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翔龍機神ゴーライガー  作者: 石田 昌行
第六話:事件記者久美子・二十三才
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事件記者久美子・二十三才6-4

 その喫茶店は駅前にあった。

 小山内久美子が轟雷牙との再会を果たした商店街。

 そこでこぢんまりと業を営むその店は、「GGG(スリージー)」という名を持っていた。

 さほどに目立つ門構えではない。

 どちらかといえば、居並ぶほかの商店に埋もれたような存在だった。

 久美子が彼の青年との待ち合わせ場所に選んだのは、そんな店内の一角だ。

 位置的には店内における一番奥のボックス席。

 そこは、鉢植えの観葉植物が品良く配置されていて余計な人目を避けるための適度な壁になっていた。

 あの日、彼女が彼と約束した会合時間は、本日の午後三時ちょうど。

 リミットまでは、あと二十分弱といったところか。

 しかしながら、久美子がこの店(GGG)にやって来た時間は、いまから数えて二時間以上も前のこと。

 先方を待たせるわけにいかない──そんな事情は十分理解の範疇であるが、それにしたってあまりに早すぎる到着だった。

 はやる気持ちが見え見えである。

 高まる動悸を自覚しながら、久美子は腕時計を確認した。

 さっき見た時から、まだ一分と経っていない。

 約束の時間が近付くにつれ、時間の経過がやけに遅く感じられる。

 マズい傾向だ、と彼女は思った。

 冷静さを欠きつつある自分自身を明確に悟る。

 何浮き足立ってんのよ!

 これじゃまるで、デートの待ち合わせしてる高校生以下じゃない!

 取材を目前としたジャーナリストの立場として「これではイカン!」と思った彼女は、魔法の言葉を唱えることを決断した。

 学生時代よりこの方、勝負度胸が必要になった時にはいつだっててきめんの効果を発揮してきた、そんな実績ある魔法の言葉を、である。

 やにわにその場で立ち上がり、ビシッとポーズを決めながら久美子は叫んだ。

「さあッ! おまえの罪を数えなさいッッッ!」

 それは、某特撮ヒーローの言い放つ決め台詞のひとつであった。

 突然の絶叫に驚いた店の客が、「何事か!」とばかりに振り返る。

 だが当の発言者自身は、身に突き刺さる複数の視線などまるでものともしなかった。

 「ふゥ~ッ」となんとも満足げに息を吐き、すとんとそのまま腰を下ろす。

 鋼の心臓とは、まさにこのことを言うのであろうか。

 ニタリ、と勝者の笑みを浮かべた久美子は、エスプレッソの入ったコーヒーカップを平然と口に運んだ。

 ドアベルがカランコロンと鳴り響いたのは、それから数十秒も経たぬうちの出来事だった。

 やや重厚感のあるその音が、来客の訪れを周囲に知らせる。

 「いらっしゃいませ」という、ロン毛のマスターからの挨拶がすかさずそれをフォローした。

 やってきたのは、ひとりの若い男性客だった。

 すらりとした長身を地味なスーツで包んでいる。

 わざとらしく黒縁眼鏡で装飾したその相好は十分イケメンの位にあるものだったが、あまりにも垢抜けていないその着こなしが醸し出す雰囲気を台無しにしていた。

 轟雷牙であった。

 待ち望んだその姿を迅速に捕捉した久美子が、ぱっと両目を輝かせた。

 反射的に右手を挙げ、おのれの存在を彼に向かってアピールする。

 が、次の瞬間、その眼差しが石のごとくに固まった。

 青年の後ろから現れたもうひとりの来客を見て、思わず怯みを覚えたからだ。

 それは、文字どおり「絵に描いたような」美少女だった。

 男性並みの長身に、輝くような青い瞳(ブルーアイ)

