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翔龍機神ゴーライガー  作者: 石田 昌行
第二話:宇宙刑事は女子校教師!
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宇宙刑事は女子校教師!2-2

「おはようございます、シーラさん!」

 それはこの上なく爽やかで、まさに目の覚めるような第一声だった。

 通りのいい凜とした挨拶が、朝一番の耳には心地良く響く。

「おはよ~」

 パジャマ姿のままリビングへとやって来た雪姫シーラは、あくびを噛み殺しながらそれに応えた。

 眠そうな目をこすりこすり、ひとまずは自分勝手な不平を漏らす。

「まだ朝の六時よ……なんでこんな早くから起きてんのよォ、雷牙」

()()朝の六時なのではなく、()()朝の六時、ですよ。シーラさん」

 そんなシーラをやんわりと一喝してみせたのは、いまは彼女の家の居候たる「宇宙刑事」轟雷牙そのひとだった。

 ピンク色の可愛らしいエプロンを身にまとい、右手に金属製のおたまを握った格好の彼は、この住居の主人であるはずの女子校生に対し、きっぱりとした口調で言い放った。

「シーラさん。聞くところによれば、この国の学校は今日から二学期の始まりだそうですね。せっかくの貴重な時間を有意義な学問の修得に当てるんですから、緩んだ気持ちのままそれに臨むなんてことは断じて許されない怠慢です。ご学友たちとの切磋琢磨に応じるためにも、朝はしっかり早起きして、心と体をしゃきっとさせるべきです! おわかりですか?」

「うっわ、説教臭ッ!」

 露骨に顔をしかめてシーラが応えた。

「雷牙ァ……お願いだからさ、ウチのお祖母ちゃんみたいなこと言わないでくれる? 朝っぱらから思いっきり気が滅入っちゃったじゃない」

「えっ! お祖母さんって、シーラさんのお祖母さんのことですか?」

「そ。わたしのパパのお母さん」

 先の言葉とは裏腹な、屈託のない笑顔を見せて彼女は言った。

「結構いいとこのお嬢さんだったみたいでさ、四角四面でメッチャ厳しいの。まあ滅多に怒ったりしない温厚なひとなんだけど、それでもきっちり、『いつか必要になるから』って、いろんなこと仕込まれたわ。自慢じゃないけどさ、こう見えてもわたし、着付けもお花もちゃんと自分でできるのよ! どう? 驚いたでしょ?」

「いやあ、それは本気で驚きました!」

 その発言を聞いた雷牙が、思わず感嘆の声を口にした。

「シーラさんにも、頭の上がらない方がおられたんですね。心の底からびっくりです! ところで、その素晴らしい女性はいまどこで何をやっておられるんですか? ぜひとも一度お会いして、何かこの星の文化をひとつ、直接ご教授願いたいものです!」

