旅立ち
別れの挨拶をして外に出ると、もう日は昇りきっていた。朝市の喧騒が薄く残っていて、一日が動き出している。
門のそばにフードを被った人が二人立っていた。
背の高い方の男性が、サーディに視線を合わせるように身を屈める。黒い革手袋をした手を胸に当てて、深く一礼をした。
「サーディ、ですね。お待ちしていました」
「……おはようございます」
名を呼ばれて、改めて名乗っていいかもわからずに、サーディは挨拶だけを返した。
伺うようなサーディの視線を受けて、男性の藍色の瞳が微笑むように細められた。
「私はリカードと申します。この度あなたの身元を引き受けることになりました」
リカードは落ち着いた声で丁寧にそう言って、少し声を落とした。
「先日のことを黙っていてくれて、ありがとうございます。……ご心配なく。あなたの身の安全は保証します」
確かに笑みの形をしているその顔が、笑っているように見えなくて、サーディは息を呑んだ。
そんなサーディの様子にはおかまいなしにリカードは身を起こして、黒いマントの子どもを指し示す。
「この子はカイリスといいます。よろしくお願いします」
カイリスと呼ばれたその子は、頭ひとつも動かさなかった。なんとなく居心地が悪くて、サーディは握手の形に手を差し出す。
「はじめまして。僕はサーディ。よろしくね」
カイリスはしばらく黙ったまま、差し出された手を無言で見つめていた。やがてすっと視線を外すと、サーディの方を見ることもなくリカードの背に隠れるように移動してしまう。
差し出した手を持て余して握るサーディに、リカードがかわりに声をかけた。
「慣れていないんです。許してあげてください」
リカードは口元に笑みを浮かべてそう言うと、踵を返した。
「徒歩の旅になりますが、歩くのは得意ですか?」
「苦手じゃないけど……馬車は使わないの?」
聞き返すと、リカードはサーディに視線を向けた。その口元には相変わらず笑みが浮かべられている。
「あまり歓迎はされませんので」
サーディはどう反応して良いのかわからずに黙り込んだ。
法衣のフードに隠れきらずに光に照らされる金色の髪を、きれいなのにな、と思いながら見ていた。




