間違いのま違い
もしもこの道を行くと良いことが無い、間違った道である。
それが分かったら、アナタは、どうしますか?
「あ、ヤバい、またミスった」
これで四度目。まさかまた同じ間違いをするとは思わなかった。
「あはは、とーまちゃんへただね〜」
隣で、オレの間違いを見て笑った。
「うっさいぞ、和花」
そもそも、『ふぇ~ん先に進めないよ~。助けてとーまちゃ~ん』とか言って家に泣きついてきたのはお前じゃないか。
「えへへ~」
さっきの泣き顔からは予想出来ないにこにこ顔だ。
はぁ……あぁなったら何とも言えないじゃないか。
……とりあえず、なんやかんやほぼ毎日家に来る和花が今日持ってきたのは、ちょっと古めのテレビゲーム。基本的に和花が出来ずに持ってきたものはオレがやるとあっさりと出来てしまうのに、今日のコレはそうはいかなかった。
しかも、毎回同じ場所でミスる。それは間違いだと気付いているのに、どうもその選択をしてしまうんだよな。
「あれはま違いだってわたしでも知ってるよ? なのにとーまちゃんまた同じま違いしてる~」
「うぐ…」
うわ、今のはかなりショックだ。
後こいつ、なんか間違いの言い方が変だ。なんか、ま違い、って聞こえるんだよな。
「お、オレが悪いんじゃないぞ? この分かりにくい間違いがいけないんだ」
古めのゲームだから絵が荒くて分かりにくいんだ。
「絵のせいにするなんてとーまちゃんらしくな~い」「そうだそうだー」
「うぐ…」
今のもかなり……?
「……ダレだ?」
今、和花以外の声ではやし立ての声が聞こえたような気がしたけど……
「どうもお邪魔してまーす♪」
声のした方を見ると、知らない人が座っていた。
「どちらさまですか~?」
和花が訊ねる。
「おや珍しい、私の名前を聞く人なんて幾人ぶりだろう。おっと、名前だったね」
女の人は、被っていた帽子を取って胸の前に持っていき、頭を下げた。
「私の名前はメイコ、楽しい楽しい迷路へご招待する案内人で〜す♪」
頭を上げながら帽子を被り直して、笑った。
「迷路?」
一番気になった言葉を聞き直す。
「そ、どうやらキミ達は間違いを繰り返しすぎて、もう間違いなんてしたくなーい、って思ってるようだね?」
? そりゃ確かにゲームでミスりまくってるけど、そこまで思っては……
「そうなんだよ〜」
の、和花?
「さっきからぜんっぜん進めないんだよ〜」
「そんなアナタ達にはーーコチラ!」
女の人が取り出したのは、
「……コンパス?」
方位磁石、コンパスというやつだ。
「間違いを正す方向を示す特別品でね、このコンパスに従えば間違えることは無いんだよ♪」
コンパスが和花の手に置かれる。
「ただし一つだけ条件、というか欠点だけど、たまーに壊れるから、その時には―――――――気をつけてね♪それじゃあね〜。お邪魔しました〜」
女の人は去っていった。何故か、窓から。
「……何だったんだ? 今の人」
急に現れて、間違いをしたくないよねとか聞いてきて、コンパス置いていって、最後には窓から出ていった。
泥棒、じゃないよな? 盗るどころか置いていったし。
「ねぇねぇとーまちゃん、さっそくコレ使ってみようよ〜」
「いやちょっと待てよ和花、そんなの信じるのか?」
「だってあの人言ってたでしょ〜? きっとだいじょうぶだよ〜」
コンパスがテレビに向けられる。
「さぁとーまちゃん、これでもうま違えないよ」
「……」
まぁ、試しに一回使ってみるか。
ゲームをスタート。初めはもう五回目というのもあり順調だ、ちょっとした難関も、もはや難とは感じない。
そして、そこへ来た。
「コンパスはどうなった?」
「えっとね」
和花と共にコンパスを見ると、
「な……何だコレ…」
コンパスの中にある針、本来北を指す赤い先が、ゲーム画面の一点を向いていた。
「こっち、てことか?」
向いている方向の道に進んだ。
無数に別れた道、それが和花が泣きついてきたゲームの最難関だ。
ただ、ここへ来る前に抜ける為のヒントがもらえるのだが、それを信じると、必ず間違った道に行ってしまっていたんだ。
「今度はこっちだって」
「こっちか?」
コンパスの針が動き、そちらへと動かす。
右に行ったら右
左に行ったら左へ
逆を指したら逆送し
真っ直ぐなら真っ直ぐ
そして……
すると、
「お…?」
「やった〜ゴールだよ〜」
今まで見れなかったGOALの四文字が画面に浮かび上がった。
「このコンパスすごいね〜」
和花がコンパスを拾ってこちらに見せた。
「そう……なのか?」
なんかいまいち信じきれないんだよな、多分無くても何とかなった気がするし。
「そうだよ〜、すっごい物もらっちゃったね〜」
「ふぅん……じゃあそのコンパス、和花が持っておけよ」
オレより使い道あるだろうし。
「いいの~? とーまちゃんありがと〜う」
コンパスを握りしめる和花を横目に、オレはゲームを続けた。
さっきの道のヒントが書かれた看板が置かれていた。
ヒントは、こうだ。
裏返した板の、裏が示す方向に進め
つまり、裏の、裏を見ろ。というヒントだったんだ。
それから、一年が経った。
あのコンパスのことをすっかり忘れるには、必要以上の年月が、経った。
「楽しみだね〜とーまちゃん」
「いい加減その呼び方やめろよ、和花」
もう中学3年でちゃん付けは恥ずかしいんだよ。
「え〜? とーまちゃんはとーまちゃんだよ〜」
「……」
ダメだ。なんて言っても絶対変えないな、これは。
仕方ない、諦めるか。
それに、今は修学旅行のバスの中だしな、そんな事気にするのがダメだ。
「……楽しみ、だな」
「そうだね〜。あ、そうそうとーまちゃん。これ見てよこれ」
和花がポケットから出したのは、
「? コンパスがどうしたんだ?」
「覚えてないの〜? コレはあの時の…」
その時、
キキーーーッ!!
車のブレーキ音。それが乗っていたバスのものだと気付いたのは、前へと押し出された感覚で分かった。
「うっ!?」
「きゃあ!?」
前の席にぶつかる頃には、バスは完全に止まっていた。
「な、なんだ? いったい」
バスの中がざわざわと騒ぎ出す。そりゃそうだ。急ブレーキでバスが止まればこうなる。
すると、バスの運転手の声が聞こえてきた。なにやら会話している声、電話しているらしい。
「はい…何故か道が…はい…えぇ、2つに別れて…」
道が2つに別れた? ただのY字路じゃないのか?
「あ…」
急に、和花が声を出した。
「和花?」
見ると和花の手に置かれるコンパスが、赤い針が左の方に向いていた。
おかしい、北はそっちじゃない。
「……」
和花はコンパスを握ると、席を立って前へと駆け出した。
「ちょっ、おい和花!」
オレは慌てて後を追った。
「こら新谷! 角無!」
先生の声が聞こえたが、和花は気にせずバスの運転手へ駆け寄った。
「左へ! 左へ行ってください!」
運転手にコンパスが示した方向へ行くように言ってる間にオレが辿り着く。
「おい和花! お前何言ってんだよ!?」
「だって! このコンパスがそう示してるから!」
コンパス? 和花が持ってるそれは確かに左を指しているが、
「何でそのコンパスが関係あるんだよ」
方位磁石ってのは東西南北を示す物で、正しい道を示す物じゃないだろ?
「でもコレはそういう物なんだよ! とーまちゃん覚えてないの? このコンパスのこと」
コンパスを差し出される。このコンパスが何だって言うん……あ
そうか、思い出した。
このコンパスは、一年前にもらった物だ。
そしてその時、オレは……
「思い出した?」
「……あぁ、思い出したよ」
「だったら…」
「いや、それじゃダメだ」
「どうして…? だってこれは、ま違いを教えてくれるんだよ? もらった時からもう何回も使ってるけど…」
「違うぞ和花、この示すのは、間違いだ」
「え…?」
その言葉に、和花は目を丸くした。
「ど、どうして…?」
「オレ、思い出したんだ。そしてあの時、オレは…」
オレ達を乗せたバスは
右の道へと進んだ。
「……だいじょうぶなんだよね? とーまちゃん?」
「あぁ、あの時にな…」
コンパスに従ってゲームを進めていた時、最後の最後の道で、オレはあの人が言っていた言葉を思い出した。
ただし一つだけ条件、というか欠点だけど、たまーに壊れるから。
たまにの程度が分からなかったから、オレは最後の時、あえて示す方向の逆を行ったていた。
そうしたら、ゴールだった。
つまり最後の時にあれは壊れていて、間違った道を指していたんだ。
それから使っていた和花も、何故か良い方向には進んでいなかったらしい。
でも今度こそは、という気持ちで、針が動く度に和花は使い続けていたらしいが。
その時から、壊れていたんだとしたら……
「おめでとーう!」
「!?」
急に、目の前にあの女の人が現れた。周りの雰囲気的に、オレ達にしか見えていないようだ。
「い、いったいどこから?」
「細かいことは気にしなーい。それより、よくぞコンパスの故障に気づいたね」
「あ、あぁ…」
「でも、まさかそれに従わないなんて思わなかったよ。―――――――――ちぇ、また迷い人が増えると思ったのに……」
後半がよく聞こえなかった。
「何ですか?」
「ううん。こっちの話、まぁとにかく、もしあの場所でコンパスに従ってたら、奈落の底へまっ逆さまだったんだよ」
「なっ…?」
「そ、それじゃあ…」
「うん♪キミ達は見事、ゴールについたんだよ♪」
ゴールって……まさかオレ達、あの日から迷路の中に居たって言うのか?
「そっかあ〜良かったね、とーまちゃん」
「……あぁ、そうだな」
「それじゃあね2人とも、本当の意味でのゴールまで、お幸せに」
そう言うと、女の人は消えてしまった。
本当の意味でのゴール? それっていったい……
「……何だったんだろうね、あの人」
「さぁ……でも、ちょっと勉強になったんじゃないか?」
「勉強?」
「あぁ……間違いも、全部が悪いものでもないんだな、って」
間違いを示している方向の逆に向かう。
裏返した物の裏、みたいなことだ。
裏の裏が、表のように。
間違いの、ま違いは、正しいことなんだ。
この「迷い路話」は、珍しくハッピーエンドとなっています。
間違いではない道を示しくれるコンパス。それが壊れると、必ず間違いを示すコンパスになってしまう。
そんなものがあったら、アナタなら、どうしますか?