 「あのね……驚くところはそこじゃないでしょうがッ!」と鋭い突っ込みを入れつつ、それでもシーラは嬉しそうに答えを返す。

セントジョージ女学院(わたしの学校)で現役の理事長先生やってるわ。もうかれこれ十年以上になるはずよ。大ベテランね」

「えっ?」

 その回答を聞いた雷牙が不意にその目を瞬かせた。

 彼はシーラの瞳を覗き込むような仕草で、唐突な疑問を投げかける。

「あの、シーラさん。ちょっとうかがってみるんですけど、シーラさんのその『雪姫』って名前は、この国じゃあ結構あたりまえの名前なんでしょうか?」

「そんなわけないでしょ!」

 少し訝ったようにシーラが答えた。

「『雪姫』なんて名字、わたしの親戚がらみでしか見たことも聞いたこともないわよ。それがいったいどうしたっていうの?」

「いえ……たいしたことでは」

 雷牙はしばし口籠もり、何か考え込むように目を伏せた。らしくない態度だった。

 が、それもほんのわずかな間だけで、すぐに彼はいつもの調子を取り戻す。

「シーラさん!」

 快活極まる口振りで雷牙は尋ねた。

「とりあえず、ご飯にしますか? お風呂にしますか? それとも──」

「お風呂」

 すぱっと切り落とすように女子校生が断言する。

「どうせ沸いちゃってるんでしょ? ご飯の前にありがたくいただかせてもらうわ」

「お湯の温度は、シーラさんのお好きな四十二度きっちりに設定してあります。ゆっくり楽しんできてください」

「うむ。苦しゅうないぞ」


 ◆◆◆


「ってゆーかさァ、ご飯とお風呂はわかるけど、『それとも』ってのは何、『それとも』ってのは! いったいアイツ、どこであんな台詞おぼえてくんのよ! 宇宙人ってのは、ほんとーに何考えてるんだかわかんないわ」

 くるりとその場で踵を返したシーラは、まず自室に寄って着替えを準備してから浴室へと向かった。

 鼻歌交じりでタオルを用意し、パジャマを脱いで全裸となる。

 服の下から現れ出でたそれは、まさに男の妄想を体現した見事なまでのプロポーション、フィギュアのようなナイスバディだった。

 背景にドドンと擬音が描かれそうな釣り鐘型の美巨乳が、激しく自分を主張する。

 もし半端な出場亀がこれを目撃したならば、その者は理性の崩壊を覚悟せねばならなかったやもしれない。

 そんな金髪の美少女が湯船に足を漬けたのは、それから十数秒後の出来事だった。

 大きく息を吐きながらその身を湯船に沈めたシーラは、タオルで覆った後頭部をバスタブの縁に寄りかけた。

 入浴剤が蒔かれているのだろうか。

 ほのかに漂う薔薇の香りが、そっと鼻腔を刺激する。

 やがて、白く艶やかな彼女の素肌が桜の花びらにも似た彩りを生じ始めた。

 常識外れに豊かなバストが、湯面に浮かんでぷかぷかと揺れる。

 それはまさに、男にとっての桃源郷パラダイス

 ぜひ目の保養にと推薦できる、なんとも艶めかしい光景であった。

「ふわァ~、極楽極楽ゥ~」

 なんともまあおっさん臭い台詞を吐きながら、シーラはゆったりと全身を弛緩させた。

 熱めの朝湯を堪能しながら、歌うようにひとり言葉を紡ぎ出す。

「ホ~ント、雷牙と暮らし始めて最初はどうなることやらって思ったけどォ、いまじゃ毎日ご飯は作らなくてもすむしィ、面倒な掃除も洗濯もしないですむしィ、こうして朝風呂にも入れるようになったしィで、な~んかいいことずくめって感じィ。はふゥ~」

 ブクブクっと鼻の下まで湯に浸かり、彼女はここしばらくの日々に思いを馳せた。

 雪姫シーラが轟雷牙と出会ってから、早数週間が経過していた。

 それはすなわち、あのドクター・アンコック率いるブンドール帝国の先遣隊が街を襲ってから、それだけの時間が流れたことをも意味している。

 シーラにとって、この若い宇宙刑事と生活を共にするという決断は、不思議なことに必然的な選択として受け取られていた。

 それは、何か重大な秘密を知ってしまった者が等しく抱えるであろう、一種の義務感であるとさえ言える。

 もちろん、その行為にまったく抵抗がなかったかと言えば嘘になる。

 いかに星の国からやって来た法の番人といえども、雷牙が健康な男性であることに違いはないのだからだ。

 もし間違いが起きたらどうしよう。

 初めの数日は、そんな不安が彼女の脳裏から払拭されることはなかった。

 どうしても夜の眠りは浅くなり、いざというときのため、枕元には白木の木刀を標準装備していたほどだった。

 ところがである!

 それから日々を重ねても、この宇宙刑事は、シーラが懸念していたような「おすとしての本能」を欠片も表に出すことがなかった。

 人畜無害とはまさにこのことか!

