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更生するのに必要なもの-2

「レディース&ジェントルマン。さあ、やってまいりました。2年越しのリベンジマッチ。まずは選手に登場して頂きましょう。青コーナー、過去の敗北から2年に及ぶ修行の末、鍛え上げられた肉体は、その本領を発揮するか?ただ一人を除いて地元じゃ負け知らず、その一人を今日沈めます。最強に飢えた一匹狼、田村啓介!!」

 ノリノリで呼び込みをしているのは永瀬である。よくあんなスラスラ言葉が出てくるものだと感心してしまう。

「続きまして、赤コーナー。日本人離れした長身を見事に包む筋肉が生み出す芸術的なシルエット。その恵まれた体躯は神から授かったのか?もはや種族が違う。未だ敗北を知らぬエゾヒグマ、倉岡湊――!!」

 約6m四方のリングに二人が上がる。周囲には、このボクシング教室の関係者、永瀬、井口、本田、倉岡の妹そしてどこから噂を嗅ぎつけたのか倉岡のかかりつけの医師もいた。総勢20名程。

 結衣の感覚では喧嘩はダメだが、ちゃんとボクシングとしてスポーツでのケジメをつけるのはOKらしい。一番燥いでいるのは彼女だろう。兄である倉岡を一生懸命に応援している。田村は鬼気迫る勢いで、倉岡は少し面倒そうにリングの対角線上に腰掛ける。

 それぞれのセコンドにはボクシング教室の生徒がいる。

「さあ、それでは、ラウンドワンっ!」

「カ―――ン」と会場全体にゴングの音が響き渡る。

 開始と同時に田村は全身全霊で攻めの姿勢である。様子見などしない。もはや防御すらも無視し、攻撃の一手。

 対する倉岡は避ける、守りの一手。田村の隙がある場面でもカウンターをせず、観察に集中する。

 見ている側からすると、「これがボクシングの試合?」と疑問に思うだろう。寧ろ練習の一場面と言われた方が納得行くような試合運びだった。

 そんな中、倉岡は考える。

(田村はどうしてこんなにも必死なんだ?)

 ずっと、田村は全力だった。それも信じられない程に我武者羅でひたすらに真っ直ぐだった。その理由が分かる気がした。そして、こいつを見ていたら妙に腹が立つのはなぜだろうか?

「カン、カ―ン」と第一ラウンド終了のゴングが鳴る。

 それぞれがセコンドの位置に戻る。その時、顔を上げると妹やクラスメイトがいる。

 一方的に攻められ続けた為、体力も精神力もすり減ったが、家族や仲間の顔を見ると、もう少し頑張ることができる。

「ラウンドツ―。」

「カ―――ン」前回同様のゴングが鳴り、田村と向き合う。その時、田村の背後には誰もいないことに気づく。

(そうか、田村は以前の俺なんだ。誰も味方がいない。自分を認めてくれる人がいない。故にどこか投げやりで視野が狭い。井口に助けられるまでの俺と同じだった。だから田村を見るとイライラするんだ。だけど、今は皆がいる。この試合は俺と田村のリベンジマッチではない。俺と過去の俺との決別である。)

「そうか。お前を認めてくれる奴は意外と身近にいるんだぜ。」

「何の話をしてる?」

「さあな?」

 ここに来て、初めて倉岡が攻めに入る。田村の右ストレートに合わせるようにカウンターを放つ。的確に田村の顎を捉え、脳を揺らす。一発でリングに沈めた。


 目を覚ました田村が一番に見たのは見覚えのない天井だった。所々汚れが目立つ天井。

「ん?どこだ?」

 問いに答える者はいない。その代わりに田村の耳には何かを叩くような音が絶え間なく流れる。ゆっくりと上体を起こし周囲を見ると、先程試合を見ていたボクシング教室の生徒が練習に励んでいる。

「あー、そうか…また負けたのか。はははは。いやー、負けた、負けた。完敗。って痛っ。」

 現実を受け止め、視線を落としたかと思いきや、急に大声で笑いだした。KOの後遺症か頭痛に頭を押さえる。

「おいおい。脳震盪なんだから、もっとゆっくりしときな。」

 片倉が田村を窘める。件の医師である。実はこのボクシング教室は元々片倉が仲間と立ち上げたものであり、今は実質的には仲間が運営しているのだが、時々顔を出しているらしい。

「なあ、何で俺は負けちまったのか?俺は弱いのか?」

「いや、お前は強いよ。今までいろんな奴を見てきたが、その中でも随一だ。」

「なら、何で…。」

 拳をベットに打ち付け、悔しさを滲ませる。そんな田村に対し、片倉は冷静に告げる。

「お前の経験や身体能力は倉岡と遜色ない。だが、見て見ろよ。今のあいつらを。」

 促した先には、倉岡達がボクシング教室の生徒と一緒になってトレーニングをしている。

「そうそう、そんな感じ。もっと腰の捻りを利用して。」

「110、120、130、140……。頑張れ頑張れ。」

「はい、俺の勝ち。次の人―。」

「はーい。30秒の休憩でーす。次が3ラウンド目だよ。」

 倉岡が技術的な指導をし、井口が縄跳びをカウント、本田は腕相撲や綱登りで勝負をし、永瀬が時間の管理をしている。

「倉岡にあってお前にないのも――それは仲間だ。」

「そんなもんで強くなるはずがない。」

「だが、見てみろ。実際お前は負けたんだ。最後のカウンターだってそうだ。お前はいつも相手の顔面ど真ん中にしか攻撃しない。良く言えば猪突猛進。だが、格上相手には通用しない。読まれてカウンターを喰らう。」

「それと仲間が何の関係がある。」

 まだ話が読めない田村に苦笑しながら片倉は続ける。

「もし、お前に仲間がいたら、アドバイスをしてくれたかもしれない。試合に熱中し過ぎた時にふと落ち着きを取り戻すきっかけになったかもしれない。“勝ちたい”以外の戦う理由をもたらしてくれるかもしれない。」

「どれも仮定の話だ。」

「だが、倉岡は第二ラウンドが始まって何かを掴んだみたいぞ。」

 数十秒の沈黙―――。懺悔するかのように、許しを乞うかのように田村が吐露する。

「…じゃあ、どうしたら良い?俺には腕っぷししかない。他に知らないんだ。」

「だったら、これから学んでいけばいい。」

 田村の告白に片倉は、ただ淡々と、だが愛のある声で教える。

「知らないなら学べばいい。仲間がいないなら作ればいい。幸い、お前はまだ若いんだ。いくらでもやり直せる。その場所がここだったら尚の事有難いんだがな。」

「ああ、分かったよ。俺はここで、ここにいる仲間と一緒にボクシングをするよ。」

 田村はリベンジマッチの会場にもなった片倉ボクシングジムの生徒となった。


 数年後、ある小さなボクシングジムに世界タイトル獲得者が現れた。

 その時の記者会見で、なせそこまで強くなれたのかを記者に問われた王者はこう答えた。

「どうしようもなかった俺を助けてくれた仲間たち、そして常に俺より前を走ってくれたライバルのお陰です。」

このエピソードでのミッション達成者

・永瀬葵―異能『口達者』、ミッション『スポーツイベントに参加』、報酬『ちょっとだけ運気が上がる』

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