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翔龍機神ゴーライガー  作者: 石田 昌行
第二話:宇宙刑事は女子校教師!
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宇宙刑事は女子校教師!2-1

『不始末だな、ドクター=アンコック』

 暗闇の中に浮かび上がる紅い眼が、まなじりを釣り上げながらそう言った。

『いかに児戯的な示威行動だったとはいえ、あのような未開民族に撃退され、さらには配下の機界獣まで失うとはいったい何事だ。おまえらしくもない醜態ではないか?』

「ははっ、まことに面目次第もございません」

 赤い目が発する威圧的な声を耳にして、その醜怪な老人は、恭しく謝罪の言葉を口にした。

 身体を丸めて床にひれ伏し、額をその場に押し付ける。

 だが、彼の発言はそこで止まりはしなかった。

 ドクター=アンコックは、まるでおのれの失態を棚に上げるかのごとく、別の話題を切り出したのだった。

 しわがれた声で老人は言った。

「されど、総統エビル。このアンコック、あなたさまの忠実なるしもべとして、ぜひともその耳に入れたき重大な儀がございます」

『許す。申してみよ』

「ははっ」

 そこは、一面がただ漆黒に覆われただけの空間だった。

 周囲に屹立する石柱が複数あることから、その場が限りある密室であることに疑いはない。

 とはいえ、この位置からその果てを目にすることはできなかった。

 神殿、ないしそれに類するような建物の一室なのであろうか。

 妙に張り詰めた場の空気が、そんな印象を臭わせて止まない。

 にもかかわらず、神の社に相応しい荘厳さなどは微塵も漂ってはいない場所だった。

 代わりに周囲を満たしていたものは、怖気だつような禍々しさだ。

 濃厚な腐臭にも似ている。

 そんな吐き気さえ及ぼしかねない臭気を平然と肺腑の奥に吸い込みながら、ドクター=アンコックは、高見からおのれを見下ろしてくる紅い眼に向かって、自らが体験した出来事のすべてを嘘偽りなく報告した。

『SS級の宇宙刑事だと!』

 総統エビルと呼ばれた紅い眼の持ち主が、唸るような声を上げた。

『それは真の話か?』

「真にございます」

 ドクター=アンコックはそれに応えた。

「翔龍機神たる七つの僕を使役する、全宇宙に十六人しかおらぬ最強の戦士。あのライガなる宇宙刑事バトルエージェントは、間違いなくそのうちのひとりでございました」

『なんということだ』

 総統エビルの声が深刻さを孕んだ。

『まさか、我らの計画が宇宙刑事警察機構に露見したのではあるまいな?』

「その可能性はありますまい」

 だがドクター=アンコックは、そんな懸念を頭から否定した。

「そうであるにしては、送り込まれた戦力があまりに過少でございます。

 どのような理由があるのかはわかりかねますが、あの宇宙刑事は、どうもおのが身ひとつでこの惑星ほしを訪れたかのようにうかがえました。いかにSS級エージェントがこの銀河全土に名高きといえども、使える手駒がおのれひとつとあっては、如何せんできることに限りがございます。もし宇宙刑事警察機構が我らの計画を察したのだとしたら、そのような中途半端な派兵をしてくるなどとは到底思えませぬ。

 おそらくでございますが、このアンコック、今回あれらが虎の子の宇宙刑事を送り込んできたのも、何か別種の意図があってのものではないかと想像いたすところにございます」

『そうか。おまえがそう断言するのであればそれで良い』

 紅い眼が、満足げにその幅を細めた。

『しかし、SS級の宇宙刑事がこの惑星に姿を見せたということは、奴らが我らの計画に気付くのも時間の問題と言うことだ。予定を早め、銀河中央の犬どもが本腰を入れる前にこの惑星を手中に収めねばならぬな』

「仰せの通りにございます、総統エビル」

 醜怪な老人は、改めて深々と平伏した。

「このアンコック、いかなる努力を用いましても、必ずやこの『聖なる星』をあなたさまに捧げ奉ろう所存にございます」

『うむ。期待しておるぞ』

「ははっ。ありがたきしあわせ」

 その予定調和的な遣り取りに横槍が入ったのは、まさにその次の瞬間の出来事だった。

「お待ちください、総統エビル」

 発言に続き、暗闇の奥から声の主が足音高く現れた。

 やけにきっちりとした衣装をまとう長身の威丈夫だった。

 ぱっと見では、サディスティックなエリート軍人として見えなくもない。

 その姿を直視したドクター=アンコックが、驚いたように目をむいた。

「カーネル=ザンコック!」

 怒気を含んだ声が、忌々しげにその者の名を紡ぎ出した。

 その感情的な口調の奥に、怒りとは別な憎悪の念が聞き取れる。

「おぬし、何用をもってここに来た?」

 だがカーネル=ザンコックと呼ばれたその威丈夫は、自らに向けられた老人の気色を完全に無視した。

 いかにも芝居がかった仕草で片膝を付くや、暗闇に浮かぶ紅い眼──彼らの主、ブンドール帝国の頂点に立つ指導者・総統エビルに自説を述べる。

「閣下。小官いかにも不審にございます」

 朗々たる声で彼は言った。

「宇宙刑事警察機構のSS級エージエントと言えば、いわば彼の者どもの持つ絶対の切り札。いかに我らの名が銀河中央に轟き渡っていたとしても、そのかけがえのない虎の子をこのような辺境のいち惑星にいきなり送り込んでくるものでありましょうか?」

「何が言いたいのじゃ、ザンコック?」

「小官愚行いたしますところ──」

 傍らであからさまな苛立ちを見せている同僚をわざと挑発するように、カーネル=ザンコックは主に向かって断言した。

「我が親愛なる同胞はらからであるドクター=アンコックは、自らが犯した致命的な失策を言い繕うため、いもしない宇宙刑事の存在をでっちあげたのではありますまいか、ということでございます」

「なんじゃとッ!」

 その発言にドクター=アンコックは激高した。

「貴様ッ、何を根拠にそのような戯言を申すのじゃ! この儂を侮辱するのも大概にいたせ!」

「侮辱などとんでもない。あくまで提出された情報を冷静に分析した上で、最も高い可能性のひとつをあえて申し上げたまでのこと」

 僚友からの舌鋒を軽くいなして、カーネル=ザンコックは言葉を続ける。

「総統エビル。何卒、此度はこのザンコックめに出陣の許可をお与えください。小官自らが手勢を率い、事の真相を確かめたいと思います」

『よかろう』

 総統エビルの野太い声が、闇の奥から答えを返した。

『機界獣ヘルアリーをそなたに与える。いま一度、この惑星に住む原住民どもの街を襲い、実在するならば、その宇宙刑事の実力とやらをしかとその目で確かめてくるがいい!』

「ははッ!」

 再度深々と一礼し、カーネル=ザンコックは応えた。

「必ずや、閣下の御意向に沿う報告をお持ちいたします」

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