 据え膳を前にして箸さえ取らぬ、いわゆる絶食系男子なる存在が闊歩している現状においてでさえ、なおここまでの態度を貫ける紳士は絶無のように思われた。

 シーラがその警報システムを知らぬ間に解除してしまっていたのも、まったくもってむべなることか。

 それはまさに、万人をそう頷かせるだけの振る舞いであった。

「執事兼、家政婦兼、荷物持ち兼、忠実なボディガードか……」

 思わず湧き出るにやにや笑いを我慢できず、シーラは「うひひッ」と声を出しながら本音のところを呟いた。

「わたしより断然女子力あるところは妙にムカつくけど、まあいい買い物しちゃったってところかなァ。これで今後も無事平穏な世の中だったら問題ないんだけどなァ~」

 玄関の呼び鈴が鳴らされたのは、ちょうどその時のことだった。「はーい」とひと声返事した雷牙が足音を立てながら玄関へ向かったのが、浴室からでもはっきりわかった。

「いったい誰よ、こんな朝から!」

 口先を尖らせながら、シーラはぼやく。

 彼女の頭脳が来訪者のリストをアップし始めたのは、その直後になっての出来事だ。

 宅配便?

 こんな時間に?

 ノー。

 絶対にありえない。

 だったら郵便屋?

 そんなの右に同じじゃない。

 もしかしてクラスメートの誰か?

 はッ、わたしの友達にそんな暇人いるわけないし!

 じゃあ、いったい誰?

 朝の七時前から、わざわざわたしのウチを尋ねてくるような奇特なひとってのは──…

 巡らせた推理がたったひとつ残された可能性に行き着いた時、シーラの背筋を冷たい何かが音を立てて流れ落ちていった。

 顔中からさーっと血の気が退いていく。

 まずいッ!

 慌てふためいて湯船から飛び出た彼女は、厚手のバスローブを羽織っただけの格好で雷牙のあとを追いかけた。

 もしわたしの予想が当たってたなら、雷牙をそのひとに会わせるわけにはいかない!

 なんとしても阻止しなくちゃ!

 だが、そんなシーラの思惑が実を結ぶことはなかった。

 けたたましく床を蹴りながら玄関までやって来た女子校生は、この時、もうすべてが手遅れになっていたという事実をはっきり見知ったのであった。

 彼女の視界の中央で、ふたりの人物が玄関口を挟んで金縛り状態になっていた。

 その一方は言うまでまでもなく轟雷牙。

 そしてもう一方は、見るからに上品な雰囲気を携えた小柄な白髪の老婦人であった。

「……お祖母ちゃん」

 あちゃ~っとでも言いたげな表情を浮かべたシーラが、その顔に右手を当てる。

 そう。

 いま若き宇宙刑事と対峙しているその老婦人こそ、名門セントジョージ女学院理事長にして彼女にとっては父方の祖母、雪姫松乃(まつの)そのひとであったのだった。

 まずいことになっちゃった。

 何はともあれ、シーラは思った。

 まさか、お祖母ちゃんが尋ねてくるとは思ってもみなかった!

 いやいやいやいや、考えてみれば、その可能性を予測しとかなかったのはわたしのミスだ。

 なんといっても今日は二学期の始業日。

 責任感の強いこのひとが独り暮らしの孫娘の様子をうかがいにここまで足を伸ばすっていうのは、十分にあり得る話だったんだから。

 それはともかく、どうやってこの場を切り抜けよう。

 彼女は思惑を巡らせた。

 現状を第三者視点から俯瞰すれば、これはもうどこをどう見たって自分が若い男性とひとつ屋根の下で朝を迎えたことの証明にしかならない。

 しかも、いま自分が素肌の上にまとっているのは、ロングのバスローブがひとつきり。

 はっきり言って、これだけの材料を前にして、ふたりの関係を疑うなって主張するほうにこそ無理がある!

 やばい!

 やばい!

 やばい!

 絶対にやばい。

 絶対にやばいよ、これはッ!

