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百田朱莉の復讐-2

 L〇NE内にて、あるグループが久しぶりに更新される。

「大至急、HELP!!」

「えっ、何?」

「どうした?」

「何?」

「何かあった?」

(?のスタンプ)

 突如表示された“HELP”に各々反応を示す。

「誰かバンドを組める人、紹介して。」

(………。)

 先程までの興味津々な様子から打って変わってレスが止まる。

 しかし、最初に反応を見せたのは思いがけない人物だった。

「私、一人楽器できる人を知ってる。」

 緒方凛だった。

「僕も推薦したい人がいる。」

「俺もいる、しかも二人。」

「えっ?そんないるの?じゃあ、次の土曜日ここに呼んでもらえる?」

 百田は指定の場所のURLを貼ったのだった。


 市内のレンタルスペースに3年1組の9人が集合した。

「皆ありがとうね。まさかこんなに集まってくれるとは思ってなかったよ。」

 集まったのは会議メンバーの百田、緒方、相良、本田、渡辺と緒方の紹介で上原、相良の紹介で相川、本田の紹介で高橋と谷﨑が参加している。

「というか、渡辺君は来なくても良かったんじゃない?」

「そんなこと言うなよ。こんな面白そうなイベント見逃せないだろ?」

「こちとら人生かけた大勝負なんだよ。」

 そんな小言を交わしながらも和やかな雰囲気である。

「じゃあ、皆に集まってもらった理由について説明するね。」

 今回のSOSに至った経緯を説明する。言ってはいけない内容なのだろうけど、後悔はしていない。これを聞いてどう思うだろうか…。緊張から頬に汗が伝う。驚いた顔が並ぶ。沈黙を破ったのは相川だった。

「だったら見返してやらないとな。」

 栓が抜けたように話し出す。

「バンドするにしても、私はギターとベースしかできないけど。他できる人いる?」

「私はギター弾けるよ。」

「だったら谷﨑がギターで私がベースね。後はドラムとキーボードだけど…。」

「ごめん、私は歌う専門なので。」

「まあ、百田さんはボーカルしないと。百田さんのオーディションなんだし。」

「あっ、ドラムは私する。」

「よし、決まり。残りはキーボードだけど…。」

 次々に決まっていく。「ほらよ。」と緒方が上原の背中を押す。一歩前に出た上原に視線が集中する。

「え、えっと。一応。私キーボードできます…。でも…」

 振り返り、緒方の様子を伺う。

「大丈夫だよ。私も付いてるし、皆がいる。大丈夫。私は結奈にやって欲しいんだ。」

 意を決して、上原は言い切る。

「キーボードは私がやります。」

 バンドメンバーと担当が決まった。


 それから曲を決め、個人練習、団体練習を積み重ねる。僅かでも時間があれば集まり、練習、練習の日々。正に青春という日々は余りにも早く過ぎ去った。

 オーディション最終選考当日。この出来レースにおいて一矢報いるために、5人は戦いの舞台に身を投じる。今までとは異なり、華々しいステージが用意されている。しかし、カメラがないのは出来レースのせいだと思うのは、疑い過ぎだろうか?

「それでは続いての候補者は百田朱莉さんです。準備がございますので少々お待ちください。」

 一つ前の候補者が終わり、司会が紹介をする。準備をする間も、

「おいおい、準備だって。別に良いだろ、適当で。」

 などと言う文句がどこからか聞こえてくる。雑音を無視し用意が終えると、幕が開かれる。この準備時間も候補者に許された時間内として扱われる。その為、百田達にできるのはたったの1曲。この1曲に全てを賭ける。

