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短編もの

呪詛は転じて

シリアス風味に見せかけたほのぼのかと思いきや、

コメディですらない、ただし超展開、下ネタなカオスっぷり。

言ってる作者ですらよくわからない。

「末代まで呪ってやる」


決して楽しい台詞ではないだろうに、

そう告げられた勇者はくつくつくつくつ、

それはそれは邪悪な笑みを。


地面に這いつくばりながら、

せいぜいそんな恨み言しか吐けなかったわらわは、

そんな反応が返ってくるなんぞ思っている訳が無く。


思わず放心するわらわを見て、

勇者は無表情で呟いた。


「じゃあ俺で終わりってこった」

「……何故じゃ?」


急に湧き上がる勇者への興味。

さっきまで命を賭けて戦っていた相手だと言うのに、

わらわは呑気にも尋ねた。

純粋な疑問を抑えきれなかったのである。


わらわはもう抵抗も命乞いする気もなかった。

何百年も生きてるとなあ、自然と諦めが身に付くもんじゃ。

それにもうこれだけ生きれば未練もないんでな。


だが勇者もトドメを刺す様子はない。

ならばここは会話を交わしても良かろう。


「お前は確か王族の末裔だったじゃろう?

 それに顔も良い、魔力も素晴らしい、性格も悪くないだろう。

 ならば女子に困る事などなかろうに」

「……敵をそんな素直に褒めるか、普通。

 あと、俺は性格悪いぞ」

「単に語録が少ないだけじゃ、年齢の割に阿呆なのでのう。

 それにな、性の腐った輩に精霊は懐かん」


ふわふわ、勇者の周りを飛び交うそれを見て指摘する。

その懐きようと言ったら、異様なほど。

素質もあるかもしれんが普段から可愛がっている証拠だ。

弱き者を労れる者が悪い奴なわけがなかろう。


「……あー、語ってもいいか」

「おお、頼む」


わらわが是を示したところ、

男は何やら呪文を唱え始まる。

そして回復するわらわの体。

情けのある奴じゃのお、でもなあ。


「……わらわだけ回復させて危険だと思わんのか、ほれ」


戻ってきた体力のおかげで立ち上がる事ができた。

お返しという訳ではないが、わらわも奴に回復魔法を。

まあわらわはもう殺し合いはごめんじゃがな。


「……あんたも大概変わってるだろ。

 それはともかくな、俺は国に帰れば死ぬんだよ」

「何か呪いでもかかっておるのか?」

「違う違う、親父に殺されんだよ」


思わず瞠目する。父親、といえば国王か?

何故国を救った英雄に対し、そんな仕打ちを行うのじゃ。


「俺は勇者だなんて思われた事がない。

 せいぜい化物ってとこだろう。

 表面上以外は魔物と大差ない扱いなんでな」

「強すぎる故の偏見か」

「そうだな、ガキん時から兵器を見る目だ。

 だから魔王さえ倒してしまえば、

 後は役立たずな危険人物だから処分しちまえってこった」


人間は惨い事をするのお。

魔族は粗暴たる者が多いが、

決して血縁や同族を裏切るような真似はせん。

他種族と争うのも命がかかっている時だけじゃ。


だが人間は自分の欲がままに我らをいたぶる。

勇者の話を聞いて、いっそう嫌悪が増す。

それと同時に勇者には賞賛の気持ちが生まれていた。


恵まれた立場、優れた力、賜った美貌。

優遇された存在であり、多くの恩を得られるにも関わらず、

厭われ、怯えられ、命を狙われる。

それでも有り余る力を使って、復讐などは考えず、

敵であるわらわにも憐憫をかけるほど清い心を保つなど、

相当の聖人でなければ成し遂げられん。


「……そんな目で俺を見るなよ」

「ああ、すまん。

 おぬしを不快にさせるつもりはなくてのお」

「……たぶんさ、

 あんたの考えと違うと思うから言っとく。

 あんたの目、優しすぎて苦手だ。

 合わせるだけで……無性に縋りたくなる」


てっきり視線の中に安い同情を含んでしまって、

勇者はそれを感じ取り、嫌がった。

という考えじゃったんじゃが全くの的外れ。

ふうむ、まさか勇者に優しいと言われるとはのお。

さっきの勇者もこんな気持ちだったんじゃろうか。


「……おぬしは城に戻るのか?」

「どうせ面知られてるしな、どこにも逃げられねえよ。

 別にいいけどな、あんたみたいに強い奴と戦えて楽しかったし、

 最後にまともに話聞いてくれる相手がいて満足だ」


諦めたように笑う勇者。

わらわと話す間に吹っ切れたか。

最初の陰鬱さは欠片ほども見つけられなかった。

だがそれは同時に捨て置けぬ気持ちにもさせたのだ。


「……のお、勇者。

 おぬし、子供は好きか?」

「ん?なんだよ、急に。

 まあ好きだけどよ」

「じゃあ、おぬし、わらわの婿になってみんか?」


仰天か、困惑か、激怒か、

様々な反応を推し量るものの、勇者は違った。

真剣な眼差しをわらわへ向ける。


「……あんたも俺と同じで、

 なんか曰く付きなのか」

「聡い男はいいのお。

 そうじゃ、わらわは大きな問題がある。

 ……子供が作れんのじゃ」


わらわは当に成人しておるが、

夫どころか、恋人すらできたことがない。

それには相応の理由がある。さっぱりモテん訳ではないぞ!


「身籠もるまでは大丈夫なのじゃ。

 だが魔力が強すぎてのお、

 普通の種でできた胎児では流れてしまうんじゃ。

 ……推測じゃがな」


でも歴史上、母親の魔力が高すぎた故に、

死に絶えてしまった赤子は数千に昇る。

おそらく、わらわも当て嵌まるはずじゃ。

なんたって歴代の魔王の中でもずばぬけておる。

よって、どうあがいてもこの性質からは免れんだろう。


「それにわらわの場合、種族が魔兎だからのお。

 一回で3、4匹身籠もる。

 一度間違えれば多くの子供を殺す事になる、

 そうなると試そうなんて気にはさっぱりなれん。

 ……子供は欲しいんじゃがのお」

「……だから、俺が必要だと」


頭部に生えている白い耳を動かしつつ、経緯を話してみた。

ならば、すぐさま勇者はわらわの真意を掴む。

直接的にねだるのはちと恥ずかしいから助かるのお。


周囲の魔族では10人集まっても劣るが、

勇者の魔力はわらわと同等である。

だから勇者が父親であれば、おそらく子は無事じゃ。

子供が欲しいわらわにとっては唯一の希望の星。


「人間が魔王の婿なんぞなったらクーデター起こるんじゃねえの」

「魔族は弱肉強食じゃ。強ければ問題無い。

 反抗分子を作るのは勝手じゃが、弱ければ早々に叩き潰される。

 人間の世界より遙かに単純じゃろう」

「……俺が寝首を狩るとか」

「その時はその時じゃ、天命じゃったという事でお終いお終い」

「……あっさりしすぎだろ」

「わらわとの結婚自体には異論を唱えぬおぬしもな」


うーんと唸りながら、頬をかく勇者。

ほんのわずかじゃが耳が赤いのは見間違いでは無かろう。

こう照れられると、わらわもむずむずしてくる。甘酸っぱいのお。


「あんたがいいなら、いいけどよ……」

「むしろ大歓迎じゃぞ!なら早速祝宴じゃー!」

「……き、切り替え早えよ」


なんて呟きながら、対応する勇者も勇者であろう。

最初の笑みとは違う、優しげな微笑みを浮かべ、

勇者は名前を教えて欲しいと呟いた。




元々の相性も良かったんじゃろうが、

勇者……キースもよう頑張ってくれたからのお。

わらわは早々に身籠もった。


心配していた流産の傾向もなく、子はすくすく育っていった。

臨月となった今、3人はいるであろう腹は物凄い大きさである。

腹の中で毎日毎日元気に暴れ回っておる。

健やかなのは良い事だが、正直、元気すぎではないか……。


「こらこら、母親はもうちょっといたわらんか……」

「……辛いか?」

「そうじゃのお。

 好物の林檎でも食べれば少しは楽になるかもしれん」


もちろん冗談だが、無言でキースは林檎をむき始める。それも兎型に。

同族食らいではないか!と最初は思ったが、今はこれでないといかん。

むき終われば、口元へと運ばれる。それをわらわは遠慮無く食らう。


「やはり美味いのお」

「なら良かった」


髪をゆるゆると撫でられる。

これでもわらわはこやつより随分年上なんじゃがの。

不思議と悪い気はせんから止めんが。


続いて手は腹を優しくさする。

おなかの我が子を見つめるその目は慈愛に満ちていた。

それを見て、わらわはついつい口にしてしまう。


「のお、キース」

「なんだ、ベルティーナ」

「どうしても言いたかったんじゃ。

 怒らず聞いてくれ」

「……俺のおやつでも盗み食いしたのか?」


何故知っておるのじゃ!

