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終業式-1

 学生達の1年を終える終業式。1年間の感謝と達成感に包まれた厳かな日になるはずだった。

「そんな日に申し訳ない、と形式的に言ってはみましたが、特に、そう言った思いはないです。」

 多くのクラスメイトが約1年振りの〈アスター〉との対峙である。

「皆さん、今までお疲れさまでした。私が思った通り、いや、思った以上でした。」

 以前と同様、生気のない口ぶりだが、どこか声が上ずっているようにも聞こえる。クラス中が睨んでいることなど気にしていないかのように立ち振る舞う。

「だから、皆さんには…ある選択をしてもらいます。このミッションを放棄しそれまでの日常に戻るか、このままミッションを継続するか。」

「そ、そんなの…。」

「放棄一択だと思いますか?」

「「「―――っ。」」」

 思考を読んだかのような発言に息を飲む。

「安心してください。既にミッションを達成した人には…新たなミッションはありませんし、報酬も予定通り授けます。ミッションが未達成の人もペナルティもなければ、報酬もありません。」

 安堵するクラスメイト。対して、微かに口角を上げ、〈アスター〉は続ける。

「しかし、達成した人は何か良い事があったのではないですか?その異能をこれからの1年間も使いたくはないですか?まだミッションを達成していない人もその報酬は貴方にとって非常に魅力的なものではないですか?」

 各々がそれぞれのタイミングで視線を泳がせる。発言が余りにも的確であったからだ。

「と言っても、すぐに話し合いというのは難しいでしょう。だから、ある人に依頼することにしました。ここにいないクラスメイトです。」

「それって…。」

「そうです。佐倉大翔君です。」

 すると〈アスター〉のすぐ隣に魔法陣が形成され、佐倉が召喚される。常識では計り知れない現象によって現れた佐倉はと言うと、

「えっ?どうしたの?皆?」

 と、ぽかんとした表情をしている。

「佐倉、無事だったのかよ。」

「皆さん、良い感じに混乱してますね。」

 感動の再会に〈アスター〉が水を差す。

「現在は数多ある世界線の1つに過ぎない。たまたま挨拶をしなかった。教室にあったゴミを拾ってみた。そんな些細な出来事でその世界線の中から1つが確定される。佐倉さんがいる世界線も勿論、可能性があったのです。私はその世界線を今に反映をさせるだけです。皆さんの脳には反映ではなく、追加をしますが…。元の記憶が消えてしまっては意味が無いですからね。それでは…。」

 直後、〈アスター〉が両手を前に突き出す。クラスメイト全員になかったはずの記憶が植えつけられる。修学旅行も文化祭も佐倉がいなかった記憶と、佐倉がいた記憶が重複して刻まれた。

「これ、どうなってるの?」

「頭が追い付かない…。」

「何これ?」

 2重の記憶に困惑を隠すことができない。それでも〈アスター〉は止まらない。

「時間が経てば徐々に記憶の整理ができるはずです。時間が解決するので、まずは目の前の課題に集中してください。」

 生徒達の混乱は無視し、課題に話を戻す。

「デモンストレーションをしましょう。佐倉さん。頭に浮かんでいる投票を開始するを選択してください。」

 佐倉が静かに頷く。すると全員の脳内に選択肢が提示される。


 ミッションと異能を継続しますか? はい いいえ どちらでもない


 心の中で選択をしたところ、未投票の人数がリアルタイムで表示され、未投票が0になった。

「投票が終わったので、結果を発表します。」 

 それぞれの選択肢を選んだ人数が表示される。誰が何を選んだかは表示されていない。


 はい…7名

 いいえ…2名

 どちらでもない…15名


 佐倉を除いた24名の結果が大きく表示される。今回は脳内ではなく、黒板に映し出されている。プロジェクターやスクリーンはないが、そこにツッコむ余裕はない。

 誰がどの選択をしたのかと教室内がざわつき始めた。

「ではルールを提示します。」

 生徒達のリアクションには全く触れず、淡々と掲げられたルールは以下の通り。


・3年生、1学期の始業式の日に再度投票を行う。

・「はい」または「いいえ」が過半数(13人)になる、かつ「はい」または「いいえ」を選んだ人が0人になると可決となる。

・可決しない場合は15分話し合いの後、再度投票を行う。これを可決するまで実施する。

・投票は各自の自由意思によるもので、誰かに強制されるものではない。また、いかなる方法でも他者の投票意思に言及にしたり、追求したりすることはできない。


 提示されたルールはシンプルなものだった。しかし、一か所どうしても納得いかない点がある。

「言及したり、追求したりすることはできないって、どうやって話し合えば良いのよ?」

「だって、皆さん“「いいえ」が誰だったか”探そうとしてますよね?」

 永瀬の問い、質問で返す。

「そりゃそうでしょ。その方が早く決まるんだから。」

「でも、それじゃあ、面白くない。なぜ「はい」なのか。なぜ「いいえ」なのか自分の主義主張を話し合った方が面白い。どうしてもしたいならご自由に。おすすめはしませんが…」

「今回の投票で「いいえ」を選択したひ…。」

(「いいえ」を選択した人)と呼びかけようとしたが、続きの言葉は出てこなかった。代わりに首元を押さえ、苦しそうにもがく。

 〈アスター〉がパンッと手を叩くと、永瀬は酸素を取り戻すべく、荒い呼吸を繰り返す。

「このように数秒辛い思いをするので、止めた方が良いですよ。」

 一通りの説明を終え、〈アスター〉は最後に一つ付け加えた。

「あ、あと、次の始業式まで現在の異能は剥奪していますので、そのつもりで…。異能で投票を歪められたらたまりませんから。でも、大丈夫ですよ。次の始業式までは死ぬことはないですから。」

 そう言うと、教室をゆっくりと出ていった。

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