ジャストフィット!
「……何をしている?」
「はまっている」
学校帰り、真夏の日差しにウンザリしながら歩いていると、道路脇の排水溝に女の子がはまっていた。
オシャレか、コスプレか。
彼女は、この片田舎には似つかわしくない甘ロリ系の衣服に身を包み、お尻からスッポリと溝にはまりこんでおり、自力では出れないようだった。
「くっ! 私とした事が、こんな醜態をさらすとは。おい、そこの道行くメガネッ! 私を襲うつもりだな‼」
「はっ? そんな訳……」
「身動きが取れないのをいい事に、うら若き美少女をてごめにしようとは。……だが、私にそれを防ぐ手段はない。くっ、やむおえん。これをくれてやるから早々に立ち去れ!」
俺の姿を見るなり、話も聞かず。彼女はそこだけは動くらしい肘から上をチョコチョコと動かして、肩から下げた大きめのバックから、何かを投げてよこした
「こ、これは!」
投げてよこされた物を手にとって、俺は目を剥いた。
それは、ピンクのシマパンだった。
「どうだっ! しかも、私の使用済みのレア物だぞ!」
「いるかっ、こんなもん!」
何故か自慢げにしている甘ロリに、俺はパンティーを投げ返した。
「な、何っ⁉ 私のパンティーがいらんと言うのか! さては貴様、オカマかっ⁉」
「違うわっ‼」
これまた何故か目を爛々と輝かせる甘ロリに、俺は力の限り叫び返した。俺はいたってノーマルだ。ただ、見ず知らずの甘ロリ娘にパンティーもらって喜ぶような変態ではないだけだ!
「違うだと? ……はっ、そうか。パンティーよりも私の身体が良いという訳だな。まさか美少女に産れた事がこんな時にあだになるとは……」
「それも、違う……」
疲れてきた。助けてやろうと思ったが、やはりこのまま見捨ててしまおうか?
……いや、さすがにそれは人としてダメだろう。
俺は大きく溜息をつくと、彼女がはまっている排水溝に片足を突っ込んだ。
「うおぉ! つ、ついに来るか⁉」
甘ロリは暴れたが、はまっているのでたいした問題はない。
俺は彼女の腕を力任せに掴むと、思いっきり引っ張った。
スポンッ!
すると、以外とあっけなく甘ロリは溝からぬけた。
「おりょりょ?」
「もうはまるなよ」
俺はそれだけ言って、不思議がる彼女を置いてその場を立ち去ろうとした。あまりこの不思議少女と関わり合いたくなかったのだ。
「ま、まて!」
だが、幾らも行かないうちに呼び止められた。
眉間にしわが出来たのを意識しながら振り返ると、甘ロリは僅かに頬を赤くして俺に何かを差し出してきた。
「助けてもらった礼だ。……勘違いをしていたようだ。すまん」
お礼とやらを俺に押し付けるように渡すと、彼女はそのまま走り出した。
「へぇ~。以外と良い奴じゃねぇか。どれどれ……」
甘ロリの背中から渡された物に視線を落とした俺は、驚愕した。
「BL物の同人誌……。いるか、こんなもんっ‼」
以外と分厚かった同人誌を、俺は力の限り投げ捨てた。
同人誌は綺麗な放物線を描き、まだ俺に視界の外に出ていなかった鈍足の甘ロリの脳天に吸い込まれるように命中した。
「……あ」
甘ロリは同人誌一撃でくらりとよろめくと、そのまま道から足を踏み外してボスンッと倒れて消えた。
彼女が倒れた所から、フワフワした甘ロリ服が巻き起こした風に乗って落葉が舞うのは見えたが、肝心の彼女の姿は俺の視界から綺麗に消えてしまった。
しばらく眺めていたが、彼女が起き上がってくる様子がないので、多少心配になった俺は、彼女が倒れた辺りまで行ってみる。
……すると
「何を、している?」
「……はまっている」
以下、最初のやり取りに戻る。