表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/56

相川すずと相良紬-1

 時は遡り、〈アスター〉による始業式の事件から2月経った頃。夏の暖かさがやや顔を出し始めた。

 その頃ミッションをすることを決意した人物がいた。相川すずである。

「すずー。週末のWデートなんだけど…。」

 相川の周りには人が入れ替わり立ち替わり訪れる。

 相川すずも例のごとくミッションを課されたのだが、正直深く考えてなかった。普段の会話の中でもよくミッションの話題が出るが、相川は「秘密―。」とか言って誤魔化す。そうすれば深く聞かないのがクラス中の暗黙の了解となっていた。しかし、そろそろ行動に移らなければならない。相川のミッションは時間を要するのだ。


【相川すず】ミッション:テストで学年1位を取る。


 尚、相川の学力は下の上から中の下である。要するに“良くもなく悪くもない”というところである。正直必死に勉強をする必要性も感じないし、それなりにできればどうでもいい。意欲もない、能力もない。真っ当な方法では、順位を大きく上げるのは非常に困難である。そこで、使えるのが異能である。相川の異能はクラスメイト一人の思考を読む、というものである。

 そして、思考を読む相手は無論、成績上位の常連。相良紬、通称『ガリ勉君』である。

 『ガリ勉君』については何の感情もなかった。ただのクラスメイト。会話も数える程しかない。ただ、テスト中は異能が使えなかった。不正はNGということだろう。試しに授業中に異能を使ってみた。


 0<θ<π2のとき

 上の図より△OAB、弧ABとする扇形OAB、△OACの面積はそれぞれ

 12sinθ<12θ<12tanθ

 ⇒ sinθ<θ<tanθ

 となる。さらにそれぞれをsinθで割ると

 1<θsinθ<1cosθ

 またθ→0のときlimθ→01cosθ=1であるため挟みうちの原理より

 limθ→0θsinθ=1

 つまり0<θ<π2のときlimθ→0sinθθ=1となる。

 −π2<θ<0のときも同様にlimθ→0sinθθ=1となる。

 よって

 limθ→0sinθθ=1


 うん。何言ってるか分からない。恐らく、今先生が説明しているところなのだろうが、チンプンカンプンである。私、この人に勝たないといけないの?無理ゲーじゃん。


 とは言え、とりあえず机に向かう。30分、勉強をしてみた。宿題はほとんど忘れないが、今回は+αの勉強だ。なんかレベルが上がった気がする。明日はきっと大丈夫なはず。

 再度、授業中に『ガリ勉君』の思考を読んでみた。


 y=axとし、対数関数にすると

 x=logay

 yで微分すると対数関数の導関数より

 dxdy=1yloga

 逆数にすると

 dydx=(ax)′=yloga=axloga

 よって

 (ax)′=axloga

 またa=eとするとloge=1なので

 (ex)′=ex


 うん。全く分からん。昨日勉強したところだったのに。こんなことを繰り返した。相川の不満が日々増加している。正に指数関数的な右肩上がりである。

「どうなってるのよ。」

 耐えられず相良の机を叩く。驚いた相良がビクっと体が跳びあげる。椅子から数センチ浮いたかもしれない。

「俺、何かしましたっけ?」

 自分の記憶を探りながら返事をするが、実際何もしていないので、心当たりはない。

「ここ!」

 先程、授業中にあった問題を指差す。

「えーと、この問題が何か?」

「何でこうなるの?」

「えーと、それは…。」

「だから、それは―が―で、―が―すると、―で―。」

「ここは何でこうなるの?」

「ここは前習った公式の―――。」

 思いの外、相良の特別講義は盛り上がり、次の授業開始のチャイムまで続いた。


「ねえ、すずの彼氏ってどんな人?」

 相川と谷﨑が話している。女子高生の話題ナンバーワン、恋バナである。

 相川も頬を緩ませ、スマホを片手に自慢をする。

「この人―。大学生なんだけど、何か理系で、PCとかとても詳しいんだ。でも、根暗って訳じゃなくて、デートでも率先してリードしてるし、“大人”って感じ。将来はIT関連の会社に勤めるって言って…。」

 幸せの絶頂であるかのように、幸福を振りまく。

「そういえば、Wデートは明日だったよね。」

 谷﨑が日程の確認を行う。

「そうだよ。慎也バイト休みとれたって。」

「えー、何それ。」

「いいなー。」

「週明け、感想とか教えてよ。」

 話を聞きつけた数人が加わり、教室の一角が花が咲いたように盛り上がる。


「おーい。こっち。」

 相川が手を振って、友達に位置を知らせる。

「ごめん、ごめん。待った?」

「待ってないよ。」

「あっ。」

 谷﨑が既に待っていた相川に対して謝る。隣には彼氏の八木がいる。

 二人はどこかで待ち合わせてから来たのか、たまたま会ったのか、手を繋いでいたことに気付き、手を放す。無意識に手を繋いでいたのだろう。何かずるい。

「ところで、深津さんは?」

「うーん、ちょっと遅れてるみたい。もう少しで来るだろうから、待ってもらっていい?」

「いいよ。」

「ごめんね。せっかくのデートなのに…。」

 慎也が来たのはそれから15分後、約束の時間からは10遅れてからだった。


「わりