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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
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【短編ホラー】破裂

作者: 山菜おこわ
掲載日:2026/07/22

人は無意識に、意識していないと思っていたとしても、幻覚や聴覚、何らかの形で広いあげていることがある。

怖いのは”霊”的なものだけじゃない。



「-でさ~やっぱりあいつ馬鹿じゃね?」


「ん?あぁ・・・・・・」


「おいおい、聞いてんのかよ」と机を挟んで目の前の男はため息混じりに不満をこぼす。


「お前最近ぼさっとし過ぎな」


「いや悪い悪い。で、なんだっけ?」


「マジかよ。本当に聞いてなかったってw。ちょっと彼女ちゃんからも説明してあげて笑」


笑いながら目の前の男-木里(キザト)は、その名の通り軽い調子で俺の隣に座る彼女に話を振る。

隣の彼女-弥生(やよい)に目を向けると、弥生は俯きながら、木里に目を向けることなく、既に飲み干したストローから飲み物をズズズッとすすり続けていた。


「無視w。相変わらず弥生ちゃんは厳しいねぇ笑」


「弥生はお前みたいなのに興味ないって。な?」


そう聞けば、弥生はこくりとだけ小さく首を動かして頷いた。

普段から俺以外とはあまり喋らない物静かな彼女なのだ。仕方ない。

最近は俺とも喋る回数が減ってきた気がするが。


「ひでぇ笑。で!でっ!?お前今日はどーすんの?」


「今日はって?」


「さっきの話だよ!マジで聞いてねぇなんて最近おかしいって。ほら、前から話してた近場の心霊スポット。行こうって話だったじゃん」


「前から言ってた○○かぁ。えーっと・・・・・・」


俺は渋り、ちらりと弥生を見やる。弥生は俯いているせいで髪に顔が隠れて表情が伺えない。


「いやぁ~・・・・・・どうしよう」


俺はまた答えを出せずに、縋りつくかのように弥生に視線を向ける。


「なんだったら弥生ちゃんも来たらいいんじゃね?」


それに気付いた木里はそう提案する。


「いや、弥生はまじで俺たちのようなメンツには合わせたくないっていうか・・・・・・まぁ、申しわけないけど、今日は止めとこうかな」


俺はたらりと冷や汗が流れるのを感じ、誤魔化すように手を頭の後ろに回して触る。


「は?おまえ前もそう言って来なかったじゃん」


ぴしゃりとさっきまでの空気とは一変、木里は真顔で俺にズイっと顔を寄せる-まずい。

ピクりと、木里の額にうっすらと筋が浮かぶ。


「最近ノリ悪いよな、お前。ってか約束も守れねぇならすんなよ」


「あー・・・・・・」


俺はぐるりと視線を逃して隣の弥生に助けを求める。

相変わらず俯いている弥生の表情は見えないが、両膝に置かれた小さな拳がぷるぷると震えるくらいに握りしめられているのが見えた。


「いやぁ~冗談だよ冗談。行くよ。弥生と二人で。前断っちまったし当たり前だろ」


「おぉ!さっすが腐れ縁笑」


さっきまで真顔だった木里の顔には満面の笑みが張り付き、重い空気が消し飛んだ。


ピシッ-。


「?」


まるで何かに硝子にヒビが入ったような音が聴こえる。

咄嗟に目を配らせるも、その原因たるものは見つからない。


まただ-


「?どうした?」


俺が訝しげに眉間に皺を寄せているのをみて、木里が首を傾げる。


「いや、なんでもない」


その後、三人ファーストフード店を出た。


「じゃ、十時、俺ん家で待ってっから!」


そう懐っこい目を輝かせて手を振ると、木里はくるりと回って一人歩き始め、すぐにスマホを取り出して電話を開始する。

十中八九今日行くメンバーへの電話だろう。忙しそうだ。


俺は木里が角を曲がって見えなくなるのを確認して、ようやく込み上げてきていた溜め息を漏らした。


「・・・・・・悪い。また行くことになった」


俺が言い切ると同時に弥生は一人で歩き始める。俺は咄嗟に歩いてすぐ弥生に歩調を合わせる。


「なんだよ。怒ってるのか?」


返事はない。ただ歩く速度が上がった。


「あいつ昔っから怒ると手が付けられなくてさ。さっきの顔見て弥生も分かっただろ?」


俺は普段から弥生を優先しているつもりだ。だが断れない理由もあると分かってもらう為に、今日弥生も一緒に連れていったのだ。


「前回は弥生を優先したから仕方ないだろ?」


そこでようやく弥生は足を止めた。


「・・・・・・前回って、昨日の事?」


弥生の声を今日初めて聞いた気がした。

その声は小さく、何事か聞き取り辛かったが、髪から覗くギロリとこちらを睨みつける瞳に怒っている事は把握した。


「そうだよ。だから今回はあっちを優先してあげなきゃだろ?」


しかし言葉を言い終える前に弥生が喋りだす。


「そう。それって”何回目”なの?」


「え?」


「聞き方が悪かった、ごめん。今週何回目?」


俺は指折り数えて言葉を紡ぐ。


「四回目かな。まぁでも一週間に四回なら少ない方なんじゃないかな」


ピシ-。


またしても何かにヒビが入るような音が聞こえる。毎回辺りを見渡すも、そのような事が起こった様子はどこにも無い。

そもそもその音は頭の中で響いている気がする。


「ねぇ、もう学生じゃないんだよ?私たち二人暮らしなんだよ?」


弥生は必死の形相で訴えかけるように迫るも、それ以上唇を噛んで閉ざしてしまう-まずい。

先ほどの木里と同じく弥生も冷静じゃない。

なんとかして宥めなくては。


「分かってるよ。だから遊ぶ回数は減らしたじゃん」


「減らした?減らしたって何?一週間の全部遊び呆けていたのを四回に減らしたって言いたいの?」


弥生の声は荒く、段々と大きくなっていく。

まるでずっと推し留めていたものが限界を迎えて溢れているように。


「もう付き合って四年。そろそろ結婚の為にお金貯めてよ」


「どうしたんだよいきなり。落ち着けって。お前らしくない。ほらここ人通り多いし他の人に迷惑かけちゃうよ?」


ピシィッ-。


最近の中では一番大きく弾ける音が耳を劈く。

耳を塞ぐ程じゃない。それでもその音を聴くとなぜか顔が嫌悪に歪んでしまう。


「-ったく、なんなんだよッ」


思わず叫ぶ俺に弥生はビクッと肩を震わせる。


「な?とりあえず落ち着こ?お互いに。深呼吸しようぜ」


彼女はついに俯いて黙った。まだ肩で息を切らすも自分はいま冷静じゃないと気付いてくれたようだ。


未だに硝子が割れる音が俺の頭で響いて嫌悪感が増して、更には頭痛のようにズキりと痛む。俺は掻き消すように、違うことを考えて気を散らす。


「深呼吸したらちょっと落ち着いたろ?」


返事はない。まぁ最近こんな調子だから俺は構わず話し掛ける。


「ったく、考えすぎなんだよ弥生は。お金も貯めてるじゃん。一ヶ月に一万くらいだけど」


「ははっ」と笑いながら話すも、弥生はクスリとも笑ってくれない。最近愛想がない。

ここ数ヶ月こんな感じだ。本当にどうしたのか。


「なに?もしかして浮気?他に気になる人とか出来ちゃった?それなら俺悲しいんですけど」


チラッと髪の隙間を覗くも、俯いて暗い彼女の表情は見えない。ちょっとは首振ったりとかして違うとでも言って欲しい。


「まっ、んな事思ってないし。弥生がそんな子じゃないって知ってるから」


ポンっと肩に手を置くも反応がない。

前なら「やめてよ~、恥ずかしい」とこんな人がいる所では照れ隠しのように手を払いのけたのだが。


何かが割れる音が連鎖するように響く。

それと同時にズキズキと痛む頭は痛みを増す。なんなんだよ。


「そろそろ反応してくれないと寂しいって」


俺が顔を覗き込む。ギョッとした。

弥生は目をひん剥いて何事かをぶつぶつ呪詛の様に呟き続けている。


思わず俺は離れると、どうしてそうなったのか理解した。


「あ、わかった。寂しかったんだよな?構っくれなくて寂しかったんだろ?」


もはやこの数ヶ月通例のごとく返事はない。


「なら今日一緒に行こ?それなら寂しくないだろ?」


再び弥生の肩に手を置く。


「な?」


「ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ッ!」


弥生は絶叫した。

驚いた俺は咄嗟に耳に塞いでしまった。


肩から手が離れた瞬間、弥生は弾かれたように車道へと走り出す。

ほんの一瞬の出来事だった。


バンッと、今度は車と何かが接触した音が周りに響いた。

次に耳を劈くブレーキ音。クラクション。

後方の急に止まれなかった車は、止まった車に突っ込み、またしてもブレーキ音とクラクション。おかげで車は押し出されて、弥生を乗り越えるように車のタイヤが乗り上がった。

弥生はタイヤの下敷きとなった。


「え-?」


なにが起こっているんだ-?

俺は頭の中が真っ白になった。


「なんだ、これ・・・・・・」


弥生を踏みつけた車の運転手は叫び、慌てて車を動かす。グシャッと、嫌な音が辺りに響いた。

頭が潰れた音だった。


周りからざわめきが起こり、次第に誰かから上がった悲鳴が連鎖して阿鼻叫喚の地獄絵図と化す。


誰かが「きゅ、救急車!」と叫んでいる。

「逃げたぞ!」と車の写真を撮ろうとする者。

潰れた彼女の写真を撮ろうとスマホを取り出す奴もいる。

俺はようやく状況を理解した。


彼女が、死んだ-。


瞬間、さっきまで石のように硬かったものが、風船のようにパンッと儚く割れる音をはっきりと聴いた。

今回の”音”は、人の心が壊れていく様を書いてみました。(下手くそですみません)

主人公は彼女の心が壊れていく音が聴こえない。そもそも壊していた事すら知らずに傷つく言葉で語りかける。

本当に怖いのは、相手の気持ちを知らないまま接する事なんじゃないかと。ふと浮かんだ題材を今のイベントに合わせて作ってみました。

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