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変わる関係性と不変な思い

 卒業式を終え、桟橋に影2つ。

「もう高校も卒業なんだね。」

「そうだな…。」

「ここに2人で来ることも最後になるのかな?」

「一緒の大学とはいえ、大学生になるとなかなか来れないだろうね。」

「だよね。小さい頃から、悲しい時、辛い時、楽しい時、いつもここに来てたよね。」

「そうだね。海の風に当たると、悩みがちっぽけに思えてどうでも良くなるんだよな。」

「そう。それにここで泣いてると、いつも翔太が来て慰めてくれた。」

「まあ、そりゃあ、なあ。」

 森翔太が頬を掻く。少し暖かくなってきたとはいえ、海の風は僅かに寒い。陽が傾き、海がオレンジがかる。

 森が腰を下ろし、足を海に向ける。隣に中川結月がちょこんと座る。

「ねえ、何で慰めてくれてたの?」

「何でって、そりゃあ、泣いてる子がいたら慰めるだろ?」

「誰でも?」

「まあ、知ってる人だしな。」

「ほんとに?」

 視線を海に戻す。小さく動いているのは船だろうか?

「ねえ?」

 影が重なる。中川の髪が風に靡く。小さい頃は髪も短くって男の子っぽかったのに段々髪も伸びた。共有した時間の長さを表しているようだ。当時から、今までずっと…。

「好きだ。」

 急な告白に中川の顔が夕焼けよりも赤くなる。目も見開き、髪も僅かに逆立つ。

「えっ、あっ、今のは違くて。いや、違わなくて…。」

 森も慌てて誤魔化そうとするが、無理なことを察知する。

「結月、好きだ。俺と付き合ってくr―。わあ。」

 腹を決めて告白をしたが、返事より早く押し倒される。

「って、危なっ。」

「ばかっ。遅いわよ。私の方がずっと、ずっと大好きだったんだからーーっ。」

 胸に顔を埋めながら、返事をする中川の頭を森が撫でる。

「ありがとう。俺も、ずっと、本当にずっと、好きだよ。」

 中川が泣き止むまで、慰め続けるのだった。


 泣き止む頃には薄らオレンジだった海にも暗さを増しだした。代わりに二人の影が薄くなっていく。

 森が中川の頬を流れた涙の後を手でふき取る。

「これから今まで以上に結月のこと、大切にしていくから。」

「うん。ありがとう。ずっと、ずっと、何があっても大好きだよ。」

 森に預けていた体を自らの体に戻す。森は立ち上がり、桟橋を戻っていく。森の体の輪郭が闇に飲まれ、ぼやけていく。

「翔太っ。」

 森に向かって中川が走り出す。呼ばれた森が振り返り腕を広げ、中川を迎え入れる準備をする。ドスっと想像を超える衝撃が走る。

「えっ?」

 森が数歩後退る。血だまりとその上に立つ中川だけが森の瞳に映る。ゆっくりと目を下ろすと、腹部に深々と刺さっている。余りにも深く刺さっているのか、ナイフが落ちることはなく、存在感を放っている。

「な、なんで?」

 森がその場に崩れ落ちる。普段はザラザラした桟橋にドロドロした液体が加わり、気持ち悪さを倍増させる。

 丁度陰になっている為、表情は分からないが、中川はしっかりと森の方を向いていることが分かる。

「なんで?」

 もう一度森が尋ねる。

「貴方が、翔太が大好きだから。愛しているから。これからもずっと、ずっと一緒にいたいの。私たちはこれまでずっと好き同士だったのに、まさかお互いが“好き”だと思わなかった。やっと、やっと結ばれたのよ。だから、これからもずっと、ずっと、死ぬまでじゃ足りないの。死んでからも一緒が良い。」

 中川が壊れた蛇口のように訴える。息継ぎすらしていない。ようやく息が持たなくなったのか、普段より深く息を吸い、落ち着いた声で語りかける。

「ごめんね。重い女で。大丈夫、今世もあなただけでは逝かせないから。私もすぐに後を追うから。来世も一緒だよ。」

「そうか。」

 何故か森は腑に落ちた。思えば中川はいつも決断に追われていた。告白をするべきか、進路をどうするのか、ミッションを行うのか…。その悩みの中心が俺に関するものだった。いつも中川の頭の中には俺が居たんだ。

「俺のことはどうでもいい。だから、近くに来てくれ。」

 倒れたまま手を伸ばす。中川は全力で走り、手を掴んだ。そして、森の頭を自身の膝に持ってくる。

「ごめんね。」を何度も言う。それまで表情が見えていなかったが、森の頭上にだけ雨が降る。

「泣かなくていい。だから、結月は死なないでくれ。少なくとも今日は…」

 “本当に泣き虫だな”と心の中で呟き、目を閉じる。

「翔太っ。」

 そして、森翔太は18歳にして、その人生に幕を閉じた。

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