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誘拐事件-1

 新年度が始まり、1月が過ぎた。

 このクラス(というより高校3年生のこの時期には誰でもそうだが)は別のミッションー中間テストを終了したところである。

 この桜彩学園は進学率も高く、2年生までで高校の学習の8割以上は終えている。3年生になっても授業はあるが、この時期にはほぼ高校の全ての学習を終えている。つまり、中間テスト時点の成績で今後の進路の大筋を決めるのだ。その為、否応なく勉強モードに切り替わる。2年目に突入した異常事態に立ち向かう前に倒さなくてはならない敵―中間テスト―を終え、解放感に浸る者、テストの感触に一喜一憂する者、既に切り替えて別のことに注力する者と反応が分かれる。

 今日までは部活動もないので、生徒は疎らに校門を通り、帰路に着く。

 高橋愛梨もその一人である。交差点を何度か曲がり、学生以外にも人通りが少なくなってくる。高橋ももうすぐ帰宅だと思っていた時、高橋の前方15メートル程先で車が急停止をした。何事かと高橋も目を向けると、車から大人が3人降り、女子高校生を抱きかかえ車に乗せる。時間にして僅か5秒。完全な誘拐である。

「よし、任務完了。これで金をがっぽり頂くとしよう。」

 高橋の異能、全自動テレパシーが発生し、誘拐犯の心情が伝わる。高橋は「警察、警察!」とスマホを取り出し、110番を押そうとするが、「まあ、警察にバレた時はこいつをバラして、とんずらすれば良いだけだし。」と追加のテレパシーが伝わる。

 更にパニックになる高橋。

「誰か、助けて!!」

 次は高橋からのテレパシーが3人に伝わる。今まで受信のみだったから、送信ができるとは思っていなかった高橋は驚く。“全自動”とは銘打っているものの、パニックになっている高橋は異能に頼る他ないと集合場所を頭に思い浮かべ「伝われ!」と祈る。

「蓮台寺八反公園に今すぐ。〈アスター〉に消されたくないなら、絶対に来て!」

 とさっきと同じメンバーに伝わる。ちょっと脅しっぽくなってしまったのを心の中で詫びながら指定した公園へ走り出す。

 

「おっ、来た来た。急に呼んでごめんね。」

 テレパシーが伝わったのは谷﨑遥、大瀬良理久、本田樹―――。

「呼ぶのは良いけど、何で呼ばれたか分からないんだけど。」

「実は―――」

 と高橋が説明するが、

「えっ、それは警察に任せた方が良いんじゃない?」

「誘拐犯が『警察が来たら日高さんを殺す』って聞こえたの。私の異能はテレパシーだから。どれだけ願っても私のテレパシーが届いたのはこの3人だけだったの。お願い。私に協力して。」

 実際に現場を見た高橋には焦りの様子を見せる。

 数秒の沈黙。高橋の顔から汗が落ちる。

「勿論、協力するよ。寧ろ俺の方からお願いしたいくらいなんだ。実は、俺のミッション“仲間と協力し、被害を無くす”ことなんだ。多分この解決がミッションなんだと思う。」

 大瀬良の言葉に他3人が驚きの表情を見せる。

「私のミッションと同じ。」

「私も…。」

「俺も…。」

 この場にいた4人のミッションが同一だったと判明。誰が考えても偶然ではないだろう。

 ここまで条件が揃った上で、共同戦線を離脱する者はいなかった。まずは情報提供としてお互いの異能を紹介し合う。


 谷﨑遥―異能:透視

 高橋愛梨―全自動テレパシー

 大瀬良理久―解毒

 本田樹―怪力


 この四人による日高由衣奪還戦が始まる―――かと思ったが、出鼻を挫かれる。

「ところで、日高さんは今どこにいるの?車で攫ったならどこか分かんないよね?高橋さんのテレパシーとか谷﨑さんの透視で探せないの?」

 大瀬良の素朴な疑問。しかし、誰も答えることはできない。そもそもどこにいるかが分からなければ、何もすることができない。

「無理。さっき説明した通り、“全自動”だと思うから。」

 断言できないのは、先ほどの送信でこの3人にピンポイントで送られたからだろう。

「私も不可能よ。透視といっても、壁一枚すり抜けて見える程度で、遠い距離、しかもどこにいるか分からない人を探すほどのものではないよ。」

 スタートからずっこけた形である。

「それなら私に任せな。」

 返事をしたのはこの公園にいるはずのない人だった。スマホのスピーカーからの音声である。

「皆―、聞こえる?私、百田朱莉。」

 本田のスマホから百田の声が鳴り響く。

「もう少しで、日高さんの居場所が分かりそうだから。」

 そもそも話を聞かれていると思っていなかった3人は「なぜ百田さんが?しかもどうやって?」と言う言葉を飲み込む。すぐに百田の異能によるところだろうという推測は成り立ったからだ。


 この公園に集まる前に本田はファミレスに集まったメンバーにラインを送っていた。公園に向かう途中に百田から返信があり、先に状況を話していたのだ。

「協力してくれるのは有難いんだけど、先に皆にも話しておいた方が良くない?」

「良いじゃん、黙っといた方が面白そう!サプライズ的な!」

 と、顔を見ずとも、ニヤリと笑っているのが想像できる。


「おっと、場所が分かったよ!ここは、へー。何と言うかベタだねー。」

 焦りを見せる4人を他所に、勿体ぶる様に、そして楽しそうに百田は言う。

「日高は今、新港近くにある今は使われていない物置倉庫にいる。さあ、後は皆の仕事だ、頑張ってね!!」

 バラエティー番組のMCのような百田の宣言により、決戦会場が決定した。

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