浅沼博と八木奏多-4
ーー浅沼サイドーー
浅沼はその後も小売店に通った。新田さんは知らない知識を教えてくれた。半分はアニメの類だったが、日常の出来事から政治・経済まで幅広い情報量だった。時には、ぼかしながらだったが過去の依頼内容も話してくれた。小難しい内容も分かりやすく嚙み砕いて教えてくれるので、脳にすんなりと入って来る。
唯一分からないのが、店主との会話である。俺を見かけるとすぐに話を切り上げる。
「何の話?」
「別に…それよりも―。」
聞いても話をすり替えられる。そこで店主と新田さんの持ち物に目を付けた。店主の制服や新田さんのカバンなど触れてみて気づいたのだが、この能力には欠点がある。
その物を使用またはその物が見た中で最も感情が色濃く出た場面が優先されるのだ。店主の制服に触れた時は、クレーム対応のシーン。新田さんのカバンに触れた時は過去の裁判の様子が窺い知ることができた。しかし、店主と新田さんとの関りを知ることはできなかった。
「困ったな…。」
新田さんの持ち物はカバンとアニメグッズのみである為、これ以上のサイコメトリーは不可能と判断し、相手を店主に絞る。かといって、店主の私物らしい物もなくどうしたものかと店を出て、駐車場を歩いているといつも停まっている車が1台。
「もしかしたら…。」
こっそりと車に触れてみた。当たりだった。店主が見るからにその手の人に借金返済を催促されている状況だった。思わず後退ると何かにぶつかる。振り向くとそこには先程サイコメトリーで見た男が立っていた。
「おおぅ。大丈夫かボウズ。」
気にかける言葉を言い、笑ってみせるが、逆に怪しく感じる。
「はい…。」
男は手を伸ばし握手を求めてきた。一瞬の躊躇いがあったが、その手をとる。
男は終わることなく引き寄せ、軽くハグをしてくる。西洋かぶれの軽い男にしか思えない。その瞬間、男の衣服の記憶が再生される。
そこはあるオフィスの一角。大きな椅子にだらしなく腰掛け、スーツを着た男性がいた。
「ところで次のターゲットは誰だ?」
服の持ち主であろう男が問う。
「次はこいつはどうだ?」
差し出された書類には例の店主がいた。
「こいつ、店が思うような利益を上げることができていないようだ。」
「なるほどねー。どこも金欠だと言うことだ。」
笑いながら風の持ち主は続ける。
「頑張っても結果のでない人もいれば、あなたのようにギャンブルで金を使い果たし、その支払いの為に、他人を売り飛ばす人もいるんだから。」
「おいおい、それを言うなよ。」
笑い合う二人に堪えられない怒りが湧きあがる。
「失礼します。」
と絶望に追い込む覚悟を決めた。
願書作成の為に封筒を買いに来た時に、例の男を見つけた。店内の椅子に座っていた。店主がお客さんの対応をしている為、手が空くのを待っているのだろう。手元には封筒を置いている。
「すいません。この前の人ですよね。」
「おー、この前振りだね。」
明るく声を掛けると、答えてくれる。無難な会話をしながら、スッと男の封筒と自分の封筒を入れ替える。さあ、全ての条件が揃った。修羅場の始まりだ。
それから数日後―――。小売店は臨時休店。
勿論入り口は鍵が掛かっているので入れない。なので、裏口から入る。不法侵入ではないか?と思われるかもしれないが、事前に、
「ん?緊急時の場所になり得るのか?何、高校生ってそんなこと調べてるの?別にいいよ。何かあったら、裏からでもいいから。入って来て良いよ。」
と言質をとっている。それに間違いなく緊急時である。
扉の前で中の様子を伺い、一呼吸を置く。意を決して扉を開ける。
「こんにちは。」
3人の顔がこちらを向く。
「浅沼さん、今日は休店ですよ。」
堀店長が退出を促すように問う。しかし、ここで立ち去る訳にはいかない。
「はい、分かっています。しかし、これが必要かなと思いまして。」
中央にあるテーブルに封筒を置く。奥にいた男の目が見開く。
「なんでこれを?」
中を開けると誓約書などの借金に関わること、そして堀さんとの計画について記してある。実は前回取り換えたのは1通ではなかった。
「「これは…。」」
「いや、これは関係ない。」
驚愕する2人に反論しようとする1人。しかし、良い言い訳が出て来ないのだろう。
沈黙が支配をする。その静寂を破ったのは、またしても浅沼だった。
「それにこれを見てください。明らかに数字の修正後があります。金利と元本の両方、債務者に不利な条件に書き換えられています。」
「確かに。」
新田さんは資料を見比べ、返済総額と元々あったであろう元本と金利を計算しなおす。
「おやおや。これはこれは…。これはチェックメイトですね。」
「それってつまり…。」
「ええ。既に完済してます。」
「そ、そんなはずは…。」
男が資料を見比べてみるが、どうやら間違いはなかったようだ。しかし、それだけではない。
「随分とあくどい商売をなさっていたようで。この事は警察とともに対応させていただきます。無論、あなたと協力しているお友達のこともね。」
男の顔に絶望の相が現れた。
その日の帰り――。
店主にはこれ以上ないくらいに感謝された。それはもう引くくらい。
新田からは、「子どもがこういった話に口を挟むべきではない。」と一喝されたが、その後堀さんからは同じくらい感謝された。
「それにしても、よくあんなに冷静に対応できたね。」
「まあ、必死だったんで。」
「そっか…。君がしたことは年齢を考えると褒めるべきことではない。未成年だからね。でも、個人的には善の行いだったと思うよ。」
「あ、ありがとうございます。」
「まるで裁判所での弁護士のような立ち振る舞いだったよ。」
「実際、弁護士ってどんな仕事なんですか?」
「どんな仕事ね…。」
どう答えるか一考する。
「そうだな。今日は店主が困っていた。その困りごとを解決するために、暴力や犯罪をすると堂々巡りになる。だから、その困りごとを平和に公平に解決する必要がある。そのお手伝いをするのが弁護士って仕事だと思う。」
「俺にもできるでしょうか?」
「できるよ。」
「そっか。」
今回のスーパー堀という小売店を巡る2件の事件。
その裏には浅沼博と八木奏多という2人の高校生がいたが、お互いの存在を知る由もなかった。
このエピソードでのミッション達成者
・浅沼博―異能『サイコメトリー』、ミッション『事件の解決』、報酬『将来の夢が決まる』
・八木奏多―異能『透明化』、ミッション『事件の解決』、報酬『将来の夢が決まる』




