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浅沼博と八木奏多-3

ーー八木サイドーー

 八木は和田が病に罹った原因である元職場に足を踏み入れた。診断書に記載されていた職場を検索したらすぐに判明した。無論、ただの高校生が侵入することはできないので、透明化してこっそり入った。

 会社はガラス張りの高層ビル。その1つフロア全体がオフィスである。エレベーターを使い、該当の階で降りると部屋に入る前に怒声が鼓膜に伝わって来る。

「はやく契約取って来いって言ってんだろ。役立たず。木偶の坊。クズ。無能。お前のみたいなやつがいるから会社の雰囲気が悪くなるんだよ。」

 入る前からひりついた雰囲気を感じる。意を決して入室する。勿論、こっそりと。

 死んだ顔をしたスーツ姿の男女が向かい合わせでパソコンを叩いている。その奥で、先程の声の主がこれでもかと言葉を続ける。

「俺が上司じゃなかったら、お前はクビだっただろうな。俺がいることに感謝するんだな。」

 Tシャツに短パンの青年が、自分の親世代の大人に怒り散らかしている。そのことにも慣れているのか、他の人は無我夢中にパソコンとにらめっこ。

 その異質な空間の中、八木は言葉にならない怒りを感じていた。密かにある計画を立て、その協力者を募るのだった。


 それから数日後―――。

 和田が勤めていた会社は記者会見をしていた。

「この度は大変申し訳ございませんでした。」

 3つの頭がテーブル間近まで下がる。社長と副社長、監査役まで出て来ての会見だった。多くの記者からのフラッシュを浴びる。

「この度の私の愚息、平塚徹が行いましたパワハラ、脱税及び横領の責任を負い、社長職を辞することに致しました。」

 ある高校生と職員の行動により、父である大手企業の社長が辞任し、パワハラ上司は牢獄に捕えられることとなった。


 時は戻り、八木が会社を見に行った日。

 八木は驚いていた。酷い職場環境には同情した。だが、一番は自身の正義感。これ程に強く、悪に対する嫌悪を持っていることに驚いたのだ。

 パワハラ上司への制裁を下すことは決まったが、部外者であるただの高校生には用いる手段がない。ないのであれば、持ち得る相手に手段を行使してもらえばいいのだ。八木自身はその情報を提供し、背中を押すだけで良い。

 1人目の協力者は会社内にいた。彼はデスクに突っ伏して、目に涙を浮かべる。傍らには空のエナジードリンクが3本ある。

「力が欲しいか…。」

 あり得ない背後からの声に驚き、振り返る。しかし、そこいはいない。

 ついに頭がおかしくなったかと、苦笑する。

「力が欲しいか…。」

 再度悪魔の囁きが聞こえる。

「今を変える力が欲しいか…。」

 “今を変える”という言葉に思わずパソコンを打っていた指が止まる。

「さあ、我の手を取るがいい。さすれば、明るい未来が切り開かれるだろう――。」

 振り返ると今度は、若い男性が手を伸ばしていた。言わずもがな八木である。

「あ、あなたは?」

 誰もいなかったはずの場所に人間が現れたのだ。目が見開き、衝撃を露わにしている。

「というのもですね、ちょっとこれ見てもらえます?」

 魔王ムーブを止め、スマホに撮影していたパワハラの様子、仕事の合間にスマホでギャンブルをしている様子、更にその口座が会社の名義であったことなど、あれよあれよと見せつける。

「これらを証拠に訴えを起こしましょう。」

「んー、でも…。そんなことしたら…。」

 それでも踏ん切りがつかない様子だった。そこで例の万引き犯のことを伝えると、

「和田さんが――?」

 まさかの知り合いだったようだ。話を聞くに、職場における兄貴分だったとのこと。

「俺、悔しいです。あんないい先輩があんな奴のせいで…。」

「なら、共に戦いましょう!」

「はいっ。」

 社畜会社員の伊藤翔太が手を取った瞬間、この会社の運命が決まった。


 そこからは早かった。引き続き、十分な証拠集めと素性調査を行い、例の若い警察と連携をとる。動き出した世界は、止まることを知らない。加速度的に進んでいく。

 ものの1月程度で平塚徹は逮捕され、その父である社長は辞する決定を公表した。

 全てが終わり祝賀会が行われた。無論、昼間のファミレスでノンアルコールである。

 メンバーは八木奏多、加賀凛太朗、和田直哉、伊藤翔太の4名である。

「それでは――っ。」

「「「「かんぱーい。」」」」

 若い男性の集まりが昼間から盛り上がっている。

 30歳は超えていると思っていた和田さんも20代だと知り驚いた。勤めていた頃の写真も見せてもらったが、年相応の見た目をしている。寧ろ今とのギャップを感じる。ケラケラと笑い合いながら楽しい時間を過ごしていった。

「というか、よくあんなに証拠を集められましたね。探偵でも雇ったのですか?」

「いえいえ、それは…。」

 助けを求めるように伊藤さんは八木の方を見る。

「まあ、それなりに大変だったのでしょう。俺も、加賀さんに紹介できて良かったです。」

「まあ、そういうことにしときましょう。」

 流石に高校生が不法侵入して証拠をかき集めましたと言えるはずもない。世の中にはグレーのままにしておく方が良い事もあるのだ。

「それより、お二人は起業するんですよね。」

「はい。元々会社の経営方針にも疑問がありましたし、密告したままいれる程、気も大きくないのでね。それに、また和田さんとも働きたかったですし…。」

「そう言ってもらえると嬉しいですね。一度は諦めた私ですが、また1から頑張ろうと思います。」

「それは良いですね。」

 照れ隠しをするように後ろ髪を掻きながら応える。

「加賀さんも出世したらしいですね。」

「ええ。不謹慎かもしれませんが、今回のような巨悪に立ち向かい、追いつめていくのが好きなんです。」

「そっか。俺もです。」

「なら、八木君は警察向いてるかもしれないね。行動力もあるし、是非お勧めするよ。」

「ありがとうございます。」

「後は、和田さんの個人的な裁判のみですね。」

「はい。でも100%勝の勝負なので、何も心配してないですけど。」

 そう笑う和田さんは、既に前を向いているように見えた。


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