誘拐事件-3
後日、日高が「お礼がしたい」と自宅へ招待をしてくれたのだが、到着した5人は門の前で固まっていた。端が見えない塀が両側に延び、門も5メートルはあろう木造の扉に、立派な屋根板がある。
家を間違えたかと何度も確認するも、送られたURLの地図はしっかりとこの場所を示す。表札も「日高」と達筆な字で書いていある。
「何かあったら本田君が頼りだからね。」
「そうは言われても…。」
本田の異能ー怪力ーがなければ皆逃げ出していただろう。
「私は直接助けに行った訳じゃないから、帰っていいよね。」
と百田が一抜けを図るも、そうは問屋が卸さない。全員で止めに入る。
その重々しい空気を吹き飛ばすように、古風な扉が軽々しく開かれる。
「やあ、皆よく来てくれた!これはお礼だから、寛いでってくれよ!」
日高がこれ以上ない笑顔で、もてなしの宣言をする。一方、5人は引きつった笑みを浮かべるだけだった。
日高の案内で連れていかれたのは和室。日本特有の古き良き文化。全ての日本人の遺伝子に刻まれたそれは、日本人の心を癒し、安らぎを与える…はずである。
しかし、5人は全く休まらない。寧ろ緊張がうなぎ上りである。
まず、和室の広さ畳20畳を上回る広さに5人。木製のローテーブルが中央にあり、書院造の構造をしている。掛け軸はあるし、生け花もある。甲冑もあるが、特に異才を放っているのが、背後にある日本刀。2振りの日本刀が飾られているが、その存在感は本物のそれである。
「改めて、今回は助けてくれて本当にありがとう。」
日高が頭を下げる。
「「「「「いえいえいえ」」」」」
全員が「恐縮です。」と反応を示す。
「それよりも…」
と谷﨑と高橋が目を泳がせる。日高が「あー」と得心がいったように頷き、皆が求めている説明を行う。
「実は、うち、古くからの名家ってやつで。普通の家よりは特殊な家なんだ。だからこそ標的になったんだと思うけど…。」
と自嘲的に返す。
「そんな名家ならボディーガードとかいないの?」
“名家”という響きが緊張感を上回る。自分達とは異なる生活についての好奇心もある。まさかボディーガードまではいないだろうと、冗談めいた質問で和ませようという意図もあった。
対して「ボディーガードねー。」と目を一瞬逸らし、
「助けてくれた恩人に不義理は許されないよね。基本的に24時間いるんだ。」
と手を叩くと、日高の向かいの襖から黒服が現れた。
「お嬢、お呼びでしょうか?」
「呼んだだけよ。戻りなさい。」
「はっ。」
女子高生に呼ばれ、命令に従い、戻っていった。
(今、お嬢って言ったよね?)
(言った。絶対聞いた。)
(どういうこと?)
とこそこそ裏で話す女子達。意を決して高橋が聞く。
「“名家”って言ってたけど、何してる家なの?」
「うーん。前に聞いてみたけど、教えてくれないんだ。お前にはまだ早いって。」
それを聞いてキョロキョロするクラスメイトを見て、
「いや、皆良い人だよ。すぐ怪我して帰って来るけど、いつも”困ったことがあったらすぐに言ってね”って言われてるし。ちょっと言葉が乱暴な時があるから、たまに私も出ちゃうことがあるけど、とってもいい家族なんだよ。」
と言い、家族アピールをする。
(これって確定だよね?)
(裏の人だよね?)
(大丈夫?私達生きて帰れる?)
ひそひそ話パート2が実施された。
「そんな家族なら、あの日はボディーガードいなかったの?」
大瀬良が核心を突く問いをする。
「実はそれがミッションだったんだよね!あの日の登下校はボディーガードを付けないって。その日の朝は大変だったよ。」
嘆くように、遠い目をして言う。
「朝からパパが“どうにか一人だけでも良いから”とか“何なら俺が行く”とか言ってきたから“一人でも来たらパパの事嫌いになるからね”って言ったら玄関で放心してた。」
(一人だけでもってことはいつもはたくさんいるってことだよね?)
(お父さん大丈夫かな?)
(パパっ娘だよ。実在したんだ!)
などと、ひそひそ話パート3が実施されていた。
「今日も人払いしてるから気にせずゆっくりしてね。勿論必要な時はさっきみたいに呼ぶから。」
緊張もやや解けた面々は、楽しい時間を3時間ほど過ごした。
「それでそこまでの危険を冒してまで欲しかった報酬はなんだったの?」
宴も酣になって来た頃、高橋が問う。
「それは…」と目線を大瀬良に向け、
「一生のパートナーが見つかるって、キャッ!」
と「言っちゃった!」と顔を赤くし、大瀬良に抱き着く。
「「「ええー、何それ。」」」
と女性陣が盛り上がる。
「そのために、命を懸けたってこと?凄いロマンティックじゃん。」
と興奮状態だ。「だからね…」と一拍置いて。
「逃げられると思わないでね。」
少し声が低くなった気がする。大瀬良も「これは無理なやつだ…」と思いながらも、満更でもない様子で頬を掻く。
「で、結局誘拐犯は捕まったのかな?」
と話題を変えるように仕向ける。
「ニュースにもならないもんね。」
意図を汲んだ本田が話を繋げる。「ナイス」と大瀬良は心の中で叫んだ。日高は大瀬良を一瞥したが、重要な内容でもあったため、返事を優先した。
「大丈夫だよ。逮捕されたらしい。報道がないのはパパが手を回したみたいだから。」
「じゃあ、俺達あの場に居なくて良かったね。何か事情聴取とかされたら説明面倒だし。」
パトカーのサイレン音が鳴っていたので近くまで来ていたのであろう。その場で「異能がどうのこうの」言うのは流石に気が引ける。
「でも、うちの者が言ってたのを聞いたんだけど、誘拐犯の一人が自首してきて、後日他のメンバーも逮捕されたらしい。それよりも…今何ではぐらかしたのかな?」
「いや、まあ、何だ。今後のこともちゃんと考えているから…。」
予想外の反応に日高は先ほどよりも顔を真っ赤にし、
大瀬良は今後の人生を想像し、ビビりながらも密かに楽しみにしていた。
このエピソードでのミッション達成者
・大瀬良理久―異能『解毒』、ミッション『仲間と協力し被害をなくす』、報酬『彼女ができる』
・高橋愛梨―異能『鑑定』、ミッション『仲間と協力し被害をなくす』、報酬『親友ができる』
・谷﨑遥―異能『心を読む』、ミッション『仲間と協力し被害をなくす』、報酬『親友ができる』
・日高由衣―異能『治癒』、ミッション『指定された日にボディーガードをつけない』、報酬『彼氏ができる』
・本田樹―異能『怪力』、ミッション『仲間と協力し被害をなくす』、報酬『親友ができる』




