ただただ
ひだりを見上げる
白色の空がやんわりひび割れて
肌色の光が滲み出す
細長く薄い雲のリボンが降りてきて
光の余韻をそろりと包み込んだ
無数に降るリボン
滝壺に向かって流れる水の如く
儚く透けるリボンは
天空から溢れる光のすべり台となって
地上に向かって輝きを落とした
輝きは地上に届かぬうちに
空の彼方でうやむやになる
みぎを見上げる
鼠色の空は荒い息を吐き出し
静かに唸り続ける
生きているものたちの汗が膨らみ
風に絡まって空気はじっとり重くなる
ヘビーな風が吹く
木が震える
葉がどよめく
不安が騒ぐ
雲が空を食べてゆく
わさわさ
どどどど
呼吸が強くなる
雷鳴が空の中を疾走する
たった一枚の空
首を左右に傾け見上げれば
たったそれだけで
色も温度もスピードも音も匂いも
違って
同じ空なのに
違って
急いで帰らないと雨が降るだろうか
いや雨は降らないかもしれない
でも雨はどこに行ったって降るものだし
空じゃないところからも降るものだし
ただただ
空のかたちを見ていたくて
空のようすを知りたくて
ただただ
色の狭間の下に立って
帰りたくないからって
ただただ
わからないくせに
空のまんまを見たくて
ただただ
ばかみたいに
ただただ
空なのに