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相川すずと相良紬-3

 高校2年生の2学期。更に期末のテスト。相川にとっては約半年必死に勉強してきた。それは元々勉強が好きな相良も目を見張る程だった。その頑張りを素直に嬉しく思うと同時にどこか寂しく思う。それ程頑張るのは何故か?勉強が好きなわけではないのだろう。それ程、報酬が魅力的なのか?相原をエネルギーの中心になったのは何なのか?

 それが深津であるのなら…俺は…。

「俺は、何よ?」

「え?」

「別にいいわよ。」

 時々、相原は異常なほどの察しの良さを見せる。そして極まりが悪いのか、そっぽを向く。誤魔化すように「そんなことより…」と前置きをして話し出す。

「今度の期末、手を抜いたら許さないからね。」

「分かってるって。」

 相原は1位を目指している。それ以上に負けず嫌いである。


 それから2週間後、テストの結果が発表された。桜彩学園はテスト結果をプリントにして配布される。その後友達と共有するも良し、自分一人で眺めるも良し、或いは見ずに捨てるも良し。“後はご自由に”のスタンスである。


 相川も相良も自身の成績表はまだ見ていない。これは事前に約束をしていたことだ。

 他の生徒が帰宅した後の教室―――。日も傾き、寒さが体の芯まで染み込む。

「ふぅー。」

 大きく息を吸い、ゆっくりと吐く。手の先には成績表。

「いくよ。」

 相川が声と視線で相良に了承を得ようとする。相良はしっかりと頷き答える。

「「せーーーのっ!!」」

 掛け声とともに、勢いよくプリントを裏返す。

 今回の科目は主要5教科、500点満点でのランキングである。


 相川:483点―1位

 相良:476点―2位


 相川が念願の学年1位を獲得した。

「や、やったー!」

 相川が飛び上がって喜ぶ。

「おめでとう!!」

 相良も純粋な笑顔で祝福する。

「これも相良君のお陰だよ。ありがとう。」

「ちょ、ちょっと。」

 屈託のない笑顔で、相良を抱きしめる。相良の体がビクっと反応する。

「ちょっと何?そんなに悔しかったの?震えてるじゃない。」

「そ、そんな訳じゃなくて。」

「いいの。というより…。」

 相川が相良から離れる。相良もホッと一息つく。

「アンタ、手を抜いたんじゃないでしょうね?」

「それはないよ。」

 はっきりとした物言いで返事する。

「ふん。嘘はついてないみたいね。」

「勿論。」

「本当にありがとうね。それじゃあ。」

 嵐のように過ぎ去っていく相川。残された成績表を改めて見比べる。

 相川との差は単純なケアレスミスである。計算ミスにスペルミスが相川よりほんの少し多い。

「まあ、これも仕方ないか…。手は抜いてないんだけどな。」

 少し自嘲的に笑う。実際手を抜いたつもりは全くない。ただ、今回のテストは集中が欠けていた気がする。

「とりあえず、帰るか。」

 相良も帰宅の準備を始めるのだった。


 相良の家は母子家庭である。

 父が他所に女を作って出て行った。紬が4歳の時だった。最早、父の顔も思い出せない。ただただ母が泣いている姿だけが記憶に根強く残っている。

 しかし、母親というのは強いもので1月もしないうちに就職をし、パートも始めた。一日中働き、家事も行っていた。紬も小学校に入った頃から手伝いを始め、貧しいながらも何とか生活をしていた。母はことあるごとに

「お父さんは酷い人だった。紬はそんな人になってはダメよ。ちゃんと勉強して、ちゃんとした大人になりなさい。そして紬は男なんだから、女性には大切にしなさい。」

 と、耳に胼胝ができる程言い聞かされた。逃げるように勉学に向き合った。次第に成績が伸びたことで、塾に通わせられた。そのうち、“女性は男性を良く思っていないのではないか?”という気持ちが相良紬の根底に根強く残った。結果、学力の伸びと反比例して、女性への関心が減っていった。

 気付けば、テストで学年1位を取っていた。母も喜んだ。努力が報われ、嬉しかったが、取ってしまえば“そんなもんか”って程度だった。既に勉強は趣味の域である。知識が増えることが面白いし、明らかな正解が確実にある。人間関係ではこうはいかない。間違いじゃない正解もあるし、ある時には正しいことも、ある時では不正解になることもある。勉強は心の安定剤であった。そんな時、

「どうなってんのよ!」

 いきなり机を叩いて、怒っているクラスの女子がいた。ほとんど話したこともない“女子A”としか認識していない人物だった。何に怒っているのかと思えば、単に勉強が分からないからという「なら勉強しろよ」としか言いようがない内容だった。その後、しつこく話しかけられ、あれよあれよと勉強を教えることが常態化した。

 教えてみると馬鹿だった。めっちゃ馬鹿だった。ちょっときつく言えば、すぐ諦めるだろうと思っていた。だが、めげずに聞いてくるし、言ったところは気をつけるようになる。人に教えることは初めてだったが、何だか楽しくなっていた。

「うちの彼氏がね…。」

 勉強の合間に彼氏の話をする。その時の顔が幸せオーラ満載だった。その顔が魅力的に感じると共に、何かモヤッとした。そんな時は自分の勉強を進めた。更に学力が上がったが、少し虚しかった。


 恋人達が最も盛り上がる日、クリスマス。

 相川もその一人だった。美容院に行き、服も新調。普段しないメイクもした。勿論、下品にならないように若さを活かした露出を控えたメイクに完全ナチュラルメイクである。そして、あらゆるケースを妄想し、覚悟を決める。そしてにやにやする。準備やイメージトレーニングもばっちり仕上げてきた。見る人が見れば、その違いが分かるだろう。時々踵を上げながら、今か今かと待っている。

 相良はその様子を偶然見かけ、「頑張れ」と心の中で祈り、自習室へ向かった。

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