 あとからあとから押し寄せてくる混乱が、先の混乱に拍車を掛ける。

 だからこそ、シーラは気付くことがなかった。

 お互いの顔を覗き込むように立ちすくむふたりの唇が、それぞれ「松乃さん」「轟さん」と小さく呟いて見せたことにである。

「お、お祖母ちゃん! あ、あ、あのね、このひとはね──」

「初めまして! シーラさんのお祖母さんですね!」

 シーラが何か言い訳めいた言葉を発しようとしたその矢先、はきはきとした雷牙の自己紹介が一気呵成にそれを制した。

「僕の名前は轟雷牙といいます。実は、かねてより僕の妹がシーラさんのお世話になっていまして、今日はそのお礼も兼ねて、シーラさんのご自宅に朝ご飯を作りにうかがっていたんです!」

 雷牙……それ、もっのすごく無理のある設定だと思う──…

 雷牙の口走った出任せに、思わず頭を抱えるシーラ。

 断言しよう!

 そんな戯言がまかり通るほど、世の中というものは甘くない!

 いまどきの三歳児にだって、通用するかどうかは怪しいものだ!

 だがしかし……だがしかしである!

 あろうことかこの時、彼女の祖母・松乃は、そんな雷牙の説明をまったく疑うことなしに、さっぱり受け入れてしまったのであった。

「そうですか。それは大変ご足労なことでした。轟さんと仰いましたか? 孫に代わってお礼申し上げます。ありがとうございました」

 にこやかな表情を浮かべながらぺこりと会釈する老婦人の姿を見て、シーラはあんぐりと大口を開けるほか為す術を持たなかった。

 通じるのッ?、という驚きの声が、喉の奥から飛び出しそうになる。

 されど彼女は、自分が驚いてばかりもいられない立場にあることを十分に心得ていた。

 そう。

 これはまさしく千載一遇の大チャンスである。

 望んでも得られないこの好機に乗じなければ、現況を打開することなんてできそうにない!

「そ……そうよ、そうなのよ!」

 いまの流れに便乗すべく、シーラは会話に割り込んだ。

 ぎこちない愛想笑いを張り付けながら、彼女は必死に熱弁を振るう。

「も~、メイのお兄さんったら、わたしがいいって言ってるのにわざわざ押しかけてきちゃってさ。せっかくだからって朝からお風呂の準備までしてくれるのよ。そこまでされたら、わたしが断れきれなくなるのわかってるくせにィ。

 ほんッッと、こんなところ誰かに見られたらどうすんのッ、誤解されちゃうじゃないッ、て感じかな。あはッ、あはッ、あはははははッ」

「ええ、まあ、そういうことでして」

 雷牙もまたにこやかに破顔して、シーラの弁明に追従した。

 しかしその直後、致命的な自爆発言がひょいとその口腔からこぼれ出す。

「実はそのメイさんってひとが誰なのか僕は全然知らないんですけど、よかったら朝ご飯をご一緒に──」

 あ゛あ゛あ゛ァァッ!っという雷牙の悲鳴がその失言を打ち消したのは、次の刹那の出来事だった。

 舌禍による論理の破綻を阻止すべく、彼の太股の裏側をシーラの右手が思い切りつねったのだ。

 百八十を越える雷牙の長身が、棒を飲んだようにまっすぐになる。

「あら雷牙ったら、いったいどうしちゃったのかしら? おほほほほほ」

 しゃあしゃあとそう言ってのけた美少女が、涙目で沈黙する雷牙の意向を一方的に受け継いだ。

 およそ何事もなかったかのような口振りでもって、彼女は祖母を食事に誘う。

「お祖母ちゃん。よかったら、一緒に朝ご飯食べない? わたしたち、ちょうどいまからいただくところだったのよ」

「そうなの」

 孫娘の招待に微笑みながら松乃は応えた。

「では、ありがたく承りましょうかしらね」

 突如として人数が五割増しとなった今朝の食事であったが、なんとも手際のいい雷牙の対応のおかげで、寸分も滞ることなく進められることとなった。

 炊きたての熱いご飯にシンプルな豆腐の味噌汁。

 塩鮭の切り身を焼いたものにTKG(卵かけご飯)用の鶏卵。

 そして、ホウレン草の和え物にたくあんが数切れ。

 そんな純和風すぎる献立が、整然と各々の前に並べられている。

 例によって唯一神への祈りの言葉を詠唱したのち、三名はほとんど同時に箸を取った。

「あら美味しい!」

 上品に味噌汁をひと口すすった松乃が、ふとそんな感想を口にした。

「このお味噌汁、お出汁は鰹節ね」

「枕崎の雄節です」

 目を輝かせて青年は応える。

「それも、芯の良いところだけを使いました」

「まあ素敵」

 どこか嬉しそうな表情で老婦人が雷牙を誉める。

「轟さん。あなた、いますぐにでもいいお嫁さんになれましてよ。この私が自信を持って断言致しますわ」

「いや~、それほどでも」

 照れながら頭をかく宇宙刑事をなんだか不機嫌そうに眺めながら、シーラは音を立てて味噌汁をすすった。

 どうせ、わたしは出汁取りなんてしませんよ、と心の中で不平の言葉を口にする。

 だいたいさァ、男のくせになんでそこまで女子力磨いてんのよ!

 莫迦なの?

 死ぬの?

 男が「いい嫁になれる」なんて言われてさ、素直に喜んでるこの様子ってどうよ?

 まったく、これだから宇宙人って奴は!


 ◆◆◆


 やがて時間が訪れて、夏用のセーラー服に着替えたシーラが「行ってきます!」の声とともに玄関を潜った。

 わざわざ連れだって表に出てきた雷牙と松乃に向かって、「見送りなんていいからッ!」と叩き付けるようなひと言を送る。

 それはいかにも迷惑がってる体を装った発言だったが、放たれた言葉の端々からは隠しきれない喜びの色を垣間見ることができた。

 まったく素直じゃないんだから。

 彼女を見送る松乃の眼差しからは、そんな孫娘を愛しむ気持ちが溢れんばかりに放たれていた。

 九月になったとはいえ、まだ盛夏の趣を色濃く残す今朝の青空。

 降り注ぐ陽光を頭上に浴びる青年と老婦人のうち、最初に言葉を切り出したのは年長である松乃の側であった。

「時が経つのは早いものね」

 ふと、むかしを懐かしむような口振りで彼女は言った。

「もう、あれから十年になるのかしら……まさかもう一度、そのお顔を見ることになるとは思わなかったったわ。あなたは本当にお年を召されないのね、宇宙刑事さん」

「松乃さん」

 ややおいて、その発言に雷牙が応じた。

「僕を……恨んでおいでですか?」

「まさか」

 小さく首を振り松乃は告げる。

「あの結末は、息子と嫁が自らの意思で選び、そして自ら望んで受け取ったものです。たとえそれがどれほどの悲劇をもたらしたとしても、その一事だけをもって他者を責めるというのは、あまりに筋違いな行いでありましょう。

 そうあれかし(アーメン)

 神の下僕しもべたる私どもに許されていることと言えば、ただあの御方がお授けくださった運命を、唯々諾々と受け入れることのみでありますれば」

「……」

「でも──」

 重苦しく口を閉ざす雷牙に向かって、松乃は言った。

「でも、いつか真実を知った時、あのは、私の孫娘は、あなたのことを決して許さないかもしれない。強く強く憎むかもしれない」

「もしそうなれば」

 松乃の言葉に雷牙は応えた。

「僕もまた、その運命を受け入れるのみです」

「そうですか……」

 老婦人の眼差しが、遠く天空を指し示した。

「主は、時としてとても残酷な試練をひとの身にお与えくださいます。その御心が、あまりにも透明でありすぎるが故に」

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