表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
38/56

琴葉詩織と若菜新-4

 琴葉が求める『高嶺の花も空回る』の第二巻の話の流れは次の通りだ。


 ・一ノ瀬は事あるごとに天堂に突っかかるが、天堂は全て上回り、一ノ瀬を揶揄う。

 ・その度一ノ瀬は立ち上がり、特訓をした。

 ・しかし、転機が訪れる。天堂に彼女ができたのだ。家庭的な雰囲気のある如月結奈。女子人気№1の天堂に彼女ができた噂は瞬く間に広がった。そのタイミングで一ノ瀬は天堂に対する恋心に気づく。

 ・身を引こうと思った一ノ瀬に追い打ちがある。先輩から嫌がらせをされる。

 ・天堂が一ノ瀬を助ける。一ノ瀬は天堂がストーカー被害から守るために、如月の彼氏を演じていることを知る。

 ・ストーカーが捕まり、一ノ瀬が天堂に告白をし、結ばれる。


 実際は、一ノ瀬は本当に天堂と如月が付き合っていると信じ込み、嫌がらせから守ってもらった負い目ら自ら身を引くエンディングとなっていた。要するに、如月が天堂と付き合うフリをする原因になったストーカー問題の解決と一ノ瀬の誤解を解けば良いのだ。若菜は何度も何度もチャレンジを繰り返した。しかし、物語の中で実体験としてその渦中にいる若菜は

「何でだ――――っ!!!」

 叫んでいた。床を殴りつけ、不満を露わにする。

「どうなってんだよ。ラブストーリーじゃねーのかよ。ほとんどのルートで誰かが死ぬじゃねーかよ。俺も何回か死んだぞ。モブなのに…ってモブじゃねーよ。」

「良いね!取り乱してるね!私の苦しみが分かったか!」

「一ノ瀬のストレス状態によっては、天堂が彼氏役をしたのに気づいた瞬間、如月を殺すし。嫌な先輩が蹴った時の一ノ瀬の体力によっては頭打って死ぬし。ストーカーも早くどうにかしないと如月が逆恨みで天堂を殺そうとするし。一ノ瀬が自棄になって他の人と付き合おうとしたら、天堂が怒り狂って無差別殺人しだすし。何なんだよ。サスペンスかよ。」

 怒りの若菜とその様子を見て楽しんでいる琴葉。琴葉の中ではもう『高嶺の花も空回る』の改変はどうでもよくなった。あれほどまでに期待し、胸を高まらせ、絶望し、激怒したにも関わらず、琴葉の興味は目の前の小動物に向けられていた。

「ねえ、もう辞める?」

 悪魔の囁きが鼓膜を振動させる。顔を上げると愉悦に浸る琴葉が見下している。

「ごめん、今は答えられない…。もう少し待ってくれ。」

 若菜は項垂れ答えた。


 若菜は鬼塚と帰路に着いていた。

「おい、どうしたんだよ若菜。」

「どうって別に。」

「と言っても、どう見てもいつもと違うぞ。」

 若菜は静かに歩みを止める。

「なあ。もし、万が一、どうしても成し遂げなくちゃいけないことがあって。でも、どうやっても、何度やっても上手くいかなくて。失敗して失敗して。そんな時鬼塚ならどうする?」

 震えた声で尋ねる。すると不思議そうな顔をして鬼塚は答える。

「なら、するしかないだろ?必要なことなんだろ?」

「でも、でも辛いんだ。何度も何度も挫けて、その度に傷ついて。もう限界なんだよ。」

 止まらない。言葉が、本音が、懺悔が、言い訳が―。

 鬼塚に想いが伝わったのか、今度は真剣な顔をする。

「それでも、やるしかないだろ。それとも諦めて目を背けるか?確かに楽だろうけど、それで満足できるのか?辛く傷つき、恥辱にまみれようとも、曲げてはいけない事。成し遂げなければならない事が必ずあるはずだろ。」

「鬼塚―――。」

 諦めていた心に闘志の火が再燃した。

「そうだよな。負けっぱなしはカッコ悪いよな。」

 思えばこの“リターン”能力を得てから、負けっぱなしだった。やり直せるから良いだろうとどこか手を抜いていたのかもしれない。知らず知らずのうちに本気ですることを止めていたかもしれない。

「よし、俺頑張るよ。だから手を貸してくれないか?」

「勿論!」

 二人が手を交わす。鬼塚がいれば何にも負けない気がした。


 今までの苦労が嘘だったようにとんとん拍子で進んだ。

 事あるごとに鬼塚に相談、連携をすることで、「こうした方がいい、ああした方がいい。」とアドバイスがもらえる。その通りにすると誰も死ぬことなく、ハッピーエンドで終えることができたのだ。

 今までの苦労は何だったんだと思う。

「鬼塚はどうしても譲れないものはある?」

「あるよ。俺は真実が知りたいんだ。だから聞くけど…若菜ってこの世界の人じゃないよね?」

「えっ?」

 目の前が真っ暗になり、強制終了させられた。

「どういうこと?まさか登場人物がこちらの世界を言い当てた?」

 琴葉からしても想定外だったようで、困惑した様子が見て取れる。

「まあいいわ。最後の所は編集で…いや、そのままの方が寧ろ意外性があるか…。」

「そんなことより、全部ハッピーエンドで終わったんだからここから出せよ。」

「ああ、そうだったわね。お疲れ様。今後とも宜しくね。」

「もうごめんだよ。」

 漸く本から解放された若菜だったが、その顔に笑顔はない。

 なぜなら…

「わーかーなー。」

 顔を真っ赤にした教頭がすぐ近くにいたからである。

「なんでここにいるんだよ。」

「琴葉が教えてくれたんだよ。」

「裏切ったな。」

「私は見つからない場所を紹介しただけで、そこから出た時のことは約束してないわ。」

「そんな屁理屈…。」

「何が屁理屈だ。」

「やばっ。」

 再度始まった教頭と若菜の鬼ごっこを微笑ましく眺める琴葉。

「これからも楽しませてね。若菜くん。」


 その日の夜―――。自宅の目の前でバットを振る若菜がいた。両親は涙を流し、若菜の復帰を喜んでいる。

「今度は諦めないからな。高校でダメなら大学、社会人、トライアウト何でもやってやる。」

 それは小さい頃、まだ野球を始めたばかりの時期。何をするにも我武者羅にやっていたあの頃のワクワクした目を輝かせた。

このエピソードでのミッション達成者

・琴葉詩織―異能『本を一冊、保存・修正できる』、ミッション『理想のシナリオに改変する』、報酬『現実の人物に興味を持つ』

・若菜新―異能『リターン(1場面のみ時を戻す)』、ミッション『現実に向き合う』、報酬『譲れないものを見つける』 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