教会
配達の仕事を終えたサーディは、教会の前で足を止めた。
この時間はいつも聖堂の中にいるはずの修導女が、所在なげにポーチの前に立っている。手には箒を持っているが、それで掃除をしている様子はない。
「マーサさん」
なんとなく気になって、サーディは声をかけた。
「なにかあったの?」
マーサはサーディの顔を見て少しほっとした顔をしたが、まだ落ち着かない様子だ。皺の目立つ頬に手を当てて、困ったように笑う。
「いえね、監察官様が来ていらっしゃるのだけど、どうにも落ち着かなくてねぇ」
言ってマーサは閉じられた背後の扉を振り返る。
「だって、ねぇ、……あの髪でしょう?今年はなんだか気味の悪い子どもも連れているし……」
「ふうん?……ねえ、監察官様って?教会の人?」
サーディが聞き返すと、マーサはハッとしたように口元に手を当てた。
「あなたにはつい話すぎてしまうわね。……奥に安置された箱を見せたことがあるでしょう?」
言いながら、マーサは話をやめない。サーディは記憶を探って、箱のことを思い出す。たしか、掃除の手伝いに来た時に見たものだ。何重にも布がかけられていて……なんだか嫌な気配がした。
みんなには内緒よ、とマーサは続ける。
「あれ『穢れ物』なのよ。嫌なのだけど、動かすのも良くないからって。何年かに一度、監察官様が様子を見にいらっしゃるのだけど。……お帰りになると、必ず寝込んでしまうのよね」
なんだか恐ろしくて、とマーサは溜息を吐いた。サーディはもう一度閉ざされた扉を見る。
「……大丈夫じゃないかな。なんとなくだけど」
“箱は”大丈夫。そんな気がする。マーサの心配も、杞憂に終わるような気がした。
マーサは眉を寄せつつ、それでもどこか安堵の表情を見せた。
「そう?……あなたが言うなら、そうなのかしら」
それよりもなにか、なんだろう。扉の向こうがやけに気になる。
「……中に入ったら、邪魔になるかな」
ほとんど無意識にこぼれ落ちたサーディの言葉に、マーサが慌てた。
「だめ、駄目よ。あなたはもう、おかえりなさい。入ってはいけないと言われているの」
ほら早く、とまくし立てるマーサに押されて、踵を返そうとしたところで、扉が開く音がした。