 長い金髪ブロンドが肩から腰へ見事な滝を形成している。

 そして、質素なブラウスにジーンズのパンツというさして華のない出で立ちであるにもかかわらず、衆目を集めずにはいられないダイナマイトプロポーション。

 それも、典型的な「ボン・キュッ・ボン」のバランスではない。

 スレンダーな体躯に釣り鐘型の巨乳を装備した、ある意味、究極のビューティフルグラマーだ。

「何よ、あれ。同じ人類?」

 半ば呆けたように久美子が呟いたのも無理はない。

 男衆が大半を占めている他の客たちもまた、彼女と同じように呆然とその佇まいに目を奪われていたのであるから。

「お待たせしました」

 そんな久美子に歩み寄った雷牙が、ひと言丁寧な挨拶を送った。

「あ……ああ、こちらこそ。わざわざお忙しいところをご足労いただき、あり……」

 それを受け、慌てて立ち上がった久美子がぺこりと大きく頭を下げる。

 そしてふたたび顔を上げた時、彼女は、件の美少女が青年に付き従っている事実に気付いた。

 ふたり連れなのであろうか。

 衝撃が脳天から足元までを走り抜ける。

 「ひゃァァッ!」っという奇声が、その口腔から迸り出た。

「なんですか、その態度。わたしの頭に角でも生えて見えたんですか?」

 久美子の反応が自分に対するそれだと知った美少女が、きっと眉毛を吊り上げた。

 全身で不快感をあらわにする。

「い、い、いえ、そういうわけではなく」

 吹雪にも似た気圧に圧倒されながら、久美子は必死に言い開いた。

「女性の方を同伴されて来られるとは聞いていなかったもので、つい」

「なるほど。それはこちらの手違いでしたね。謝罪します」

 せきららな天然を隠そうともせず、雷牙が小さく頭を垂れた。

「こちらは僕がお世話になってる家の家主さんで──」

「雪姫シーラって言います。どうぞよろしく」

 むっとしたままの顔付きで、それでもしかと差し出してきた美少女の右手を、「こ、こちらこそ」という台詞とともに久美子は握った。

 やがてシーラと名乗った金髪娘は、久美子と向かい合う席に雷牙と並んで着座した。

 久美子の目には、それが異様なほど絵になって映った。

 まるで、召喚された勇者さまとエルフの国の王女さまとのつがいのようだ。

「あのォ」

 そんな彼らに久美子は尋ねる。

「雪姫さんって随分お若く見えるんですけど、轟さんの家主さんってことで間違いないんですよね? っていうことは、ひょっとしておふたりはいま現在一緒のお家に──」

「ええ、そのとおりです」

 ややつっけんどんにシーラが答える。

「わたしの家にこのひとを()()()()()居候させてます。何か問題でも?」

「あ、いえ、そのォ、雪姫さんのご両親はそのことを了承され──」

「うちの両親は、天に召されてもう十年になります」

「あ……そうですか。すいません……」

 その瞬間、ポキッと大きな音を立て、久美子の中で何かが折れた。

 く……悔しいけど、勝ち目がない……

 それは、ひとつの「野心」だった。

 現実に降臨したヒーローとお近づきになれば、自分もまた()()()()()ヒロインになれるのではないかという、およそ常人には理解しがたい独特の「野心」

 一般人の目からすれば、それは「オタクの妄想」とすら呼んでよかっただろう。

 その「野心」がいま、木っ端微塵に粉砕された。

 拒絶できない挫折感が彼女を襲う。

 いや、ひょっとしてそれは、本質的な敗北感に近かったかもしれない。

 雌の本能的な何かが、「女性としての自分は、目の前の美少女に遠く及ばない」という冷徹な事実を、その心根深くに伝達したのである。

 状況が許すなら、漫画のような滝涙を流したくなるほどの心境だった。

「あゥゥ~、練りに練ったあたしのプロジェクトが、よもや第一歩目で頓挫するとは~」

 怪しげに脱力する久美子の様子に、対峙するふたり組(雷牙&シーラ)が思わず顔を見合わせる。

 だが、彼女が私人でいた時間はその一刻をもって終わりを告げた。

 バシッと両手で頬を叩いた久美子は、ぴんと背筋を伸ばし直し、向かい合うひと組の男女に相対した。

 おもむろに、テーブル脇に置いたICレコーダーのスイッチを入れる。

「え~、雪姫さんには初めまして。あたし、『週刊スマッシュ』で記者兼カメラマンやってる小山内久美子って言います」

 名刺を差し出し自己紹介を終えたのち、口調を変えて彼女は言った。

「今日は、最近起きてる謎のテロリストによる襲撃事件と巨大怪獣・巨大ロボットの目撃事件、それらに関する突っ込んだ取材をさせていただきたいと思ってます。もちろん、ジャーナリストの端くれとして情報源に対する守秘義務は厳守させていただきますので安心してください。それと、今回うかがった内容をそのまま記事にできるかどうかはわかりませんけど、主観的な歪曲や意図のこもった捏造を行わないことだけは報道人の名誉に誓って約束します。

