終業式-2
〈アスター〉が退出した後、教室内は静まり返っていた。一人、もう一人とカバンを持って帰路に着く。スマホをちらちらと確認をして、タイミングを見計らっている生徒もいる。
次第に人数が減っていき、教室に留まったのは5人だった。しかし、これは偶然ではない。
「今回も急遽時間もらってごめんね。」
百田が作ったような笑顔を見せた。
「いや、やりたいことは分かるけど、どうするの?」
「話し合いも満足にできないでしょ?」
緒方と相良がお手上げ状態、打つ手なしだとはっきり告げる。
「本当にどうしたら良いんだろう?」
「かと言って、何もしないわけにはいかないだろ?」
本田と渡辺が続いた。ファミレス会議のメンバーである。〈アスター〉の退出後すぐに、「教室に残っておいて。ファミレス会議―教室Ver.―」とグループL〇NEで呼びかけておいたのだ。
「では、第何回目か覚えていないけど、ファミレス会議―教室Ver.―を始めます。渡辺君の言う通り、何もしない訳にはいかない。そして、何ができるかも分かっていない。だから少しずつ検証していこう。」
いつもの明るい百田に戻っていた。
小一時間に及んだファミレス会議―教室Ver.―は命を削る試行錯誤の連続だった。呼吸困難13回、心臓を握りしめられたかのような恐怖感に襲われること8回。膨大な代償と引き換えに得た情報は思いの外、少ない。
「これで分かったことと言えば…。」
・自発的に自分の意見を言うのはOK
・他者から強制はおろか誘導すらNG(人数は無関係)
・その対象は口頭だけではなく、SNSや文字にまで及ぶ。
この事実を知るのにかなりの体力と精神力を使った。
「じゃあ、何がどこまでできるか、やってみよう!言い出しっぺの私から行くよ。」
百田は宣言する。生唾を飲み、覚悟を決める。
「私は「はい」と選択しました。」
一拍開けて、両手を横に大きく広げる。
「セ―――フッ!!」
黒板にチョークで分かったことを記入していく。
【できること】
・前回の投票結果を自発的に大勢の前で言う
「次は俺の番だな。俺は次の投票でも「はい」に投票する。」
一拍開けて、両手を横に大きく広げる。
「「セ―――フッ!!」」
百田と渡辺が全く同じポーズで言う。
「って百田も言うんかい。」
渡辺は黒板の前まで行き、箇条書きに追加する。
・前回と次回の投票先を自発的に大勢の前で言う
ここで安心したのが間違いだった。
「次は本田ね。本田はどれに投ひょ…」
渡辺の言葉が不自然な箇所で止まる。片手で首を掴み、もう片方の手で胸倉を掴む。
ゆっくりと前屈みになり、倒れていく。
「「「大丈夫?」」」
と4人が駆け寄る。すると、何事もなかったように立ち上がる。
「っく、苦しかったー。」
【できないこと】
・次回の投票先を大勢の前で聞く
そこからは壮絶なロシアンルーレットが始まった。
前回の投票についてはどうか?次回の投票ではどうか?
自発的なら良いのか?他者からの強制・誘導・依頼はどうか?
大勢の前ではどうか?二人ならどうか?
口頭ではどうか?SNSや手紙ではどうか?
投票先のみがダメなのか?「はい」の利点・欠点など間接的なものは良いのか?
ありとあらゆる項目を調べていった。アウトになる度、辛い思いをしたが、それでもやり遂げた。死はないし、秒数にして1~3秒の苦痛であることが保証されているからこそできる行為だった。
「それで、これから何ができるか何だが…。」
「誰がどれに投票したか、次どれに投票するかのは本人から言う以外ない訳でしょ。ならできることはないじゃん。」
黒板の前で難しい顔をする渡辺に、百田が机に突っ伏した状態で応える。
「いや、ある。」
珍しく緒方が話に割って入る。
「“いいえ”を選択する人を変えさせることはできないが、もう一つの条件“「はい」または「いいえ」が過半数”についてはやりようがある。」
「やりようって何?」
「簡単だ。今後もミッションと異能を継続することの利点をそれとなく会話に織り交ぜれば良いだけ。」
「本当にそれだけで良いの?」
「良いんだよ。」
「それに6人も変える必要はない。私も“どちらでもない”から“はい”に変えるから、あとは5人変われば良い。丁度ここにいるのも5人。1人ずつ投票先を変えさせれば良い。勿論、無理に聞き出したり、投票を促したりせずにね。」
「でも、それって難しくない?」
「何となくで良いんだよ。会話の中で、「3年生になっても異能が使えれば便利だよね」とか「異能があったから、こんな良い事があった」とかさりげなく伝えれば、意外と考え何て簡単に変わるよ。それに、“いいえ”の2人も自分のせいで終わらなかったら、流石に諦めるでしょ。」
「そんな上手くいくかな?」
それぞれの問いに答えながら、解決策を提示していく。
「何か緒方さん変わったね。」
「は?」
「だって、最初の頃はツンツンしてたのに、こんな真剣に話してくれるなんて。」
「いろいろあったんだよ。いろいろ。」
百田に茶化された緒方は照れ隠しするように、話をまとめる。
「とにかく多くをする必要はない。さりげなく、会話に溶け込む程度にするだけ。良いな。」
「「「はーい。」」」
気の抜けた声で返事をするのだった。




