最後の朝
その朝はなんでもない朝だった。
よく晴れていて、勉強には向かないけど洗濯日和で、手伝い日和で、遊び日和。
ただひとつ、サーディにとってそれが幼い頃から過ごしていた孤児院での最後の朝だということをのぞけば。
路地裏の事件から数日たったある日、青い法衣の監察官が孤児院を訪れた。
いつもは厳格な院長が「ついにこの日がやってきましたよ」と興奮気味にサーディに迎えがきたことを報告しにきた。先生も子どもたちもどこかそわそわしている。
サーディには真新しい服と、旅用のマントと荷物が用意された。
「神官様が来てたって。ついにお迎えか」
「遅いくらいじゃないか? 『瑞色』なんだし」
「偉くなったら俺たちのこと取り立ててくれよ」
同年代の仲間たちに囲まれて、サーディは曖昧に笑った。
サーディのような銀髪や青い瞳の事を『瑞色』という。女神ファリンの髪と瞳の色がそうだったらしい。
両方を持ち合わせているのは僥倖である、と周りの大人にもよく言われる。「いつかファリンのお導きがありますよ」とも。
「女の子だったら今ごろ聖女様だったかもしれないもんな」
何度も、誰にでも言われる言葉。
瑞色と言われるのは好きじゃない。剣をかかげて、厳しい顔で高いところから人びとを見おろす女神様も。
言ってしまえば居場所がなくなるのはわかっているから、言わないけれど。
『忌色』と呼ばれる金色の髪をした監察官。
青い法衣には金の糸で刺繍が入っていて、金色の瞳の子どもを連れていた。
あの人たちは、神様を信じてるんだろうか。神様から見放された色を持ちながら。




