02 - 相手は子供だった
美味しくザマァ料理をする為には準備が必要なのです。
下ごしらえが必要なのです。
下ごしらえをせずに性急に結果を求めると、かのヒロイン()の如く逆転されます。
ここ、テストに出ますヨ?(謎
※修正版
ボケてキャラの名前が被りましたので修正しますた。
混乱させて申し訳ありません。
ストックから出す際には、要注意でございます(自戒
旧:アーネット・レヴィンスク
新:ベルタ・マルティーニ
どっちの名前を修正するかで迷いましたけど、登場量の少ない(=修正量の少ない)側を改名しますた。
+
「面倒くさい事になったもんだ」
嘆息する。
結局、ヴィヴィリー嬢とひとしきり睨み合ったランメルツは、肩を怒らせて去って行った。
私が負ける筈がないとか言いながら。
電波とはいえ正直、理解どころか限度を越えている感じがする。
困った奴である。
桜誓六騎団とか言う変な集団に巻き込まれるのが嫌な俺としては、二度と会いたく無い。
「反省、していないみたいですわね」
そう合いの手を入れてくれたのはクリスティアナ嬢だ。
彼女も鍛錬所に来ていた。
1人じゃない。
メイドさんを連れてきており、淹れてもらった黒茶を優雅に飲んでいる。
「多分、してないね、アレは」
「天真爛漫、かしら?」
イントネーションは特徴的だった。
皮肉ではなく、婉曲的な嫌味。
「どうかな? とてもそうには見えなかったよ」
「………あら。ではヴィヴィリー嬢とも正面から?」
「ああ。舞踏会の時とは全然違ってたよ」
プロムで見せたか弱げな、或は儚げな雰囲気は無かった。
強者的なというべきだろうか。
何とも言えない上から目線、上からの発言に感じられた。
対するヴィヴィリー嬢が一歩も引かずに喧嘩を買ってたからヒートアップしていた可能性もあるが。
にしても、だ。
少なくとも、馬鹿とその仲間たちの人物評とは似ても似つかない顔を見せたと言える。
「余裕が無いんでしょうね、多分ですけど」
「余裕、ね」
確かに、後ろ盾が居なくなって焦っているのかもしれない。
正直、評価できない部分の多いチャールズだが、先王の婚外子という部分を差っ引いても、伯爵家の令息であり公爵令嬢を婚約者にしている、とんでもない身分の奴なのだ。
建前では知の前に平等であると謳われている学院学生であるが、現実、そんな訳は無い。
無礼講と言われた飲み会が、本当に無礼講であった例が無いのと一緒。
学院でチャールズに逆らう奴はそうそう居なかった。
それはプロムで、クリスティアナ嬢が詰られた際に、誰も関わろうとしなかった事でも表れている。
在校生であそこに割り込めるのは、同じ上級貴族家の人間だけだろう。
だから、図に乗ってたのかもしれない。
その意味では御調子者だった。
まぁ、居なくなった奴なんて、どうでも良いが。
永蟄居で社会的に死んでる奴の事を考えるなんて、時間の無駄だ。
「余裕を失って、ついでに動けなくなってくれればありがたいんだがね」
「それは無理でしょうね。動けなくなっていれば、学院に来れる筈が無いもの」
「か」
納得と嘆息。
と、それまで黙り込んでいた坊やが口を開いた。
「ラッヒェルは………治癒魔法の実験に……来てる」
ボソボソと言う。
俯きっぱなしで陰気な事この上ない。
割と傍に居るけど視線を合わせようともしない。
「………」
クリスティアナ嬢も視線を合わせようとしない。
ガン無視。
というか、空気が重い。
糾弾して逆転して糾弾された彼我が顔を揃えているんだから仕方がない。
コレでニコニコと笑って会話されては逆に怖い。
実に怖い。
いや、腹芸上等の貴族の当主様なら当然やるだろうけど、お子様でそれをやられても怖いが。
とも角。
何でこうなったかと言えば、先ずはガキが凹んで泣いてたんで、流石に公衆面前で泣かせっぱなしも可哀想だろうと鍛錬所に連れてきたのだが、そこにクリスティアナ嬢が来たわけで。
いや、クリスティアナ嬢が来るのは、割と最近ではしょっちゅうだったのだ。
だが今は冬休暇で休校になったので来るとは思ってなかった訳で。
というか、昨日は来なかったので、会うのは休暇明けだと思ってたのだ。
はい。
完全に俺の自爆です。
なので、誰に文句も言い様がない。
いや1つあるか。
運が悪かった、と。
そんな2人だが、退こうとはしない。
