推しの条件
「「ありがとうごさいました〜!!!」」
声を揃え一斉に頭を下げ、今日の公演も熱狂と興奮の中終わった。
「すいませ〜ん!次握手会あるんで、移動お願いします!」
スタッフの掛け声を聞きながら軽く汗を拭き、疲れた体を引きづりながら会場へ向かう。
「ライブ後の握手会とかマジ鬼だよね」
「あぁ〜!わかる!たまにヲタの手が汗でネチョネチョしてるから、握手したくないんだよね!」
など、他のメンバーは口々に文句を言いながら歩いている。まぁ、ファンも所詮作り物の私たちを見てあーだこーだいう存在。旬を過ぎれば簡単に乗り換える。期待しちゃいけない。しかし私はその悪口大会に入る元気すらなかった。
すると後ろからポンと軽く肩を叩かれ
「お疲れ様です、ルナさん!あともう一踏ん張り!頑張りましょう!」とアサヒがステージと同じ笑顔で私を励ました。
さすが現ナンバーワンセンター。裏でも表でも変わらないからどんどん人気になってるんだろうね。それに比べて私はこんなに卑屈だから、きっと人気が低迷してきてるんだろうな…。
メンバーはそれぞれの個室ブースに入り、ライブを見てくれたファンを待ち構える。
やっぱりアサヒのブースは賑わってるな。隣のせいか楽しそうな声まで聞こえてくる。
「ルナちゃん!もう少しでお客さん入ってくるよ!いつものスマイル、スマイル!」
スタッフさんに鼓舞され、私はいつもの能面をつけたようなアイドルスマイルでファンを迎えた。
一人一人と向き合い、握手しながらライブの感想を聞くのは楽しい。だけど「あれ?あの人もいない?」とどうしてもよぎる瞬間がある。
不安を笑顔で隠し、私は最後のお客さんを迎えた。
「あぁ〜!ルナちゃん!お疲れ様!今日も最高だったよ!!!」
私をデビュー当時から応援してくれてる『たぬきち』さん。毎公演来てくれて、いつも私の色、紫のサイリウムを振ってくれている。
心が綻んだのか、たぬきちさんと話してたら突然涙が出てきた。
もちろんたぬきちさんは驚き「ルナちゃん!?どうしたの?」と心配そうに私の顔を覗き込む。
「あはは。ごめんなさい。最近疲れてるのかな?たぬきちさんの優しさに泣けちゃって」
するとたぬきちさんはグッと唇を噛み、まっすぐ私を見て言った。
「俺はどんなことがあっても、これからもルナちゃんだけを応援するから!ルナちゃんが俺のナンバーワンだ!」
そう言うと、予定時間を過ぎてたのだろう。
剥がしの人がたぬきちさんを引っ張っていき、会場を後にした。その間も「ルナちゃん、大好きだよ〜!」と叫んでくれた。
全てを終え、家に帰り恒例のエゴサを始めた。
相変わらず「アサヒ最高」の文字が並んでいる。もうそんなことでは傷つかない。
するとふと目に入った投稿があった。
ハンドルネームは「raccoon dog」
確か日本語では「たぬき」のはず…
恐る恐るその内容に目をやると
『今日もルナのとこ一応並んだけど、情緒不安定すぎてちょっと萎えた。やっぱ今はアサヒだよな〜』
私はこの瞬間、手が震えスマホを床に落とした。
ーーわかってたはずなのに…




