僕らは変化を求めている
中川が森を膝枕した状態のまま抱きしめる。その甲斐、虚しく、森の温度がなくなっていく。明らかな殺人現場である。
ただ、中川は殺人の事実を隠す気はない。森の顔をそっと撫でる。手は顔から首に、肩に、そして腹部に移動していく。そして自らが刺したナイフを握り、ゆっくり抜き出す。
「今からそっちに行くからね。ごめんね。私、あなたのお願い叶えられない。翔太のいない人生に意味はないの。だから、」
握るナイフに力を込める。
「はいはーい。そこまでー。」
第三者に手を止められる。
「誰よ。いいから止めないで。」
錯乱したように、中川は暴れまわる。
「いや、ほんと、お前意外と力強いな。っというか、お前もいつまで寝てんだ。早く起きろ。」
「あー、はいはい。悪いな、渡辺。」
ちょっと気まずそうに森が体を起こす。
「えっ?」
あれだけ暴れていた中川が動きを止める。よく見ると、中川を止めているのは、同じクラスの渡辺優だった。
「なんで、渡辺君が…。どうなってるの翔太?」
「あーなんだ。ごめん。」
混乱する中川に森が気まずそうに答える。
「実は、俺の異能が死からの復活なんだよ。1度きりだけどな。」
「馬鹿っ。そんなことどうでもいい。翔太が生きてる。生きてる。」
「あー、話を続けて良いか?」
今度は渡辺が気まずそうに話を切り出す。
「いろいろあるが、とりあえず着替えようか。」
渡辺がバッグから服を取り出す。
「何で着替え何て持ち歩いてんだよ?」
「これが俺のミッションなんだよ。」
「ってことは、何だかんだミッションクリアってことか。」
「そうなるよな。」
「結局、この1年何だったんだろうな…。」
「“何だった?”と言われてもな。でも、俺達が立ち止まっていた、後1歩を躊躇ってたのを無理矢理、背中を押されたんだよ。お前もミッション無かったら告白しなかっただろう?」
「かもしれないな…。」
「だから、俺たちは“変化を求めてた”んだよ。」
「何だよ。あいつの肩を持つのかよ。」
「そういう訳じゃないけど、そういう一面もあったんだろうなって。」
「そうかよ。別に俺はどうでもいいけど。」
「何だよ。お前から言い出したくせに。」
「ちょっとまだー?彼女を置いていかないの。」
中川が怒った顔をするが、すぐに笑顔になる。これが出来立てほやほやカップルの力である。
電灯の下で、三人が別れの言葉を告げる。
「服はそのままあげるから…。」
「良いの?ありがとう。じゃあね。」
「じゃあねー。」
「じゃあね。また。」
三人が分かれて帰る。勿論、幼馴染カップルは一緒に。渡辺は異なる方向に。
渡辺から二人が見えなくなると、
「ねえ?どう思う?」
「どうって?何ですか?」
電灯の光でできた渡辺の影が返事をする。
「きっと、〈アスター〉にとっても“良い変化”になったんじゃない?」
「私は、私です。変わらない…。いや、変わったんでしょうね。それは貴方、渡辺優もですよ。」
「俺が?」
「はい。貴方はそれまでつまらなそうに過ごしていました。でも、この一年は楽しそうでした。」
「変わったかどうかは分からないけど、この一年は楽しかったよ。ありがとう。」
「きっと私達も”変化を求めていた”んでしょうね…。」
渡辺は先ほどの言葉をそのまま使われたのが、照れくさく、また頬を掻いて笑うのだった。
このエピソードでのミッション達成者
・中川結月―異能『殺人の道具を生成する』、ミッション『好きな人を殺す』、報酬『好きな人と永遠に結ばれる』
・森翔太―異能『他者の能力が分かる』、ミッション『好きな子に殺される』、報酬『死からの復活(1度きり)』
・渡辺優―異能『任意の声や音を希望の人に聞かせる』、ミッション『着替えを常備』、報酬『自己の本質に気づく』