泣いてたベルベット坊やは心労性の疲労で動けないのかもしれない(何といってもまだ10歳だ。小学校中学年な子供なのだから仕方がない)が、クリスティアナ嬢の場合は何だろうか。
意地になってるっぽい。
いや、多分の、推測だけれども。
あ、この修練所を自分のテリトリーに入れてて、そこに敵が居座ってるのに自分が退くってのが気に入らないのかもしれない。
或は俺が敵方に温情を掛けているのが気に入らないのかもしれない。
だけど、ガチの子供にアレコレと、それこそ虐めるのは好みじゃない。
プロムの時みたく喧嘩を売ってくるなら正面から叩き潰す気になるけど、今の悄然とした姿をみては何も言う気になれないのだ。
俺、どうにもそこら辺、小市民的なんだよね。
どうしよう。
このままじゃ鍛錬にも戻れない。
援軍にパークスか誰かが来てくれれば良いだけど、それも現状では期待出来ない。
来るならもう来ている筈だし。
今いないのなら、来れないのだろう。
「………」
沈黙が痛い。
というか、辛い。
メイドさんの入れてくれた黒茶を飲んでみるけど、味も分らん始末だ。
「ん…」
「?」
「…」
2人がコッチを見て来る。
どーしよか。
あっ、1つ良い話題があった。
「そう言えば」
共通する話題なら空気が重くならない筈。
置いてけぼりが発生しないってのは大事だ。
かなり。
「いや、クリスティアナ嬢も知ってると言う事は、ヴィヴィリー嬢とは有名人なのかな? と思ってね」
「あら、興味が湧いたのかしら?」
チョッとだけ目を細めて来る。
アレ?
微妙な反応??
「いや、中々のメイドさんを連れてたから、それはね興味を惹かれるってものだよ」
「ああ」
納得した風に頷いてから教えてくれる。
ヴィヴィリー・ヒースクリフというお嬢さんの事を。
付属魔道院生の名前の通り、学院の魔法使い養成のエリートコースである付属魔道院に所属しているという。
成績は優秀であり、将来を有望視されているとも。
尚、氏の通りの生家であるヒースクリフ家は宮廷爵位側の男爵家でもあるとも。
「知らなかったな」
ここの世界、というか国の貴族はそれ程に舞踏会は開いていないので、同じ年頃の貴族家の子供とはいえ、顔見知りにはなっていないのは仕方がない。
この国、頻繁な〈黒〉との戦いで貴族は私兵を率いて前線に立ったりする事が多いので、呑気な社交界を開いている暇が無いのだ。
一応、顔見せ会いみたいな舞踏会もあるにはあるが、それはまだ先、18歳頃から対象になっている。
これは、先の通りに貴族家の人間は前線に立つ事が義務である為、子供の死亡率が割と高めなのが原因であったりする。
多分。
俺だって、確か13歳くらいには親父や一門衆や家臣からなるゼキム家私兵隊 ―― 〈剣と杖〉連隊に参加して初陣を飾ってたりした。
で、初陣は守られているとはいえ、それでも割と死ぬ例が多いのだ。
いやまて、2回目だか3回目だかの戦じゃ、門人の所の子供が死んでた筈、たしか。
蘇生呪文もあるにはあるが、万能じゃないし、あの子も死んで葬式だった筈。
というか一昔前までは〈黒〉に負けて全滅って例も少なくなかったらしい。
それが変わったのが、リード公爵家によるリード高原掌握だった筈。
確か、それ以来は全滅なんて例は滅多に無くなったらしい。
その分、リード公爵家を中核とするリード高原軍の負担は凄くなったが、他の貴族家私兵隊が寄騎として持ち回りで兵を出す事になっているのでペイされてはいる。
多分。
大規模な〈黒〉の連中が突破して来なくなっているから事実なんだろう。
尚、私兵隊を持たない宮廷男爵家とか騎士爵家に生まれた場合でも安心は出来ない。
当主は与力として国軍や上級貴族家の私兵隊に参加するのが通例なので、そこに参加する事になるからだ。
力なき正義は無力という発想。
恐ろしいまでの修羅の国な国風、脳筋である。
この事実実情を知った時、俺はもう少し、心温まるライトなファンタジー世界でも良かったのに! と転生して初めて神を呪ったものだった。
ホンと、隣り合わせの死と青春なんて勘弁して欲しいものだ。
とも角。
そんな訳で若手の貴族の知人友人の輪は意外と狭い。
なので、俺がヴィヴィリー嬢を知らなくても当然なのだ。
嘘じゃないよ。
逆に、クリスティアナ嬢は良く知ってたねという話なのだ。
あ、もしかして。
「知り合いなのか?」
