2* しつこい奴は嫌われる
連続投稿です。
夜坂千鶴。彼女の事を少し調べてみた。
と、行っても聞くような友人がいないから、こっそり噂を盗み聞くだけだが。
外見はなんてことない今時の日本人。
地毛の茶髪をツインテールという、頭の高い所で二つにくくった髪型。
あと表情がめまぐるしいぐらいにすぐ変わる。結構かわいいと評判だが俺には分からん。
彼女は一年生のころから…つまり去年から、『クラス全員友達が目標!』と言って…事実それを現実にしている。
クラス全員どころか、彼女は知り合った人たち全てと仲良くなるために動き、芸術選択などで一緒になった根暗男子(凄く親近感を覚える)や卑屈女子(ものすごく親近感を覚える)を友達へと変えている。
おかげでそういう彼女を崇拝するように扱うものもいるとか。
なんて宗教体質女なんだ。恐ろしい。
と、言うかそのまま噂で調査を進めたところ、俺は俺で結構な噂になっていた。
いわく、とっつきにくさと暗さで有名な底辺男子として。
…教師陣も俺のネガティブさに困り果て、教祖女(仮)に改心させてもらおうと同じクラス、ひいては隣の席にセッティングしたとか。
裏では先生たちが『美女と野獣』と呼んでいるらしい。
失礼な。俺は人より慎重な性格なだけだ。
初対面で人を信頼してはいけないと言うのは幼稚園レベルで習うだろう。
俺としては彼女のような人種は正直めんどくさい以前にお近づきになりたくない。
しいて言えば俺は魔王で、彼女は勇者。
窓際教室片隅系男子代表(褒め言葉)として…友達にされたら負けである。
「あー! 日高君っやっと見つけたぁ」
「く、見つかったッ」
ちなみに、現在地は三年生廊下掃除ロッカーの中である。
なぜそこにいるのかというと。
「一緒にお弁当食べようよ!」
「…俺は一人で弁当を食べるこの時間をこよなく愛している」
「一緒に食べた方が美味しいよー」
「ああ、あんたはそうだろうな…だが断るッ! 一人で食べた方が気楽だ!」
と、言うやり取りを教室で繰り返し、さっきから逃げ回っているのである。
まず中庭の植木の陰で見つかり、次に階段踊り場で見つかり、現在地は前述のとおり。
三年生の廊下なら通りにくいからいけるかと思ったのだが…。
この行動力の権化のような女にそれは無駄か!
は、男子トイレに行けばいいだろうと? 冗談じゃない。
何が楽しくて俺が丹精込めて作り上げた弁当を、そんなくさい所に持っていかねばならないのだ。
というかこの女ならそこにも平然と入ってきそうで怖い。
ん、掃除ロッカーも同じだろうと? それは違う。
何せここは俺がちゃんと道具を隣のロッカーに移し終えた、何も入っていない場所だ。
つまりただのロッカーなのだ。汚くない。
「なんでそんなに嫌がるのー? ちづとおかず交換とかしようよ」
「嫌だ。他人の口に入れるために作ったわけじゃない」
「え、日高君って自分で作ってるの!? すごいねー」
…奴の目がキラキラと輝いている。何故だ!
分からないが、いらないところで好感度を上げてしまった模様。ここは…
「あ、飼育委員の先輩がひよこ持ってる」
「え、どこどこッ」
「今だッ」
もやし体力を総動員し、全力で走って逃げる。
さらに廊下の陰に入り込み、追ってきた教祖女(仮)の追跡もかわす。
馬鹿で良かった…ちなみに補足しておくと、俺は見つかった三回すべてをこの方法で切り抜けている。
どうやらあの教祖女(仮)はひよこが大好きなようだ。
ちらっと持ち物を見た限りでは、筆箱消しゴムシャーペンキーホルダーから携帯に至るまで見事にひよこで統一されていた。
さて、次はどこに逃げようか。いい加減俺は弁当が食べたいのだが。
…ここは、『木を隠すなら森の中』作戦で…食堂にでも行くか。
作戦変更。
食堂までの渡り廊下の向こうに茶色のツインテールを発見、思考が読まれていた…?
いや、これまでの行動からしてヤツは馬鹿だ。でなくともアホだ。
誰でも思いつくような俺の思考にしても、思いつくとは思えない。
これは、後ろに頭脳がついているな…なんて無駄極まりない事を…。
物陰に隠れながら、とりあえずどうするか観察しているとその頭脳の正体も見た。
さっき自分で考えていただろう。奴は宗教体質教祖女(仮)なのだ。
「千鶴さま~」
「あ、璃子ちゃんっ」
「千鶴さま、あの日高とか言う男子はどうです?」
「もー、千鶴で良いんだよ! それがね、理緒君の言ってた通りここで待ってたんだけど…来なくてさ」
「ち、千鶴さま…弟じゃ荷が勝ちすぎますっ! 私に任せてくださいっ」
……手下…。しかも今聞いた名前は、璃子と理緒?
前学年の時に有名だった、周りを寄せ付けない『愛澤の双子』じゃなかったか…?
極度の人見知りで、姉弟お互い以外近づけさせないって噂の…。
そんな奴らまで信者と化しているのか! もう奴は教祖女(確定)だな…。
「もう…日高君どこ行ったのかな? 昼休み終わっちゃうよ」
「次はそうですね…中庭、踊り場、上級生の廊下を通りましたから…準備室あたり、探ってみましょう」
了解…俺は、違うところに行かせてもらおう。
いったい教祖女の信者がどこにいるか分からない…人気のない道を最大限に使って、屋上に行こう。
気配を消すことに関して、俺に勝てる奴は…いると思うがとりあえず俺は実用に耐えられるレベルだ!
俺は絶対に、一人で弁当を食べるッ!
……何を、こんなに必死になってるんだろう、俺。
文が雑なのは標準装備。
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4/8 誤字発見修正しました
『正確』→『性格』