8* はじめまして異世界
キモ言語人の聖書(笑)改め日記を手に取り、表紙をなでる。
なんだか高そうなさわり心地だが、表紙にでかでかと書いてある『日記』は普通の字だ。
よく見ると下の方に小さく何か書いてある。
なになに…『1年1組 持田海』……まんま日記だなコレ。
これが聖書(笑)扱いされているのか…この持田と言う奴を哀れむべきか、これを祭っているキモ言語人達を哀れむべきか、悩むところだ。
…まあ状況が分かるなら何でもいい。
俺はおそるおそる、緊張のあまりそっとほとんど力を使わないで日記の表紙を開いた。
*
4月●日
はじめまして異世界。おれはよくあるテンプレ、異世界召喚勇者になったらしい。
とりあえず日記に付けておいて、家に帰ったら出版しようと思う。
まずおれの自己紹介だ。
おれの名前は持田海、15歳、この前高校一年生になった。
あと一緒に召喚されたのは源春奈、同じく15歳だ。
クラスメイトだけどほとんど喋ったことは無いから、こいつはおまけだな。
最初に書いておきたいのは、もしかしてこれは転生物かと言う事だ。
だっておれの地球での最後の思い出は、目の前にせまるトラック。
たしか源が引かれそうになって、それを突き飛ばして…ココにいた。
意味分かんね。でも源を見る限り、外見が変わってるとかは無いから多分違う?
とか思ってたら源に、目の色が違うって言われた。
窓見たらホントに目の色違う。おれの目は赤くなっていた。
おれの黒目はこう、なんていうんだ? 宝石みたいな赤になっていたんだ。
いやそこそこ綺麗だけど、自分の顔だと思うと超キモい。
せめて青だろ! と目を見開いたらそのまま青くなった。やべえなにこれ。
分かったのは、おれの顔なら赤の方がましだなと言う事だった。
その時源に呼ばれて窓から目を離したら、そこにいたのはなんか背の高いイケメン。
ほら教会とかでえらそうにしてるヤツいるだろ、そんな服装だった。
ぽかーんと見てたらイケメンは口を開いて…なんか言った。
いや、なんかなんだよ。ここに書くとしたら…そうだな、「グワボロジゲシャー」?
つまり、キモかった。なんかたとえイケメンでもドン引きするキモさだった。
ていうか源がそれに頬をそめて話してるのがまじうぜえ。
なんで言葉分かるんだよ。真剣にキモいだろそいつ。
書くとすると…
「すみません、持田さんは何か混乱してるみたいで…」
「バルメクシェンダイ、シェオルガカシエ」
「そ、そんな…いえ、助かります」
みたいな。字で書くとそんなでもないかもしれないけど実際あったらマジキモいぞ?
普通の女ってやべえな。イケメンなら言葉がどんなにキモくても良いのか。
*
一回日記を閉じる。…すごくこの持田とかいう奴に共感するのは置いておこう。
コイツの時は司祭がイケメンだったのか。ちょっと羨ましい。俺のヤツはカエル似だ。
…いや、ここまで案内させてきた青年Aはそこそこイケメンだったか?
もうあいつが司祭で良くね? なんか信者みたいだし。
ちらっと見ればびくりと肩をすくませる青年Aにため息を吐き、俺は少し考え込んだ。
…冒頭の、『はじめまして異世界』といい、この持田って奴とか、俺や夜坂がファンタジーな世界に呼び出されたのは確定なのか? そんなまさか…信じたくはないが、このキモ言語といい、よく分からない建物や服装と言い、信じるしかないだろう。
持田も日記を出版するつもりだったらしいし、そのくらいの心づもりじゃないと正気でいられないか。
あと目は別に青って訳じゃ無くて、赤とかもあるんだな。変わったってのはどういう事だ?
今の俺の目もどちらかと言えば青い訳じゃ無くて、ダークブルー…藍色だし。
とりあえず、勝手に読む罪悪感はまだあるが続きを読んでみよう。
*
「…なんだてめぇ」
とりあえず源をイケメンから離れさせて、睨み付ける。
青い目でみたそいつの茶色い目は、なんだか余裕ぶっこいててむかついた。
その時おれはここが異世界だなんて思ってなかったから、こいつらをトラックに乗ってた誘拐犯だと思ってた。だから言う通りにならないと軽く脅すつもりで、ばんっと壁をたたいて…ビビった。
おれの拳は壁を突き破った。
いやいやいや、ないないない。
普通の人間がおそらく石でできたなんかごつい壁をたたいて突き抜けるか?
引き抜いた腕がやばいかもしれないと思って見ても、無傷。
むしろ壁がまた崩れた。
源が目に恐怖を浮かべておれから離れた。
正直傷付いたけど、おれも訳が分からない。
壁に開いた穴から、海が見えた。
*
その日の日付はそこで終わっている。
…なんだかヘタな読み物を読んでいる気分だ。
拳が壁を突き破った? 俺がこの建物を歩くだけでも、壁はかなり丈夫そうだった。
石とか煉瓦でできた壁だぞ? 崩せるわけ…しかも拳が無事で済むわけない。
少年漫画かと突っ込んでやりたい気分だ。
だが笑い飛ばそうとゆがめた口は、湿った息を吐き出しただけだった。
「遠君? どうかしたの?」
『ルファー様?』
「……」
俺が思い出したのは、俺がちょっと力を入れただけで壊れた鏡。
もしかして、嘘だろう。まさかそんなわけ。
頭をよぎる否定の言葉を無視して、日記入った木箱を載せてあった、大理石っぽい台に片手を伸ばした。木箱はどけてある。
表面をなでる。滑らかな手触りを確かめた後、人差し指でこんっとたたいた。
まるで粘土を押したように、指の形に大理石がへこんでいた。
いよいよ確信を帯びてくる嫌な予感に、俺は拳を作り、力いっぱい台を殴る。
ドンッ!!
すさまじい音がして、瞑っていた目を開いた俺は肩を落とした。
瓦割のごとく真っ二つに割れた大理石の台が、そこにあった。
そして俺の手は、無傷。
何この剛腕…どこのバトルマンガだよ。
もうもやしとは呼べないな、俺の腕。
俺は自嘲気味な笑いを作ろうとして、失敗した。
文才が無いのが悲しい。
読んでる人、ついてきてますかー。
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