ゴッド・オブ・ウォー
「門を閉じろ! 死守せよ!」
司令官の咆哮が、戦場の喧騒を切り裂いた。
城門の前は、まさに地獄だった。蒸気と歯車が軋む重機械を担ぐ兵士、岩を砕くほど巨大な鎚を振るう男たち。彼らが「鉄の洪水」となって門へ殺到する。
その壁の向こう側からは、黒い甲冑に身を包んだスカーテーションの騎馬兵が、死の塵を巻き上げて迫っていた。
「くそっ、スカーテーションの犬どもめ……!」
司令官は巨岩の上に立ち、深紅のマントを風に翻らせて剣を抜いた。その刃先が敵軍を指すと同時に、半数の兵士が門の防衛に回り、残りが黒い矢の雨の中へと突っ込んでいく。
「剣を掲げろ! 我が家のために、神々のために! 奴らを膝を屈させろ!」
だが、その勇壮な叫びも、城内の路地裏に届く頃には絶望的な悲鳴へと変わっていた。
第二章:地下室の沈黙
石造りの古い家。その暗い一角で、ルイは震えていた。
パチリ、パチリと蝋燭が爆ぜる音だけが、外の地響きを忘れさせてくれる。
「ルイ、しっかりして」
金髪のブランシュが、翼を象ったペンダントを握りしめ、震える声で囁いた。傍らでは、青髪のオルティヴァが窓の外をじっと見つめている。彼女の赤い瞳には、燃え上がる街の火が宝石のように映り込んでいた。
「門が落ちるかもしれない……」ブランシュの言葉に、ルイは首を振った。
「そんなこと言うな。誰かが、やらなきゃいけないんだ」
その時、ルイの手の甲に激痛が走った。
皮膚の下を金色の細い糸が這い回るように、紋章が脈動を始める。
「ルイ、またその手が……!」オルティヴァが目を見開く。
「なんでもない、ただの傷だ」
「嘘よ! それは高門の紋章……神官たちが封印した『英雄核』と同じじゃない!」
ルイは答えられなかった。否定したかった。自分はただの生き残りだ。神の器などではない。
しかし、彼の意志に反して、光は溢れ出した。窓をガタガタと震わせ、狭い部屋を黄金色の輝きが支配する。
「神様が見てくれているなら、こんな戦争、もう終わっているはずなのに」
ルイは自嘲気味に笑った。
「もしテストだっていうなら、不合格だ。何世紀もな」
第三章:戦模
爆発音が響き、家が大きく揺れた。門が破られたのだ。
三人は外へ飛び出した。そこには、鋼の嵐が吹き荒れていた。
「ルイ、危ない!」
スカーテーションの騎兵が、血に濡れた槍を構えて突進してくる。
時間が、スローモーションになった。
心臓の鼓動が耳元で鐘のように鳴り響く。手の甲の印が、白熱する。
「動け……動けッ!!」
ルイが二人を突き飛ばした瞬間、空から銀の閃光が降り注いだ。
月光を宿した槍が騎兵の喉を貫き、大地を凍らせる。
煙の中から現れたのは、銀の三日月甲冑を纏った「月牙前衛」たちだった。
「束星の刻印……。予言は真実であったか」
先頭に立つハントレスが、冷徹な瞳でルイを見つめる。
「ルイよ。汝はアルテミスに選ばれし器なり」
だが、再会の喜びを味わう暇はなかった。背後から、溶岩のような熱を帯びた黒い大剣が迫る。スカーテーションの司令、ドラーVosだ。
「神の犬どもが……! まとめて灰にしてくれる!」
猛炎が渦巻き、視界が赤く染まる。ブランシュとオルティヴァの叫びが遠のいていく。
ルイの胸の奥で、何かが千切れた。悲しみ、怒り、そして拒絶。それらが混ざり合い、臨界点を超えた。
『悲しみの子よ。苦痛は終わりではない。誓いと共に目覚めよ』
頭の中に、慈悲深くも冷酷な声が響く。
「アルテミス……力を貸せ!」
世界が砕けた。
重力が消失し、周囲の瓦礫が浮遊を始める。ルイの体は眩い光に包まれ、その姿を「戦模:クロトス」へと変えていく。
背中には純白の三日月翼が輝き、瞳は星々の輝きを宿した。
「神々に、戦う意味を思い出させてやる」
ルイが剣を振り下ろすと、黄金と銀の雷鳴が天を割り、戦場を白紙に戻した。
それは、神々と人間が共に血を流す、新たな神話の始まりだった。




