小さい友達
(皆、凄いなー。)
本田は昨年を振り返っていた。始業式の事件から2年1組は激動の1年だった。文化祭や生徒会長選挙も過去に例を見ないほどに盛り上がった。井口と倉岡の関係も10ヶ月前と比べると良い方向に変わっている。恐らく異能を使って、ミッション達成を通して変わっていったのだろう。
しかし、本田樹は1年生の頃と何も変わっていない。分かりやすい「怪力」という異能だというのに…。この力を使ったのも始業式後に500円玉を変形させた時と、車の下に落とした小銭を拾う為に車を動かした時などちょっとした出来事だけである。だからと言って、目に見えて好転したわけでもなく、悪くなったわけでもない。
例の事件がなければこんなに退屈には感じなかっただろうが、周囲が破天荒な生活を送っているのを見ると自分の人生が余りにも空虚なもののように感じる。
「はあ。」
大きなため息を吐き、足元の石ころを蹴る。
石の行方を目で追うと、公園のブランコ近くで止まる。まっすぐ家に帰るのもどうかと思い、ブランコに腰掛ける。ふと立ち寄った公園はブランコと鉄棒があるだけのごくごく小さいものだった。
何となくブランコを数回漕いでみる。ギ―ギ―と錆びれた音が鈍く響く。
(何か、フリーターっぽくない?)
ちょっと悲しくなった。ブランコを止めてみるも、音が止まない。
隣を見てみると、いつの間にか小学生がブランコを漕いでいた。小学生も自分に気づいたようで、ブランコを止める。
「高校生にもなって、ブランコが楽しいのかよ。」
子どもの第一声は何とも喧嘩腰だった。
「ふんっ。」
子どもがブランコを漕ぎ始める。今度は立ち漕ぎだ。ぐんぐんと加速していき、揺られるブランコの高さも増していく。比例するようにブランコが軋む音も大きくなる。頃合いを見計らって、靴を半分脱ぐ。
「おりゃあ。」
子どもの声とともに靴が飛んでいく。子どもはケンケンをしながら、靴の着地点まで移動していく。靴のそばまで行き、近くの木の枝で印をつける。
「俺はここな。ほら。」
超えられるものなら超えて見せろ、という挑発である。数分無視してみたが、靴を履きながらこちらを見つめ続ける子どもが可哀そうになってくる。
仕方ないと、ブランコを漕ぎ始めると、少しだけ子どもの顔が明るくなった気がする。
「そりゃ。」
俺の靴が子どもの頭上を越えて、はるか遠くに落ちる。
子どもの顔がゆっくりと振り返って頬を膨らませる。走って俺の靴を拾い持ってくると再び靴飛ばしを始めた。
「もう一回!!」ということなのだろうか。前回よりも飛距離を延ばした子どもの靴がこちらを向いている。ここで無視するのも気が引けるため、とことん引き合うことにした。
そこからは時間が経つのが早かった。靴飛ばし、かけっこ、なぞなぞ、木登り、鉄棒…などたくさんの勝負をした。その全てに勝利をしたが、子どもは挫けず何度も挑戦してきた。
日も暮れ夕方になると、子どもとの距離もだんだん近くなって来た。
「お兄ちゃん、なかなかやるな。」
全敗しているにも関わず、相変わらずの上から目線である。それでも嫌味がないのはこの子の特性なのだろうと思う。落ち込んだ様子はかけらもなく、寧ろ楽しそうに笑顔を見せる。
「お兄ちゃんは凄いね。まあ、俺も大きくなったら余裕で超えるからね。」
ブランコを立ち漕ぎしながら偉そうに告げる。金属の軋む音が激しい。
「だから、さあ。また勝負してよ。」
「また会ったらね。」
「だからさあ。」
少し恥じらいながら、ブランコを飛び降りこちらを見る。
「俺と友達になっ…。」
友達になってと言おうとしたところ、さっきまで子どもが漕いでいたブランコが今までにないくらい大きな音を立てて、子どもに襲い掛かる。子どもが顔を手で守り衝撃に備えようとする。しかし、いつまでたっても衝撃が来ないことに違和感を覚え、恐る恐る顔を上げる。
「大丈夫か?」
俺の問いかけにゆっくりと頷く。
「よし、じゃあ動かすぞ。」
ゆっくりと倒れかけていたブランコを安全な所に倒していく。
「困ったな。後は俺がしとくから。お前は家に帰りな。」
「お前じゃない。」
「えっ?」
「名前。」
「ああー。」
ここに来て初めてこれまでお互いに名前を言っていないかったことに気づいた。
「京田流星。ちゃんと覚えて。またここに来るから。」
「おうよ。京田君、宜しくな。俺は本田樹。」
「よろしく。本田兄。またね、絶対だよ。」
何度も振り返りながら帰路に着く京田を見えなくなるまで見守った。
「変な子に懐かれたな。」
顔を搔きながら、ブランコの設置者である役所に電話をするのであった。