 ではまず、おふたりには自己紹介のほうをお願いします」


 ◆◆◆


 淡々と繰り出される質問に対し抑揚なく繰り返される雷牙の応答は、常人が容易に信じられる内容のそれではなかった。

 宇宙からやって来た侵略者と、それに対抗する異星の戦士。

 いまや三流のライトノベル作家でも扱いをためらう、そんな真実を聞かされてしまい、久美子は、ただただ我が耳を疑うしかなかった。

 その脳内に確立した現代人としての常識が、どうやっても主旨の受け入れを拒絶してしまうのだ。

 だが同時に、久美子はその発言を一笑に付すこともできなかった。

 当然だろう。

 あの水神山で起きた大騒動の顛末を、彼女のその目はしかと現認してしまっているのだから。

 この世のものとは思えない化け物と、それと闘う黄金の騎士。

 そして、まるで神話に出てくる魔王のごときくろがね巨人タイタン

 それらを直接目にした以上、雷牙の語る荒唐無稽な回答を、彼女は黙って丸呑みするより道はなかった。

「お、おおよそのことは理解しました」

 実際は話の半分も飲み込めていなかったのだが、久美子はそんな風に返事した。

「やにわには信じられない内容ですけど、あたしにはそれを否定できるだけの材料がないです」

「そりゃあそうよね。()()()()、あの水神山の現場にいたんだから」

 どこか皮肉っぽくシーラが言った。

「で、いま聞いたこと、ちゃんとした記事にできそう?」

「無理ですね」

 久美子はきっぱり言い切った。

「ここまではっきりしたことがわかってたら、かえって記事にはできないですよ」

「なんで?」

「う~ん、ひと言で言っちゃうと、読者の想像力の入る余地がないからです」

 美少女のつっこみに彼女は応えた。

「例えばですね、自分たちのテリトリーを襲った謎の武装勢力があくまでも()()()だったとしたら、その報道を見たり聞いたり読んだりした市民は、多かれ少なかれ『奴らの正体はいったいなんだ?』って自分の頭で考えるものなんです。もちろんそういうのを自分たちに都合がいいようミスリードする勢力マスコミも多々あるんですけど、とにかく発信側が真実を断言しちゃわないで、どこかに受取手の想像力が介入できる範囲を残すっていうのは、報道の初手として結構大事なことなわけです」

「それってさ、漫画とか小説とかと同じって思っていいわけ?」

「まず購買者側の興味を引くのが最重要課題ってところは、まったく同じだと思います。いろいろ言いたいことはあるでしょうけど、いまの世の中、情報自体もまた商品だってことに変わりなんて全然ないんで」

 説明口調で久美子が語る。

「でも、今回の件に関してはそれができない。轟さんの言葉を全面的に信じるなら、ですが、今回、敵勢力の正体は完全にわかってしまってる。それが外宇宙から来た武装組織の連中なんだと、きっちり判明しちゃってる。

 ところがですね。その()()()()()敵の正体が、一般市民、というか普通の地球人には、とてもじゃないけど受け入れられない。これが、どこかの国の特殊部隊だったとか、誰かの組織した悪の秘密結社だったとかだったならともかく、よりによって得体の知れない宇宙人ときてる。

 たとえそれが嘘偽りない真実だったとしても、こんなネタ、聞かされたひとにとっちゃ全然理解の範疇外ですよ。突拍子がなさ過ぎて、想像力もへったくれもないです。

 もしもですよ。トリックが売りのミステリーで主人公が推理力じゃなく超能力で事件を解決しちゃったとしたら、それを読んだ読者が果たしてどんな感想を言い出すものか。そういうのをちょっとでも思い浮かべてみたら、書かれた記事がどんな扱いを受けるのかなんてもう一発でわかっちゃうじゃないですか」

「なーるほどね」

 大きく得心してシーラは言った。

「何か事件が起こるたびに『う~む。これは、妖怪の仕業じゃ』で片付けてたら、そりゃあジャーナリストとしての見識を疑われても仕方がないわよねェ……っていうか、この場合、疑われるのは見識じゃなくって正気のほうかも」