って違う違う、それもあるがもっと大事な事じゃ。

むむむ、言うと決めたものの、なかなか勇気がいるのお。

キースは懐の広い男じゃが今度こそ怒られるかもしれん。

深呼吸で心を落ち着かせ、一気に吐き出した。


「わらわのお、キースが好きじゃ」


体を重ねた事で情が湧いたのかもしれんが、

それ以上にこの男の優しさに惹かれた。

自分から利益的な結婚を持ちかけておいて、

恋愛感情を抱くなど、とんだ間違えだとは気付いておる。

けれど、隠したまま過ごせるほど器用ではない。


「……知ってる」

「な、何故じゃ!」


さらっと衝撃の発言。

思わず訴えれば、キースは恥ずかしそうにそっぽ向いて。


「そりゃあ……なあ、散々言ってたし。

 ……そのー、夜に」

「なんじゃと……!」

「……無意識だったのか」


だってそんな事言われても覚えておらんもんはおらん!

すぐどろどろにされるんじゃ、お前の手でな。

最中の事なんぞ記憶にないわ!そんな事言わせるで無い!このすけべめ!


「自分ですらわからないって事は、

 俺が言ってるのもわかってないんだよなあ……」

「む?」

「あー……と、俺も、ベルティーナがす」

「あだだだだだだだだ!!」


キースの目が見開かれておるが、気にする余裕がなかった。

突如襲いかかってきた痛み。ぶわーっと脂汗。

感じた事のない激痛に呼吸すらうまくいかず。


「え、何?!どうした?!」

「う゛、生まれる……」

「ちょ、ま、待て待て待て!!」




と、まるで空気を読まない陣痛のおかげで、

わらわはキースの告白を聞けずじまいになってしもうた。

ぐぎぎ、くやしいのお!くやしいのお!

絶対にいつか言わせてやるのじゃ!


あと子供は無事に生まれたぞ。

その後もぽこっとできた、さすがわらわ獣だけあるな。

もちろんキースの愛もあってこそじゃが!


「……そういえば、確かにキースで言う通りじゃのお」


ふと、キースとのきっかけになった言葉を思い出す。

末代まで呪ってやると。それにキースは自分で終わりだと。

で、結局わらわは呪えずじまい。

当たり前じゃ、何が嬉しいて愛するわが子をいたぶらねばならん!

愛しい夫にとて嫌われる真似なんぞしとおないわ!


「まあ魔王らしい事をなんとなく言ってみただけじゃし、

 今更気にする事でもなかろう」


万が一浮気でもしたなら、その時は呪いじゃすまんがの!

くくくと黒い笑いをこぼすが、想像してちょっとへこんだ。

あ、あやつはそんなことするような男ではない!


「ベルティーナ、おやつできたぞー」

「おお、今行くからのー!」


落ち込んでいた気持ちは夫の声にさっぱり消え去る。

おお、今日はアップルパイみたいじゃの!良いにおいじゃ!

思わぬ大好物。足取りも軽くなる。

そしてわらわはうきうきと夫の元へ向かっていった。

別の魔王シナリオが鬱過ぎてアホなのが書きたくなってしまった。

キースさんは人間だけれども、その桁外れの強さのおかげで

魔族世界の方がべらぼー住みやすかったそうな。

子供はたぶん20人じゃきかないんじゃないかな!ハハッナカヨシダネ!

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― 新着の感想 ―
[良い点] こんにちは。 楽しく読ませていただきました。 [気になる点] 誤字の報告です。 「じゃあ俺で終わりってこった」→ 「じゃあ俺も終わりってこった」 では、ないでしょうか?
[一言] キースくんが幸せでよかったです。 勇者もいろいろ事情があるのね? 魔王と勇者が夫婦なんて最強の子供ができそうな・・・・
[良い点]  むしゃくしゃしてやった。  後悔はしていない。でしょう......。  面白かったので。  後、  くやしいのお!くやしいのお!(リア充の勇者に対する嫉妬的な意味で) [一言]  本格…
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