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相川すずと相良紬-2

 午後は各種エリアを回る。深海の生き物たちのエリアやクラゲのエリアなど分野に分かれている。

 深海エリアや光るクラゲの展示の為に、周囲は薄暗く、足元が覚束ない。十数分もすると、相川カップルと谷﨑カップルはお互いが見えない所まで距離ができていた。

「それでね、それでね…。おっと。」

 相川が慎也へ話しかけ続けるところ、小さな段差につまずく。

「大丈夫かよ。」

 抱えるようにして、慎也が相川を支える。

「ごめんさない。」

(慎也が最近冷たいと思っていたけど、そんなことない。最高の彼氏よ。)

「気をつけろよ。」

 頬を赤く染め、うっとり顔をする相川。

(でも、残念。もう少し明るかったら、今のときめいている顔をしっかりと見てくれるだろうに…)

 それくらい今の私はときめいている自信がある。この表情を見てくれないのは、とても損な気がする。

「よし、いくぞ。」

 先に歩みを進める慎也を相川は追いかけるのだった。


 追いかけると、慎也がある一点を見て、相川を止めるようにジェスチャーを送る。相川が歩みを止め、慎也の視線の先を見ると、谷﨑と八木がキスをしている現場だった。

「あっ。」

 声が漏れ、後ずさる。顔を動かさず、目線だけを横に向ける。慎也の右手がある。顔が熱くなるのを感じる。鼓動が早くなる。息も荒くなる。

 思えば、年上の彼氏ができたことに浮かれていたが、何もできていない。キスも行為も、何なら手を繋いで出かけたことすらない。今がチャンスなのでは?この暗さを利用できるのではないか?

 意を決して、右手に飛び込もうとする。

「またか?ほんと気をつけろよ?」

 相川が転びそうになったと思ったのか、再度支える。

(「じゃあ、手、繋ぐ?」ぐらい言ってくれればいいのに…)

 結局、相川は手を握れることはなかった。


 週明けの放課後ーーー。教室にて、相良と相川が話をしている。

 相川が相良に授業内容について質問して以降、時々、相良が相川に勉強を教えている。

「どうしたの?今日はいつも以上に計算間違いやスペルミスなどケアレスミスが多いですけど。」

「別に…。」

 シャーペンで机に渦巻きを書いている。

「もしかして、週末のデートで何かありましたか?」

「はあ?何であんたがデートのこと知ってるし?キモっ」

「あれだけ教室で話してたら聞こえますよ。で、何があったんですか?」

「別にないし、寧ろ何もなかったし。楽しかったし、谷﨑も八木も楽しそうにしていたし。何も問題ないし。」

「はあ。何かあったんですね…。別に詳しくは聞かないですけど。」

「聞けし。」

「どっちなんだよ?」

 相良が落ち着いて問い、相川が興奮した様子で捲し立てる。相川が大きく息を吸い、ゆっくりと吐き出す。

「ところで、友達のことなんだけど…。」

 と前置きをして、ぽつぽつと悩みを打ち明ける。

「付き合ってまだ数か月なんだけど、彼氏が冷たいというか…。わた、その子を避けてる気がするというか…。デートの時はスマホばっか見てるし。こっちは手を繋いだり、イチャイチャしたりしたいのに、全くその気がないような…感じがする。勿論、友達の事なんだけど。」

「それって付き合ってるの?」

「付き合ってるよ。ちゃんと告白されてOKしたし。」

「ラインはしてる?」

「してるよ。最近減って来たけど。」

「どんな?」

「こっちが“おはよう”って打ったら、“おはよう”って帰って来るし。“どこどこ行きたいね”って打ったら、“いつかね”ってだけ帰って来る。」

「それって…。」

「うん。分かってる。でも、彼もきっと私のことが好きなはず。だから、何か理由があるはず。それとも、私ってそんなに魅力ない?」

 意外な問いに一瞬ギョッとしたが、真剣な顔で答える。”私”が主語になっていることに相川は気づいていない。

「あるよ。魅力。」

「例えば?」

「苦手な勉強も頑張ってるし、少しずつだけど結果も出てる。周囲からの人気もあるし、いつも笑顔だし。他の人を気にしてないようで、気にしてくれるし。どんな人とも仲よくしてるし。他には…。」

「も、もう良いから。止めろし。」

 相良は褒めるのを止めたが、このタイミングで相良の思考が伝わって来る。

(好きな人の為に一生懸命だし、どんな仕事でも笑顔でやるし、というかスタイルがいい。高身長。顔も良い。って口では言えないけど…)

 相川の顔がトマトのように真っ赤に染まる。

「相川さん?」

「は?別に。動揺してないし。つーか、私の事じゃないし、友達のことだし。もう、私帰る。今日は終わり。ありがとうね。」

 荷物をバッグに入れ、撤収をする。

「さようなら。」

 驚いた顔をする相良を残し、教室を出る。廊下を走る。たまたま教師もいなかった。動悸が収まらない。息を切らし、靴箱にもたれる。少し休憩。

「ばかぁ。」

 相川の口から出た言葉は宙をさまようだけだった。

 

「水平リーベ―僕の船、名前があるシップス…。」

 夜遅く、暗い道を帰路に着いていた。

「にしても、今日は遅くなったな。ショートカットするか。」

 いつもは大通りを通って帰るのだが、今日はいつにも増して、授業が白熱したことと、講師への質問に列を成したことで、帰りが遅くなったのだ。仕方なくショートカットを選択する。

 薄暗い小道を足早に通る。光は約20m間隔にある街灯の周囲のみ。言い方を変えれば、人通りも少なく、隠れてナニかするには、これ以上ないシチュエーションとも言える。

 何本目かの街灯を通り過ぎたところ、街灯の下に2人組が抱き着いているのを見つけた。

(まあ、そういうカップルもいるだろう…。)

 反対の側を駆け足で通り抜けようとした時、抱き着き、口付けまでしていた男女をちらっと見る。意図せず異能が発動する。そこにはまさかの人物ー【深津慎也】ーと表記されていた。

 足を止めかけたが、寧ろ怪しまれないように速度を上げた。足を止めてしまうと問いただしたくなってしまうと思ったからだ。無性に腹が立った。ふと握りしめた手を見ると、寒さで赤くなっていた指が白くなっている。

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