「いいえ。彼女は有名なのよ」
「美人で?」
冗談を言ったら視線がガチ厳しかったです。
ごめんなさい。
「………そうではないわ。彼女の身内がね__ 」
母親さんが〈十三人騎士団〉に所属する王国最精鋭さんで、お兄さんは初陣時に最年少単独でオーガーを喰った化け物。
要するに、戦人の系譜の一員との事。
そら有名になる訳だわ。
「じゃぁ本人も相当に?」
「そんな訳ない」
ボソっと口を開いたのはベルベット坊やだ。
俯いたままボソボソと言う。
「アイツは天才じゃない」
「あら、優秀という話を聞きましたけど?」
「……無能…じゃない」
会話に乗って来たのは良いけど、ぶつ切りである。
んー どうしよう。
というか君、嫌なら帰れば良いだろうに。
合いの手を入れてくれるクリスティアナ嬢、マジ天使である。
会話をしてくれるだけ大人である。
視線を合わせようとしないのは、仕方がないのであるが。
「でしょうね。でなければ付属魔道院の優秀生徒章を付ける事は出来ない筈だわ」
会話が始まったけど、何だろう、この居たたまれなさ。
なので、一応加わっておく。
「優秀生徒章って?」
「名前の通り、成績優秀な者に配られるタイよ。一般的には首にまくわね」
どうやらネクタイ扱いらしい。
そう言えばベルベット坊やも、白のワイシャツの首元に下げている。
金糸で唐草っぽい刺繍まで入ってる。
コイツ、確か、付属院の主席だか何だかだったな。
流石は天才と言われるだけはあった訳か。
「僕よりは下だ」
ボソボソではあるが、ボソボソなりに断固として言う。
拘り? ライバル心? まぁどうでも良いが。
「魔力量は多いけど制御は人並み。魔法を力任せに使ってるだけだ ―― 」
その後、魔法に関して色々と言ってるが、正直分らん。
俺も魔法はそれなりに使えるけど制御効率がどーとか、呪文によるブーストがどーとか、脳内での魔法陣構成能力がどーとか言われても、本気で分らん。
呪文を唱える。
魔法が発生する。
敵に向かってブッパする。
この3段階で全部マルっとオッケーだと思うのだ。
俯いてた顔が俺を見た。
声が漏れてたか。
「乱暴者め」
実に蔑む声。
感じちゃいそうだ。
だが、俺にだって言い分はある。
「だが実用、実学としてはそれで十分だ」
俺にとっては魔法は牽制用だ。
戦闘中に、一言一動作で魔法を発動させる事こそが重要で、それ以上は望んじゃいない。
「使い方次第って事さ」
「貴方らしいわね」
「師は誰だ? 魔法が、魔力が勿体ない」
「いや、独学だし? ゼキム家は割と武力優先の家系なんで、魔法使いな人たちとは縁が薄くてね」
「独学で、それも戦闘用に魔法を使うだと!? 信じられない!!」
「いや、牽制用だぞ?」
「戦いながら魔法って、どれだけ呪文詠唱を短縮化したんだ!!!」
魔法のネタには食いつきが良い。
コイツは本当に魔法好きの様だ。
クリスティアナ嬢が生暖かい目で見ている。
多分、俺も生暖かい目だと思う。
子供が自分の得意分野に拘りを見せる姿ってのは、悪く無い。
と、そんな俺たちの優しい目つきに気付いたのかベルベット坊や、また、俯きやがった。
感受性豊かな子供、という事だろう。
「僕には魔法しか無い、無かったんだ。だから僕はラッヒェルが………」
ボソボソとした話を聞いたら、何というか、辛いなとしか言いたくなくなった。
纏めると以下になる。
飛び級な特待生枠で入学したら、周りは年上ばかりで、しかも貴族ばかり。
豪農っぽい普通の家育ちのベルベット坊やじゃ世間話も出来ない。
だから魔法にのめり込んだらハブられた。
というか、魔法しか無いと馬鹿にされた。
そんな日々の中でラッヒェルだけがベルベット坊やを認めてくれた、と。
守ってくれようとしたらしい。
学院の暇な時間に付属魔道院を訪れて、私だけが聞いてあげると言ったらしい。
うん。
孤立は、当人も回りも子供だから同情しかないとはいえ、酷いのはラッヒェルだ。
周りから守るとか言いながら、周りとの関係を取り持つのではなく孤立させているし。
ヴィヴィリー嬢とも、その時に激突してるっぽい。
他にも何人かの学友と喧嘩している。
一方的に虐めているとか言って。
実に酷い。
そして、周りと孤立を強めさせながらの全肯定とか、ある意味で洗脳とかの類だ。
特に依存までさせようとした辺りは、悪質な宗教並みだ。