「仰るとおり、そーいうわけです」

 肩をすくめて久美子が応える。

「残念だけど、今回の取材でうかがった話はしばらく塩漬けにしておくしかないですね。これを大ぴっらにするには、受取手の体勢がちっとも整ってないですから」

「そうですか。お役に立てず申し訳ありません」

 そんな彼女に頭を下げてみせたのは、誰あろう轟雷牙そのひとだった。

「わざわざ取材に呼んでもらったのに、なんの力にもなれませんでした。無駄足を運ばせてしまって、深くお詫び申し上げます」

「謝る必要はないわ!」

 その詫び言をシーラが一気に切り捨てた。

「そもそも事の発端は、そこの胡散臭い雑誌記者があなたの秘密を直接聞き出そうと目論んだことなんでしょ? だったら、すべての責任はあなたではなくそのひとにあるんじゃなくって? もしこれまでの顛末を聞かされたひとがいたら、わたしだけじゃなくって、ほとんど全員がそんな風に感じると思うんだけどな」

「シーラさん!」

 はっきりと刺のあるシーラの言葉を、雷牙は咄嗟にたしなめた。

「いくらなんでもそれは言い過ぎなんじゃ──」

「いえ、彼女の発言は妥当です」

 だが、自分の肩を持とうとしたその台詞を、久美子はすぱっと払い除けた。

 先ほどの雷牙以上に頭を垂れ、まっすぐな謝罪の言を口にする。

「よくよく考えれば、さきほど轟さんからうかがった内容がとても市販誌に載せられないようなものだなんてことはわかりきってたことなんです。それをわかっていながら、それでもなおこんな場を設けてしまったことについては、一から十、いやいや一から百、一から千、一から万まであたしの責任です。謝るのは、一方的にあたしのほうです。おふたりとも、今日はあたしのために無駄足運んでいただき、本当にありがとうございました。よかったら何かごちそうしますので、好きなもの頼んでください」

「そこまで素直に言われちゃったら……ねェ」

 なんとも居心地悪そうに、シーラが雷牙に目配せした。

 無自覚だった久美子への嫌悪感が音を立てて空転する。

 突き出した舌鋒を見事にいなされた形となって、金髪娘は予期せぬ妥協を強いられた。

「こっちだって、全部水に流すしかやりようがないじゃない」

「ありがとうございます!」

 間髪入れず久美子は応えた。

 少女の視線から遮られたその口元が、にやりと不敵な笑みを浮かべる。

 ふッ、ちょろいわね。

 久美子は思った。

 ダークな喜びに胸を沸かせ、彼女は怪しく独り言つ。

 何はともあれ、実在する変身ヒーローと顔見知りになるっていう当初目的の最低ラインは達成されたわけだし。

 それを今後に繋げるためなら、こんな頭のひとつやふたつ、いくらでも下げてみせようってもんよ。

 そんな久美子がふたたび顔を上げたのは、ひと呼吸置いてからの出来事だった。

 何かを思い出したように刮目し、弾けたように口を開く。

「あッ! そうだッ! 大事なことを聞き忘れてましたッ!」

 それまでとは一転、やや興奮気味に彼女は尋ねた。

「すいません轟さん。あとふたつばかし質問が残ってたんです。これ、純粋にあたしの好奇心から来るものなんですが、それでよかったらお答えいただけないでしょうか?」

「ええ、まあ。僕に答えられることなら」

「よかった! じゃあ、ひとつ目の質問です」

 雷牙本人の言質を取った久美子は、シーラからの横槍が入るよりも早く、電光石火に会話を進めた。

「よく特撮ヒーローもののつっこみにもあることなんですけど、なんでそのブンドール帝国って連中は、機界獣でしたっけ?、その怪獣たちを一気に大量投入しないんですか? 軍事的な常識だと、最小限の兵力をその都度派遣する『戦力の逐次投入』ってのは悪手の最たるものだって言われてるんですけど」

「たぶん、機界獣の問題が解決できていないんだと思います」

「機界獣の問題、ですか?」

「はい」

 雷牙は答えた。

「そもそも機界獣マシーンナリィモンスターっていう生体兵器は、『素体』と呼ばれるベースボディに必要な調整を施すことで生成されます。ところがですね。調整を施されて完成した機界獣は、どうもいまのところ七十二時間程度しか生きられないようなんです。DNAレベルで無理矢理活性化させた生体活動に細胞組織が耐えられないからだと言われてます。

