駿河蓮と黛蒼空-2
それから1週間程経ち、駿河は忙しくしていた。学校も休んだこともあり、「本当に病んだのでは?」とクラスで噂になりつつある。進藤先生が言うには、
「駿河は所属クラブチームと話があるとのことなので、休みだ。詳しくは分からんし、あまり深堀するなよ。皆と同じくデリケートな時期なんだ。」
うんうん、良くいった俺という雰囲気で話す。緊張感のない口ぶりが逆に安心感を与える。
黛は、その後も通常運転。朝から新聞配達のバイトをし、日中は学校。放課後は近所の子のお世話と言う名のバイトをしている。
朝の冷え込みが厳しい。吐く息も白く、相反して手先と鼻先が赤くなる。
「うー、寒―い。」
自転車の籠に新聞を入れ、漕ぎ出す。体はポカポカ温まり出す。
最後のポストインをした後、息に白さが増し、視野が狭まる。
「黛っ。」
急に後ろから呼ばれ、“先生か?”と驚いたが、声が若々しい。こんな先生いたっけ?と頭を回転させるが、声と繋がる教師はいない。それでも名前までバレている時点で詰みなので、仕方なくペダルから足を外す。
「黛っ。」
今度は直接、背中を叩かれる。諦めて顔を上げて相手を確認する。
「って駿河かよ。」
「駿河かよって何だよ。」
「いや、先生かと思ってびっくりしたわ。」
「なるほどね。うちの学校、基本バイト禁止だもんな。」
「その例外が駿河なのだが…。」
「別にそんなことは良いんだよ。これから黛も“例外”になるんだから。」
「どういうことだよ?」
駿河のような特殊な場合を除いて、基本、働くのが禁止とされている。黛のように隠れて働く生徒もいるだろうが、それは抜け道とか嘘の類であり、例外ではないだろう。
「黛もうちのチームに来るんだよ。」
「えーーーー。どういうこと?」
駿河から話の要点を搔い摘むと、下記の通りだ。
1、この前の公園でのプレーでいけると思い、チームには相談済。
2、いきなりAチームとはいかないが、すぐに昇格できるし、応じた給料は出る。
3、当面の生活費やスパイクなどはこちらで負担する。
破格の契約内容に黛は、
「いやいやいや、無理無理無理。」
強烈に拒否するのだった。
「できるって。間違いない。あの子にも言ってただろ“負かしてやれ”って。」
「それは子供の世界の話で、俺にそんな実力があるはずないじゃん。」
「大丈夫だって。」
「なんでそんなに拘るんだよ。」
「俺の異能が―相手の成長度を見る―だからだ。お前はSSS。最強だ。」
「なら、駿河は?」
「それを聞くか?」
「いや、良い。どうせSSSに決まってる。」
(だって、既にSだもんな…)
黛も駿河の能力を見ていた。ただ、黛の異能―現時点での能力(異能を除く)を見る―では、将来の成長度は見ることができない。既にSならば、将来SSSになるのは間違いないと考えている。そんなことを思案しているとは知らず、駿河は黛にある提案する。
「だったらさー。」
球技大会。高校のイベントとしては地味な部類に入るだろう。ただ、高校生としては、勉強疲れや鬱憤を晴らす良い気分転換である。大会と名は付いているものの、学生としては遊びの延長である。
しかし、進藤のクラスは顔持ちが違う。更に本気の顔をしている生徒が二人。言わずもがな黛と駿河である。
前回の提案が、球技大会で駿河のチームが勝ったら、黛は駿河のクラブチームに加入する。黛のチームが勝ったら駿河は黛を諦める、というものだった。
「俺達が当たる前に、どちらかが負けたらどうするんだよ?」
と聞いたが、
「大丈夫。俺が負けることはないし、黛も手を抜かなきゃ勝つよ。それに黛はそんなつまらないことしないでしょ?折角俺と本気でやれるんだよ。」
と一蹴されてしまった。無論、本気でしたところで駿河に勝てるはずがない。でも、そんな提案をしてくれたことが嬉しかったし、何より…。
「本気でやらなくちゃ、楽しくないよな。」
準備運動に余念がない。
対戦形式はトーナメント方式である。2ブロックに分かれ、そのトップが決勝戦をする。同じクラスが決勝前につぶし合うことがない様に、別のブロックになるようにしてある。
つまり、駿河と黛が決勝で戦うにはお互いが各ブロックで優勝する必要がある。
そこで、
「来たる球技大会。我々は1位2位を独占するだろう。その為にも今日は英気を養い、備えてほしい。かんぱーい。」
駿河の音頭で各々のグラスを優しくぶつけ合う。
「さすが、将来のエースストライカー。球技大会に向けて店を貸切るなんてね。」
「それだけ球技大会に賭けているってことだよ。」
「いやいや、そんだけ本気の人はいないから。」
「ちょっとした賄賂だよ。」
「賄賂?」
「正直、他のクラスにもサッカー部や経験者もいる。戦力が突出している訳ではないからな。今回の食事会でやる気の上で他のクラスに勝てたら良いって思っただけだよ。」
「それって、日本代表より大事なこと?」
クラスメイトが次々に駿河に話しかける。的を射た質問に、一瞬ギョッとしたが、
「俺も全国大会の方が大切だと思っていたが、今ではそれ以上になるかもしれないと思っている。」
はっきりと言い切った駿河に皆が圧倒されたのだった。




