路地裏
重たいものが落ちたような音がして、サーディは足を止めた。耳を澄ましても、続く音は聞こえない。
表通りから孤児院へ抜ける、近道の細い路地。危ないから通るな、と先生達は言う。年嵩の仲間からは、何かあったらさけろ。関わるな、とも。
引き返さなきゃ。頭ではそう思いながら、サーディは一歩、前に足を踏み出した。
心臓が早く、大きく鳴って、耳元が脈打つ。息を吐いた顎が震えるのがわかった。それでも足は止まらない。
どうして。
いつもはできてるじゃないか。そう思う一方で、このまま引き返してはいけない。そう思う自分がいた。
突き当たりの横道に、何かが横たわってるのが見えた。人の脚だ。建物の影で、ちらりと黒い影が揺れる。
小柄な人影が、倒れた人の上で屈んでいる。腰の長さの黒いマント。そこから覗く細い足。
ぐ、と力を入れるように一度沈んで、身体を起こす。動きに合わせて、フードから黒くて長い髪がこぼれて揺れる。
右手に剣を持っていた。黒い刀身から、赤い雫がひとつ、滴り落ちる。
懐から取り出した、まだらに茶色く染まった布で、丁寧に刀身を拭き取って鞘に収める。その動作を、サーディは瞬きもできずに見つめた。
ふ、とその人が振り返って、目が合う。
無機質な、金色の瞳。
息を呑んだ。無意識に半歩。足が下がる。
それ以上は身体が強ばって動かない。
逃げなきゃ、と頭で思う。一方で、冷静に観察している自分がいた。
黒いマント。フードからこぼれ落ちる黒い髪。見覚えがある。教会から出てきた、あの子どもだ。『監察官』と共にいた。
「リカード」
しばらくサーディを見つめていた金の瞳の視線が外れて、その子どもが人の名を呼ぶ。動揺している様子がない。何もない日常に発するような声音だった。
男の子にも、女の子にも見える。歳だってサーディより下かもしれない。そんな子が。こんな時に。
呼び声に答えるように、暗がりから足音が聞こえた。