 もちろん、調整段階で予想していなかった暴走反応への対策という面もあるでしょう。かつて、知性を持たせた指揮官クラスの調整体がブンドール上層部に対して組織的な反乱を企てたという話を聞いたことがありますから。前線が自発的な力を持つことを、少なくとも総統エビルが好んでいないことは確かです。でも同時に、それが本質的なものでないことも間違いありません。

 だから、もしブンドール帝国が手持ちの素体を根こそぎ使って一時的な覇権を成し得たとしても、そのタイムリミットの問題をクリアできてない以上、七十二時間後に今度は戦力の枯渇という別の問題が襲いかかってきます。そしてそうなれば、彼らが連邦政府からの反撃に耐えられる道理などどこにもありません。強力な機界獣の存在なくして、ブンドールの軍事力が連邦のそれに対抗することはできないのですから」

「じゃあ、その『素体』ってのを量産すればいいと思うんですけど、それは駄目なんですか?」

「いわゆる工業製品というものではありませんからね。培養にそれなりの時間とコストとを必要とする機界獣の素体は、生産設備に増産を命じたからと言って簡単に数を増やせる代物ではないんですよ」

 宇宙刑事が蕩々と説く。

「ブンドール帝国が、自ら『帝国』を名乗っておきながら僕たち銀河連邦相手に嫌がらせのような真似しかできないでいるのは、そうした技術的な要因からもたらされる軍力の劣勢によるものだと考えられています。早い話、今の段階での連中の立場は、連邦を脅かす『敵国』ではないって認識なわけです。僕ら『宇宙刑事』が彼らの相手をしていることからも、それは明らかです。宇宙刑事警察機構は、あくまでも『軍隊』ではなく秩序を維持するための『警察組織』なんですから」

「なるほど。なんとなく理解できました。じゃあ、もうひとつの質問なんですけど」

 こちらのほうが本題だ、と言わんばかりの眼差しで、久美子はふたつ目の問いかけを放った。

 「轟さんの所属する『宇宙刑事警察機構』は、なんでもっと多くの『宇宙刑事』を派遣してこないんですか?」と。

 雷牙の顔が青ざめたのは、その瞬間の出来事だった。

 初めて目にするその変化に、シーラの両目がさっと固まる。

 だが、そんな両者に構うことなく、久美子はなおも言葉を続けた。

「普通に考えるなら、組織を相手にする時はこっちも組織で受けて立つってのが当然のことじゃないですか。だったらですね、地球を狙うブンドール帝国が多くの人員を擁してるんですから、それに対抗する宇宙刑事警察機構も同じくらいのメンバーを派遣してくるのが筋なんじゃないかって、あたしなんかは思っちゃったりするわけですよ。それこそ、『戦争は数だよ、アニキ!』が現実なんですから、轟さんみたいなトップクラスじゃなくもっと下っ端な構成員であっても、全然戦力になるってもんじゃないですか。

 なのにどうしてか、いまはあなたひとりだけが地球に派遣されてきてる。SS級以下、S級、A級合わせて三千人近い宇宙刑事がいるっていうのに、どういうわけかあなたひとりだけにこの惑星ほしを守らせるって無理をさせてる。この惑星ほしには、七十億を越える人間が暮らしてるっていうのに。

 そんな状態を直視しちゃうとですね、つい、『ひょっとして、宇宙刑事警察機構って組織は、あたしたちの地球のことなんて実はどうでもいいと思ってるんじゃないか?』な~んて疑ってみたりするんですが」

 血の気のない顔色をしたままで、雷牙は一気に押し黙った。

 それは、それまでの『轟雷牙」を知る者にとって不自然なほどの反応だった。

 傍らに座るシーラが、「雷牙?」と心配そうにその名を呼ぶ。

 それを訝る久美子に向かって青年が答えを返したのは、それから数秒を経てからのことであった。

「それは……」

 彼は言った。

「それは……いまお答えすることはできません……」

 視線を泳がせながらの回答保留だった。

 あまりに重々しいその口振りに、久美子も言葉を失った。

 何やら触れてはいけない古傷に触れてしまった時のような、そんな罪悪感に似た心情が彼女の鳩尾みぞおちをつんと刺す。

「あ……ああ、そうですか……」

 結局、久美子はそれだけの言葉を返すことしかできなかった。


 ◆◆◆


 もやもやとした不快感を各自の胸に残したまま、初めての取材は終了した。

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