倒的、圧倒的と言ってよいレベルで実にけしからんのです。
凄いです。
わが友、クリスティアナ嬢が残念なのとは次元が違ってます。
ガン見するのは紳士的じゃないので、チョイ見ですけど、それでも暴力です。
「?」
比較した訳じゃないけど、クリスティアナ嬢からの視線がコッチを向いた。
止めて。
唯でさえ心理的には2対1なのに、これを1.5倍にする趣味はないよ。
ホントに。
さてさて。
メイドさんが黒茶を配って、椅子に座って始まったお話。
俺が呼ばれた理由だが、単純だった。
顔が見たかったとの事だ。
公衆面前で誹謗中傷される側に立った勇者の顔を。
「誰でも出来る訳ではないからな」
機嫌の良さそうな顔で、王太子殿下がカップを傾ければ、オズウェルさんも、そこには賛同してくる。
「身内ならまだしも只の友人が身を張ってくれたのは、ああ。嬉しいものだよ。クリスティアナは我が家の珠玉だからね」
「兄上も、そんなに持ち上げないで下さいませ」
「可愛いクリス、私にとっては君は何よりも重要なのだよ」
「兄上っ!」
照れくさそうに笑うクリスティアナ嬢、実にハイソなティータイム。
帰りたい。
割と真剣に。
ゼキム家は貴族家だけど普通の、ごく普通の貴族だ。
領土領民を護り、王国王家への忠誠を捧げるだけの田舎貴族だ。
王都に拠点を置き、宮廷を生活の場とする人たちとは違う訳で。
こんなハイソな雰囲気は、苦手だ。
これが本物の貴族なのかしらん。
「全く。これで王家への忠誠心に曇りがあれば叱れるものを」
「王家王国、臣民領民、そして家族。私の気持ちに曇りはありませんよ」
「フォルゴン家は才ある人間も多いが、少しばかり尖り過ぎる癖がある。そうは思わないかね、ウィルビア・ゼキム?」
「私が知るのはクリスティアナ嬢だけですが、彼女の才と知性とは折り紙付きかと」
癖? そんなモン、知らん。
というか、危ない地雷原に入れるかっての。
「優秀だとの話は聞いている。だが、それは君もだな」
「有難く」
「謙遜する必要は無い。知の学業もだが、自ら武の才も磨こうとする態度は立派だ。クリスティアナから中々の腕前と聞いている」
「私の見る所、フォルゴン〈焔馬〉騎士団でも小騎士位には匹敵すると思いますわ」
おお、友よ。
胸を張って行ってくれるのは嬉しいが、小騎士位って10人からの騎士兵士を指揮する小隊指揮官か。
それは俺を高く評価し過ぎだ。
剣を振るうのはそこそこ自信があるけど、人を率いるのは、正直、無理でしょ。
まだ10代だしね。
「王国次世代の1人だな。武闘大会が楽しみだ」
「いや、王太子殿下、私は」
「出ないのか?」
「いや、出ます」
「ならば、期待する自由は私にもあるという事だ」
カラカラと笑う王太子殿下。
実に気の良い感じである。
上に立つ人が、こういう気性というのは有難い。
けど、一般的な立場からすれば、もう少し距離があると嬉しい。
割と本気で。
近すぎると、ナンダカンダの貴族の騒動に巻き込まれかねないから。
この後、話はランメルツとその一党の話になった。
正確にはその家族だ。
閑職に飛ばされただのお詫びの財を積む羽目になっただの、聞いてて幸せな気分になれない話ばかりだった。
教育の責任を考えれば可哀想だとは思わないが、当主が自分から隠居蟄居を願い出るとか、流石になぁとは思う訳で。
貴族社会の面子って怖いよね。
本当に。
コレ、ランメルツとその一党って、その身内、一門衆によってつるし上げられるんじゃないかな。
当人家族一門衆、まとめて出世と言うか日の目を浴びるのは少し難しくなってるから、主家と分家の逆転とかもあるかもしれない。
となると諸悪の根源っぽいランメルツの実家は、相当にヤバい事になるかもな。
あそこ、商家で、確か後ろ盾は無かった筈だから。
怖い怖い。
何で、こんな怖い所に居るのに、証拠も無しにクリスティアナ嬢を誹謗中傷出来たんだか、分らない。
恋の力か。
愛って怖いね。
素知らぬ顔して相槌を打ちつつ、冥福を祈ろう。
ナムナム。
一通りおしゃべりを終え、黒茶も冷め、天使の間が降りたその時だった。
「しかし」
「?」
前置き無しの接続語を口にしたのはオズウェルさんだ。
見ると、顎に手を当てて考えている風だ。
「どうされました、兄上?」
「いや、そうだな、ゼキム家の子、ウィルビアの剣の腕を見てみたいと思ったのだ」
「へ?」
何でいきなり!?
「どう見た」
「悪くは無い。気性も良い、知性もまぁまぁ。家もダニーノフに近くもないので問題も無い」
「だからか」
「だから、さ。悪くは無いからこそ試さねばならん」
「愛しているな」
「笑わないでくれよ。俺としては大事な妹の事なんだ。2度も悲しい思いをさせたくはないだけなのだから」
「だから自分の手で、か」
「化けの皮をかぶっているのであれば剥ぎ取ってしまいたい。それには自分でするのが一番だ」
「勢い余って潰すなよ、〈大きい者〉?」
「訓練用を使うからな。それから先は、奴次第だ」
「フォルゴン家の人間は血を守るな」
「大丈夫だ。エレオノーラ伯母上の子、ブリジッド。貴方もまた私は家族だと思っている」
「有難う」
「どうしてこうなった」
思わず呟いたのは許して欲しい。
だって、王太子殿下に面会に来たらフォルゴン公爵家の嫡男と試合をする羽目になったのだ。
意味が解らん。
ここは王城に付随した広場、普段は修練所として使われている場所の控室だ。
訓練用の衣服に着替えて防具を付けての準備をしたが、頭の方が切り替わらない。
腕が見たいというのは判る。
この国、基本が尚武なので上な人たちも割と武への親しみがある。
とはいえ、だ。
「木剣を用意して貰ったけど、コレで良いのかしら?」
クリスティアナ嬢がやって来た。
俺用っぽく弄った木剣だ。
通常の木剣は直剣幅広諸刃を模している。
対〈黒〉の化け物用なので、威力のデカいのが好まれるからだ。
だけど、剣道をやってた俺としては、細身っぽいのが使いやすい訳で。
所謂直剣片刃なのがお好みなのだ。
預かって、振り回してみる。
重さは悪く無い。
重量バランスも上々。
「有難う。コレならやれそうだ」
「………その、ね」
「ん?」
「兄上はお強いわ。無理をする必要はないから、その気を付けてね」
「無理をする積りは無いが、ある程度は頑張らねば許しちゃもらえないだろうな」
態々に準備させてなのだ。
ある程度は発散しなければ、ワンスモアでエンドレスだろう。
上の立場の人間の我が儘って、怖いよね。
「あ、うん、そう、そうね。許しは貰えないわね」
「ん?」
見れば、俯いてるクリスティアナ嬢。
どったの?
と、ドレスのポッケを漁りだした。
「手を出してもらえるかしら」
綺麗なハンカチースが右の手首に巻かれた。
汚れた革の小手に、純白のハンカチースが。
「お守りか、有難う」
「無事を、怪我をしないように祈ってるわ」
「有難う祈っててくれ」
尚、お兄ちゃんはガチ系です。
頑張れ、ウィルビア君!!!(割と無謀