小早川澪-1
高校生にとって、長期休みと言うと夏休み、冬休み、GWなどが一般的である。しかし、遠くであるイベントと日程を合わせるとなると、夏休み以外には星の廻りが特別上手くいかない限り難しいだろう。
勿論、一介のオタクである小早川にとっても同じである。部屋には推しのグッズが多数あった。ただ、高校生である小早川には全種類買う金銭的余裕はない。
だからこそ、神から授かった異能―推しグッズ作成―は正に痒いところに手が届くものであった。恐らく小早川が“あの事件”で最も利益を得た人物であろう。ただこの異能には欠点が二つある。一つ目はグッズの作成である為、販売しているグッズがそのまま手に入る訳ではなく、材料は自分で用意する必要があるということである。それでも一つ当たりのグッズ代は明らかに減った。二つ目はこの部屋の惨状である。グッズしかない。ぬいぐるみ、ポスター、アクリルスタンド等挙げだすとキリがない。最近は親にも小言をいわれてしまう。だが、そんなことはどうでもいい。
「ようやく、ようやくこの日がキタ―――っ。」
とうとう、今日、花天さん会えるのだっ!!
朝から高揚感が止まらない。
「行ってきまーす。」
カバンに大量のグッズ(カバンも推しのグッズであり、周りにも缶バッジなどたくさん付いている)を入れて、家を出る。ほんとは旅行用のカートにも準備をしていたのだが、流石に家族に止められた。ご近所の噂になるとのことだ。その何が問題かは分からないが…。寧ろ布教できて良いのでは…?と思うが渋々了承した。
「あー、最高だった!!神―――。ほんと神―――っ。というか目が合ったよね、合ったよね!!」
ライブ会場近くのホテルで、特製ぬいぐるみに話しかける。ライブの興奮冷めやらぬうちにホテルのベッドで悶えている。
「キャ―――っ!!」
ぬいぐるみが潰れている。力を緩めてみたが、少し萎んだ気がする。
「そういえば…」
とライブ中に激しく振りすぎて剥がれた団扇をバッグから取り出す。
「よーし、元気にしてあげるからね!」
手を翳し、「ほーら、元気になるお薬ですよー」と完成形をイメージする。材料が光り、イメージ通りになるよう動き出す。5秒もないうちに、想像通りに出来上がる。
過去に「ほーら、元気の出るお注射ですよー。」と人形に話しかけているところを家族に見られ本格的に心配されたのはご愛敬である。
「よし。ご飯食べに行こう!」
完成に満足し、ホテルを出るのであった。
小早川の資金力では食事付きのホテルは確保できず、外に行くしかない。本当はバーや居酒屋に飲みに行ったりするもんなんだろうけど、未成年なので却下。でも折角の特別な日にファミレスやチェーン店は何か今のテンションに合わない気がする。
そこで、出店でサクッと食べて帰ることにした。特にこの辺は出店が多い。大通りは満席だが、一本脇道に入ると、小早川一人くらいは入る余地があった。
「ラーメン一つ。」
と注文し、出てきたラーメンを食べる。ほんとはぬいぐるみをテーブルに置きたかったが、ギトギトしたテーブルに置くのは躊躇われたので、バッグにかけたままにしている。
すると隣の席にいた二人組が店を後にした。二次会に行くらしい。
ふと推しの曲が流れる。やっぱり良いものだと。ラーメンを食べながら唸る。店主が嬉しそうに見る。お前のラーメンの味に感動してんじゃねーよ、とツッコみたくなったが、今は余韻に浸ろう。
「おい、店主。やってる?」
と若めの青年二人組が小さな暖簾をわざわざ手で押して入って来る。
「お前、なにやってんねん。」
「いやいや。一回やってみたかったんだよ。」
(常連ちゃうんかい。)
またも心の中でツッコむ。かなりテンションが高い青年のようだ。
「今日のライブめっちゃ良かったくない?」
「何か久しぶりにキターーーーって感じだったな。」
(近くで他のライブでもあったのだろうか。さすが都会。)
二人のラーメンとビールを注文した。ラーメンが半分減ったぐらいのところでは既に二人は出来上がっていた。ライブ中に見かけた観客の話になる。
「それに見たか、あの人?」
「あの人?」
「ほら、最前列で、めっちゃ騒いでた子。」
「あー。何か目立ってたな。」
「どう見ても田舎もんだったよな?」
「それに、あの子未成年じゃね?」
(ん?)
「っていうかあの子が持ってたグッズ、うちのもんじゃないよな?」
「ということは手作り?」
(んん?)
「そんな訳ないだろ。手作りの域じゃないだろ。」
「だよな。あんなん作れたらすぐにでもスカウトするわ。」
「そうそう。こんな感じのぬいぐるみで…。」
飲んだくれの一人が小早川のぬいぐるみに触れようとする。
「触らないでっ!!」
「すいません、つい。」
「「ってお前はーーーっ!!」」
どうやら、小早川の一日はまだ終わらないらしい。




