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更生するのに必要なもの-1

 人間は何度でもやり直せるとはよく言うが、他者がやり直そうとしているかどうかはすぐには分からない。まして、2年近く会っていなかった人物では分かるはずもない。

「よぉ、やっと帰って来たぜ。倉岡ぁ。」

 非常に大柄な男が不敵に口角を上げる。

「さあ、喧嘩しようぜ。」


 時は遡り、2年前ーーー。

 地元では有名な不良であった田村啓介。中学三年に入ると同時に周囲の中学のトップになった。要するに、“地元じゃ負け知らず”状態である。しかし、悪い事をしたいのではなく、単に喧嘩好きなのである。全力で向かい合い、肉体と肉体で語り合う。そんな拳での会話が好きなのだ。

 しかし、とうとう地元では喧嘩をする相手もいなくなった。そんな時、ある噂が耳に入る。

「近くの中学に喧嘩が強い奴がいる。」

 すぐに会いに行った。見た瞬間に彼のことだと分かった。広い肩幅、盛り上がった上腕、太い太腿。第六感が危機を察する。それでも、田村は止まらない。倉岡の目の前に立ちはだかり、宣言する。

「さあ、喧嘩しようぜ。」

(決まった!)

 心の中で思った。対する倉岡は、「うわぁ。」という顔をし、蔑んだような目で一瞥する。

「いや、結構です。」

 さらっと否定し、すぐ横を通り抜ける。

「ちょ、ちょっと待て。」

「いや、ほんと良いです。結構です。」

「そう言わずに、ね?」

「間に合っってます。大丈夫です。」

「いやいやいや。ね?ちょっとだけ。ね?」

「喧嘩にちょっとも何もないだろ。」

「な?やろうぜ。」

 キャッチと拒否する客のようなやりとりを重ねるも、全く靡く気配のない倉岡に業を煮やし始める。

「あー、もういいや。」

 何かを諦めたように項垂れたと思いきや、いきなりジャブを食らわせていた。

「おっと、危ないな。つーか、またかよ。」

 田村の拳を受け止め、倉岡は心底がっかりしたように肩を落とす。

「なんでこの手のやつはすぐに手が出るんだよ。まあ。こんな人通りのある場所じゃなんだし、場所変えるか。」

 倉岡の提案に田村は目を輝かせるのだった。


 人通りもない河川敷。手入れもされていない伸びっぱなしの草の間に、砂だけのスペースが広がっている。普段は誰も来ないし、年に数度、こっそり花火をする子供が現れるぐらいである。使い捨てられた花火が所々に捨てられている。

 場所を移してからは早かった。

「よっしゃ。行くぞ!」

 田村の掛け声と喧嘩が始まる。

 田村のジャブ、フック、アッパー、ストレート、時には蹴りも入れ、流れるような攻撃をする。しかし、倉岡は意に介していない様子で、軽く逸らすか避けるかする。

「おらおら、避けるだけじゃ、勝てねーぞ。」

 猛攻を仕掛けるが、涼しい顔で防ぎきる。

「ちっとは攻撃してきたr―――。」

 倉岡のボディブローが田村の腹部に直撃する。余りの衝撃に片膝をつく。

「誰か知らねーが、お前もこの程度かよ。」

 一蹴りで、勝敗が決してしまったのだ。

「くそがっ。」

 横になった状態のまま、砂を握りしめ悔しさを露わにする田村。

「じゃあな。」

 そのすぐ近くでカバンを手にとり、帰る準備をする倉岡の顔は実に退屈そうだった。

「絶対、次は勝つからな。」

 叫び声を背に倉岡は淡々と帰宅するのだった。


 あれから2年―――。

 近くの高校の悪ガキに喧嘩を売ったり、道場やボクシングジムに通ったりもした。しかし、田村の相手になるような人物はいなかった。道場やジムも数か月通うと学ぶことがなくなった。無論、本格的にプロへの誘いも一度や二度ではなかったがすべて断っていた。

「プロになる前に決着をつける相手がいるんで。」

 持って生まれた腕力だけではなく、技や知識を増やした今の田村に勝てるものはいない。

 満を持して、倉岡とのリベンジマッチを決意した。

「さあ、喧嘩しようぜ。」

 前回の蔑んだような目ではなく、倉岡は呆れたような顔で大きくため息を吐く。

「こんな人通りのある場所じゃなんだし、場所変えるか。」

 この言葉に懐かしさを感じた。


「10分で良いか?」

 スマホを操作しながら、気楽な口調で話す。

「はあ?」

 田村は疑問を呈する。田村からすると、待ちに待った相手に出会ったが、お預けされている状態である。

「じゃあ、10分な。割と面倒なんだから…。ほら、さっさと来いよ。」

 スマホのタイマーをセットし、挑発のように手招きをする。

「こっちもこっちで事情があるんだ。さっさと済ませるぞ。ほら。」

 田村の目を一瞬大きく開き、吊り上がった。これが漫画だったら、目じりの少し上に怒りマークが入っていることだろう。

 大きな深呼吸し、一拍。

「ふっ、はっ、やっ。」

 田村は左ジャブと右ストレートを中心に様子を見る。絶え間ない攻撃に、緩急をつける。ちょっとした不良程度なら、この組み合わせで追いつめられるのだが、倉岡は大柄の見た目に反して、小刻みなステップで回避する。

 決して離れず、されど決して触れられない距離を一定に保つ。

「おいおい、これでも当たらないかよ。」

 声にもテンションの高さが現れる。

「仕方ないな。」

 変わらず左ジャブをし、右ストレートを倉岡の顔面に向けて放つ。鼻先まで近づくが空を切る。しかし、ここまでは田村の想定通り。反時計回りにスキップをした倉岡の腹部目がけ左キックを食らわせる。必中のタイミングだった。

 勝利を確信した田村は頬を緩ませる。倉岡からの苦しみの声が漏れる…はずだった。

 しかし、その直後聞こえたのは声ではなく、大きな物音だった。

 何かが爆発したような音が鳴った方向を見ると、橋の支柱に最近できたであろう黒ずみと何かの破片がボロボロ落ちている。

 反対を見ると、倉岡と同じクラスの永瀬葵と本田樹である。格好から見て本田が何かを支柱に投げて音を出したのだろう。だが、言葉を発したのは永瀬だった。

「何やっとんじゃ、お前らはー。」

 雷親父のような怒声だった。

 すっかり二人は毒気を抜かれてしまった。倉岡は田村の足を手から離し、距離をとる。

「ちぇ、当たってなかったのかよ。」

 田村は不貞腐れたように、足元の小石を蹴る。

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