影の子
町の中心部を抜けると建物がまばらになって、畑の景色が広がっている。
人通りも少ないその辺りに差しかかったところで、リカードはカイリスの横に並んで荷物に手を差しのべた。カイリスは慣れた様子で肩に担いでいた大きな荷物をリカードに渡す。二人はそのままひと言も話すことなく、それまでと同じようにリカードが前に立ち、その影にカイリスが隠れるような位置取りで歩みを進める。
サーディは二人に挟まれるように歩いていた。
試しに少し歩調を緩めてみると、カイリスもその分遅くなる。カイリスはサーディの半歩後ろをずっと保つようにして歩いていた。ずっとうつむいていて、何を考えているのかわからない。
王都の方面に向かう乗合馬車が、砂埃を上げながら三人を追い越して走り去る。
リカードは途中の分かれ道で、馬車が走り去った道とは別の道に迷いなく歩みを進めた。
「聖都に向かうんじゃないの?」
馬車の走り去った方向を振り返って、サーディはリカードに尋ねた。
昔孤児院に来た貴族が「大司教の審査を受ける資格がある」と言っていた気がする。サーディが男であると知った途端に興味は失われたようで、その時は王都に連れて行かれることもなかった。
今思い出しても身震いがするくらい嫌な雰囲気の人物で、それ以来サーディはなんとなく聖都という場所も恐ろしい場所のような気がしている。
「いずれ向かいます」
振り返って、リカードはサーディに笑顔を向けた。
リカードはサーディに顔を向けるときは笑顔を絶やさない。大人の処世術というやつかなと思う。同時に、なんだか仮面みたいだと思った。
太陽が真上にさしかかるころに、街道から少し外れた木陰で「休憩にしましょう」とリカードが言った。荷物を下ろすとカイリスは水だけを受け取って、少し離れた木の根元に剣を抱えるようにして座り込む。
サーディはリカードに差し出されたサンドイッチを受け取って一口かじると、カイリスに目を向けた。何かを食べている様子がない。
「カイリスには渡さないの?」
「……彼は少し事情があって、共には食べません」
伏し目がちに笑みを浮かべるその顔が、なんとなく淋しげに見えた。
カイリスは水を飲むと、少ない動きで水筒をしまって座りなおし、そのまま影のように動かなくなった。
「…………それは、カイリスが持ってる剣と関係がある?」
しばらく悩んだまま食事を口に運んで、サンドイッチを食べ終えたころに、サーディは意を決して聞いてみた。
リカードが少し驚いたような顔をする。
「……わかるのですか」
「なんとなく。……教会にあった箱と同じ感じがする」
どことなく恐ろしいような、けれど懐かしいような、そんな感じ。いつの間にかあの箱からその気配は消えてしまっていたけれど。
リカードは考えごとをするようにしばらく黙った。やがてサンドイッチを包んでいた布を丁寧にたたんで荷物にしまうと、鞄の紐をしっかりと閉じる。
それを見てサーディは慌てて包み布を鞄に放り込んだ。
「……そうですね。関係は、あります。あの子は食事を受け付けません」
それだけ言うと、リカードはそれ以上話をすることはないとばかりに立ち上がった。街道に向かって歩き出す。サーディもそれを追った。
路地裏で見た光景が脳裏をかすめる。
動かない表情。無機質な金の瞳。
そのすべてが肩に重くのしかかってくるような感じがした。自分と同じ年ごろの子どもが抱えるには、あまりに重い。
合図も声かけもなく、リカードがカイリスの横を通り過ぎると、カイリスも当然のように元のとおりに歩き出した。
深くかぶったフードと長い髪に隠れて、その表情は見えなかった。




