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小早川澪-2

 成人男性が女子高校生をある事務所へ連れて行った。文面だけ見ると、これ以上なく怪しい状況だが、実際は全く異なる。

「ほんとにここが事務所?ここで会えるの?」

 と女子高生―小早川澪は目を輝かせている。小早川は出店で出会った相手が、花天さんが所属している事務所の関係者だったのだ。

 彼らは小早川の持っているグッズに目を付け、話しかけたところ、

「そんなに気になるなら、花天さんに会わせてよ。会ったら話してあげる。」

 と要求をしたのだ。勿論、関係者の身元や事務所についても確認をした上でのことだ。

「ねえねえ、早く早く。」

 と催促をする。しかし、ライブ終わりの夜にいきなり事務所に来たところで本人がいるはずもなく、案内された会議室でブーブー不満を漏らす。待たされている間も事務所にあるグッズを紹介されたり、ライブの裏話を聞いたりして時間を潰している。

「お待たせしましたー。」

 待ちに待った花天さんがドアから現れる。

「キャ――――――――っ!」

 夜中だというのに、大声を上げてしまう。つい数時間前までライブで会っていたが、会場外で会うのもまた違うものである。俗に言うオフショットである。鼻血ものである。しかも、打ち上げで酒を飲んでいたのか、若干顔が赤い。正しくレアである。

「私、小早川澪って言います。ずっと前から、デビューの頃から大ファンで、ずっとずっと好きでした。」

 早口で巻くし掛ける。花天さんもギョッとした様子で、「あ、どうも。」と言う感じで返す。

「ところで俺、何で呼ばれたか分かってないんだけど。」

 事務所のスタッフに状況の説明を求める。説明を受けたところ、

「実は花天さんが好きすぎて、自作のグッズを作ってました。勿論、私の私物で販売などはしていません。」

 はっきりと答える小早川。

「ちょっと見てみてもいいですか?」

 花天さんもスタッフも改めてグッズを見るが、どれも既製品と遜色ない。寧ろ、技術、発想、実用性共に上回っている。

 皆がグッズを手に取り、時には「おおー。」と歓声を上げ、時には唸っている。


 スタッフからどのように作ったのか、素材は何をしているのか等、質問攻めに遭った。実際は異能で作っているが、作成手順などは異能で理解できるので最初のうちは答えていた。しかし、余りにもしつこかったので、「ちょっと、お手洗いに…。」とのそのそ部屋を脱出する。実際に出店からお手洗いに行くタイミングがなかったので、助かった面もある。

「ふう。」

 と溜息をしてトイレから出ると、元いた部屋の雰囲気が変わっていた。

「これだけ熱意を持っている子がいるんですよ。」

「本当にすごいですよね。小早川さんはこの手の職に就いたら、引っ張りだこだろうね。」

「そうでしょうけど、私が言いたいのはそうじゃなくて。こんなに好きになってくれる子がいるのに、辞めちゃうのは勿体ないってことです。」

「えっ?」

 小早川は急いでハンカチをポケットに戻す。慌ててしまったからか、缶バッチがポケットから落ちてしまう。通路に落ちた缶バッチから落ちた音がやけに大きく聞こえた。

「誰だ…って、小早川さんか。今の聞こえてたよね?」

 慌ててドアを開けて急接近した推しのドアップにドキドキしながらも、頷くしかなかった。


「辞めるって、なんでなんですか?」

 グッズを出していた長机を強く叩く。

「なんでもないよ。ただ売れるのが遅かったってこと。」

「遅いってなんですか?」

「人気がなかった、ただそれだけだよ。」

「人気は出てるじゃないですか。今日だって、300人規模のライブだってやったじゃないですか。」

「だからそれが遅かったんだよ。」

 弱っている推しも素敵だが、ここは心を鬼にして抗議の声を挙げなくてはいけない。だが、推しの答えは抽象的な物だった。

 このままじゃ埒が明かないと思ったのか、先程、推しと話していたスタッフが話に割って入ってきた。

「実はこいつ、地方から出てくる時に親の反対に遭ってな。高校を出てすぐに“3年で売れるから”って条件で出てきたんだよ。それで今年がその3年目ってこと。確かに300人程度のハコは埋まるようになった。ただ、この業界では“完全に売れた”とは言えないんだよ。」