「百田朱莉です。それでは――。」

 自己紹介も名前のみ。余りにも簡素な挨拶をすると、すぐに高橋から「1、2、3、4!」と掛け声。それに呼応するように谷﨑、上原が演奏をスタートする。

 退屈さを隠そうともしなかった試験官の表情が次第に変わっていく。目を見開き、彼女らのパフォーマンスを評価していく。

「バックサウンドの枠に収まらない、華やかなギターをリズム隊の2人がしっかりと支えている。ベースがバンド全体のグルーヴ感を演出し、ドラムが正確なリズムを刻んでいる。またキーボードが楽曲に彩りや変化をもたらし、観客に飽きさせない。」

「だが、それより圧倒的なのは…。」

「ああ、あのボーカルの圧倒的な表現力とカリスマ性。あの子、百田朱莉と言ったか?こんな奴がいたら成り立たないぞ?」

 幸い、撮影用の電子機器の持ち込みは禁止している。だが、他の候補者やその身内、更には彼女らの同級生なども見学に来ている状況では噂になる可能性が非常に高い。

 圧倒されながらも、冷や汗を流す試験官。

「大丈夫だ。どんなことを言っても証拠がなければただの戯言。噂話の域を出ないだろう。」

「まあ、それもそうか。」

「だが、惜しいな。このオーディションでなければ全員スカウトしたいくらいだ。」

「確かにな。」

 素晴らしい演奏を聞いた喜びと大人として出来レースを成立させなければならない義務感で何とも言えない顔になってしまった。


 彼女達の演奏を純粋に楽しんでいる人物が一人。

 相良紬である。元々女性恐怖症であった彼だが、今では女性の演奏を見て100%の喜びを感じることができている。更にただの演奏ではなく、愛する彼女の晴れ舞台なのだ。その歓喜は筆舌しがたい程だろう。静かに感動の涙を流している。

 その隣で噛みしめるような喜びを感じているのが、緒方凛である。父のDVから脱却を果たした上原だったが、緒方に依存気味であった。休み時間や休日、グループ学習やペア活動でも毎回緒方と同じ組に入っていた。そして緒方もそれを受け入れていた。

「なあ、緒方。」

「なんだ、後にしてくれ。」

 渡辺が相良とは逆隣から話しかける。一度は拒否されても渡辺は続ける。

「良かったのか?緒方があそこに立っていた可能性もあるだろ?」

「何で?」

「だって、緒方も楽器弾けるだろ?」

 視線を変えないまま、緒方は一瞬目を丸くした。

「良いんだよ。結奈があんなに楽しそうにしているんだ。私も結奈もこれ以上お互いに依存するのは良くない。それぞれ自律した上で、結奈と触れ合いたいんだ。」

「そうか。」

 これ以上の言葉は無粋だと、渡辺も演奏を楽しむことに集中するのだった。


 オーディションは予定通りの人物が合格をし、百田は落ちた。

 しかし、得る物もあった。どこからか分からないが当日のパフォーマンスがSNSで拡散されたのだ。

 確かに“撮影機器の持ち込み”は禁止されていたが、“何らかの方法で保存された動画を投稿・拡散してはいけない”とは言われていない。完全に捨てアカでの投稿だったが、修学旅行の比ではないレベルでバズった。

 後に“奇跡のバンド”と称されるが、詳細については伏せられていた。しかし、SNSで露出の多かった百田は身バレし、フォロワーは爆発的に増え、雑誌、広告、テレビのオファーが鳴り止まなかった。無論他のメンバーにも話はあったが、知らぬ存ぜぬで突き通した。百田も詳細についての言及は避けた。

 時々歌ってみたを投稿する時に集まっている。勿論顔出しはNGでの出演である。

 百田はトップインフルエンサーの地位まで駆け上がった。

 普通の女子高生から誰もが知る有名人へ。そのシンデレラストーリーに皆が興味を惹かれた。ある日の配信でこんな質問が投げかけられた。

「仕事をする上で心に決めていること?そうだね。負けない事、曲げない事、そして…。」

 あえて間をとって、悪戯っ子のような笑みを浮かべる。

「どうしようもない理不尽は逆に利用してやるのよ。」

 自信満々に告げるのだった。

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