勿論、新興宗教の方で。
何というか、これでベルベット坊やのプロムでの態度に納得が出来た。
「……何?」
「………ん……んん」
クリスティアナ嬢を見る。
何とも言い難い顔をしている。
目線があった。
頷き合う。
「これでも食べませんか。アンナ、黒茶もお願い。砂糖とミルクもタップリで」
「はい、お嬢様」
クッキーを皿ごとベルベット坊やの前に置き、お付きのメイドさんに命じて黒茶も用意させる。
今まで用意してなかったんだよね。
ここら辺に、クリスティアナ嬢のベルベット坊やへの本音が見えたが、それが変わった。
変わるよね、普通。
そもそも、クリスティアナ嬢は子供に対して甘かったが、それでこんな話を聞かされて、気持ちが動かない筈がない。
俺だってそうだし。
「なぁベルベット・パーシー。君が良ければ何時でもここに来ても良いぞ。話くらいは聞いてやるから」
「そうですわね。私でも話くらいは聞いて差し上げますわ」
「え? ええっ!?」
空気が突然変わったんで、目を白黒とさせるベルベット坊や。
何とも年相応な感じだ。
だから思う。
あのアマ許すまじ、と。
「どうぞ」
「え、あ、ああ?」
「慌てずにお飲みなさい。温かいものを飲むと気が楽になるわよ」
それから少しだけ話をした。
付属魔道院の事や魔法の事、家の事などを聞いてやった。
最初は訝し気だったけど、クリスティアナ嬢が聞き上手なのか少しだけ柔らかい表情で受け答えをする様になった。
実に年相応だ。
何故、少しだけかと言えば、ベルベット坊やの迎えが来たからだ。
糞アマではない。
学友だという、同じ年位の少女だった。
「見つけた!!」
三つ編みにした金糸の髪が特徴的な、気の強そうなお嬢さんだった。
俺やクリスティアナ嬢を見て、慌てて頭を下げた。
「申し訳ありません。私の名はベルタ・マルティーニと申しますマルティーニ男爵家の娘で御座います」
良く躾けられた礼を見せたが、その後、眼鏡越しにも判る火の付いた様な目でベルベット坊やを睨みつける。
「お騒がせ、ご無礼を申しあげます。ですが私、この馬鹿、もといベルベット・パーシーを至急、付属魔道院へと連れて行かねばならぬので、平にご容赦の程、お願い致します」
クリスティアナ嬢が、そのマルティーニ嬢の最低限度の礼儀は守ってはいても、見事なまでに火の付いた様な早口に目を白黒させていたので、俺が鷹揚に頷いておく。
「あ、ああ」
圧された訳じゃないよ。
本当だよ。
俺たちの反応に頷いたマルティーニ嬢は、それからムンズとばかりにベルベット坊やの服を ―― 襟首を握る。
そして引っ張って連れ出す。
実にパワフルだ。
「なんだよ、急に!」
「この馬鹿! アンタ、アレの実験、忘れてたんじゃないわよね?」
「あっ」
「あ”? あ、じゃないわよ、あ、じゃ。あの色ボケはアンタが居ないと実験に協力したくないとか言い出してんのよ。そもそも、アンタがアレの治癒魔法の解析したいとか言い出したんじゃない」
「あ、ご、ごめん」
「…!……!!」
「……」
「…!!!!」
遠ざかっていく声。
それでも判る、あのマルティーニ嬢のパワフルさ。
「凄いわね」
「全くだ」
だが、あんなお嬢さんが近くに居るなら、後、ランメルツから離れられるのであれば、ベルベット坊やは、少し、未来が明るそうにも見える。
祈りたい気分とも言えるがな。
と、クリスティアナ嬢が姿勢を正した。
「ウィルビア様」
何じゃらほい。
「明日はお暇でしょうか?」
「暇って言えば暇?」
学院に来てるのも、暇だからだし? 家の用向きは兄貴が返ってきているし、出来物の弟が居るし?
「ではすいませんが、私と一緒に王城へと赴いてはもらえないでしょうか」
「何でまた!?」
「ブリジッド王太子殿下の思召しです」
ジーザス。
何の御用で御座いましょうか。
胃に穴の開きそうな話で無い事を祈ります。
マジで。
頑張れベルベット坊や。
書いてて、こういう方向に振れて来るとは思わなかった。
逆ハー要員が1人脱落、かもしれない。
尚、ベルベット君ルートのライバルポジはヴィヴィリーではありません。
アーネット、もとい、ベルタなのです。
押しの強い女の子と、割と弱気な男の子の組み合わせって、ボーイミーツガールでラブ?
尚、ベルタの外見は、某オデコちゃんな某マルティーニ家のお嬢さんです ペロペロ(^ω^)