「そんな…。」

 小早川は瞳を潤ませ、俯く。床に雫が落ちる。

「そもそも、俺の何が良いの?」

 自信喪失した態度の花天さんが根本的な問いを投げかける。

「私は小さい頃から何をしても上手くいかなくて。勉強もそこそこ。運動神経は悪いし、好きな人に告白したら振られるし。それがきっかけで虐められるし。私何か生きてる意味あるのかなって。そんな時、ふと流し見していたYo〇Tubeで花天さんを見かけたんです。不思議なことに、その時の歌が心にスッと入って来て。こんな私でも生きてて良いんだって、諦めなくて良いんだって思えたんです。それから自然と花天さんを追うようになって。気が付くと身の周りはグッズばっかりで。自分でも作るようになったりして。それで、それで―。」

「あー、分かった分かった。」

 次第に涙と感情が溢れだした小早川を花天さんが手で制す。だが小早川は止まらない。

「分かっていませんっっ!!あなたは一人の女の子を、私を救ってくれたんです。そして、これからも誰かを救ってくれるんです。だから辞めたら…だめですっ。」

 魂を込めた訴えも、花天さんには響かなかった。

「ありがとう…。でも、約束なんだ。高校卒業してすぐ家を出て、もしダメだったら、3年後には実家に帰るって…。」

(あー、もう無理なんだ。何かきっかけさえあれば、高校卒業から3年しかないなんて…。ん?3年?)

「待ってください。3年ってことは後、半年以上ありますよね?」

「確かに半年あるが、今から“売れる”のは無理だろ?」

「私がいます。任せてください。私がやります。」

「「それこそ無理だろ!!」」

「良いから、私に任せなさ―いっ!」

 今日一番の声が出た。恐らくコンサートの時よりも大きい声だろう。当の本人も驚き、周りも口を閉ざす。

 これからは一方的な小早川のターンである。


「あっ、すいません。」

 スタッフからお茶の差入を頂く。あれから15分程経っただろうか。涙も収まり、頭も冴えてきた。

「そろそろ、落ち着いてきた?」

「はい、何とか…。」

「そこで、どうするつもりかい?」

「実は…。」

 と計画を話す。内容をまとめると、花天さんは現在の活動と同じ活動をする。違うのはアップする動画や販売のグッズは事前に小早川へ相談する。そして、小早川は編集や新しいグッズの提案をする。

「それって高校生を働かせることにならないか?」

「バレなきゃよかろうなのだよ。」

 そう言い、「フフフ」と笑う小早川は先ほどまでとは別人である。

「それより、こっちにも機密情報とかいろいろあるから。」

「だまらっしゃいっ!そんなこと気にしている場合かー!」

 2度目の憤慨。また数分宥め話を変える。

「対価はどうしたら良い?」

「そこで条件が2つあります。1つ目は来年の3月末まで活動を全力ですること。2つ目はここを卒業後の就職先にすること。良い?」

「うん、うん」と全員が頷く。もう強制的である。しれっと就職先もゲットした。

 絶対、やってやるからな。見てろよ。推しをこの世の全生物に知らしめてやるわ。


 あれから約半年。大人気歌番組が異例の特集を組んだ。

『音楽業界に突如と現れた新生、その素顔に迫る』

 と題した番組の中心で花天さんは大物司会者と話をする。

「いや、花天さんは正に新生、今やどこに行っても火天さんの曲ばかり流れていますよ。」

「いえいえ、そんなことないですよ。」

「またまたー、ご謙遜を。今年、動画配信サイトにて急ブレイクした花天さん。主要SNSの再生回数は1000億回を超える。長年の下積み時代を経て、最新カラオケランキングにもランクインされた話題曲。それでは歌っていただきましょう、花天さんで『終わらない夢』。」

 事務所で自信を失い、実家に帰ろうとしていた人物と同一人物であるとは全く思えない。自信満々に歌う花天さんの姿が、日本中、いや世界中に轟くのだった。

このエピソードでのミッション達成者

・小早川澪―異能『推しグッズ作成』、ミッション『推しの悩みを知る』、報酬『推しの夢を叶える』

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