百田朱莉の復讐-1
「百田さん、ついにこの時が来ましたよ。」
「どうしたんですか?」
マネージャーの小林の声がいつも以上にテンションが高くなっている。
「実は今度、大規模オーディションが開催されるので、是非応募してみませんか?」
「えっ?」
百田は困惑の声を漏らすのだった。
修学旅行の1件から百田は芸能事務所所属となった。学生の期間はSNSでの投稿が主であり、外部と関わるような仕事はして来なかった。
しかし、卒業も間近になり、そろそろ外部との仕事にも目を向けようと思っていたところである。渡りに船と希望を込めて返答をする。
「ぜひ、よろしくお願いします。」
「では、そのように手続きしておきますね。」
電話を終えた後も、その場で小さくジャンプをして喜んだ。
「今日は少し堅苦しい話をしようと思います。」
あるオフィスの一室。そこに小林と百田がテーブルを挟んで向かい合っている。
小林はホワイトボードの前で熱弁を振るう。
「今回応募したオーディションは雑誌・CMのモデルのオーディションです。ここで求められているのは『最高にカッコイイ女の子』。つまり百田さんど真ん中です。」
ホワイトボードにある“最高にカッコイイ女の子”の文字を叩く。
モデルとはそのポーズや着こなし、立ち振る舞いにより商品を魅力的に見せる。その姿を雑誌やCMなどで広告を行う。企業としても商品をより買いたいと思わせる人物を求めている。その為に、企業や商品のイメージと合う人物をオーディションで選ぶのだ。
「これは私たちにとってもチャンスです。百田さん自身を世に広めるきっかけになる可能性があるからです。現状、修学旅行の一件からフォロワーは着実に増えてきています。だからこそここで更なるレベルアップに踏み切るべきだと思うのです。」
そこで企画書なる物をテーブルに差し出す。
「そのような喉から手が出る程欲しい合格の為、オーディションは4つの段階があります。1つ目は書類審査。これは問題ないと思われます。正直これはどうしようもないところなので、ここではスルーします。2つ目は面接、3つ目はウォーキングなどのモデルとしての資質検査。これは本日から練習をしてもらいます。私もできる限りのことはします。問題なのは、4つ目のモデル以外の資質検査。これです。」
「モデル以外の資質とは?」
予想外の項目について詳細を求める。
「近年、モデルは美しければいい、可愛ければいいというものではなくなってきています。その人の内面性や趣味、特技などが重要項目として挙げられています。ここで他の応募者との差別化を図りつつ、企業に売り込むような内容が好ましいです。」
「そう言われてもね…。」
普段強気な百田の目が泳ぐ。百田にはこれといった特技などは持ち合わせていない。SNSに投稿する為の加工や編集技術は高くなったと思うが、わざわざ生でパフォーマンスできる場で動画を見せるのは適切ではないだろう。
「強いて言うなら歌とか?」
「歌ですか…。」
あからさまに声のトーンが下がる。
「歌も結構なのですが、残念ながら王道過ぎるのが難点ですね。インパクトに欠けるってのが正直なところです。」
「インパクトねー。」
「すぐにと言う訳ではないので、おいおい考えてみてください。」
百田は大きな課題を残したまま、オーディションの特訓を始めるのだった。
それから百田は特訓の日々を送っていた。普段以上に姿勢や立ち姿、歩く際の足運びなど体力よりも精神的に負荷の高い生活だった。
それでもめげずに諦めずに努力を続けてきた。面接時のマナーや質疑応答も頭に叩き込んだ。実を言うと面接というのは暗記科目である面が非常に大きい。自分自身のことやモデルとしての話題や情報だけではなく、協賛会社についての知識などありとあらゆる問いに答えられるよう準備をしてきた。
「よし、やってやるぞ。」
意気込んで臨んだ面接は
「はい。これで以上です。お疲れさまでした。」
あまりにもあっけなく終わった。予め用意していたであろう質問をいくつか交わしただけで、試験官は目すら合わせようとしない。ただただ事務的に発せられる冷たい言葉は、どれ程の想いを込めた言葉でも熱を持つことはなかった。
「それは残念でしたね。」
まだ正式に合否が出た訳ではないが、望み薄だろう。面接会場に付き添っていた小林はショックを受けている百田を慰める。これから多くのオーディションを受けていく百田にとっては避けては通れない道である。こればっかりは自分で乗り越えるしかないのだ。
「折角なんで、何か食べて帰ります?奢りますよ。」
「ちょっと待って。その前にお手洗い。」
トイレから出た百田の瞼は赤く腫れあがっていた。早く小林も元へ戻ろうと足を動かす。近くの喫煙所の横を通ろうとした時に、例の面接官が誰かと話していた。何を話しているか気になった百田は自然と死角に隠れる。
「―にしても今回来た奴はほんと可哀想だよな。」
「可哀想って何が?」
「だってそうだろ?必死になって準備してきて、一生懸命頑張ったんだろ?なのにもう合格者は決まってんのに。」
「えっ?」
驚きの発言に思わず息を飲む。だが、百田に気づいていない面接官は更に続ける。
「“1万人の中から選ばれた逸材”って前評判が欲しいからってこんな大規模な出来レースを企画する何て。日頃相手にしないような所にも声を掛けて応募者を募ったらしいぜ。そんなのして、その分のリターンがあるんかね?」
「因みに、良さそうな子はいたの?」
「えーと、あーいたいた。確か…そうそう、百田とかいう子。前、ネットで話題になってた子。あの子は話題性はあるから最終選考まで残して不合格だろうな。可哀想に…。」
このオーディションのリアルを知った百田は怒りに震えていた。ふざけるな、と。自分だけではなく小林すらも欺いていたことに憤慨したのだ。思わず走り出し小林へ宣言する。
「私、絶対にあいつらを見返してやるから。」
百田なりの復讐を決意した瞬間だった。




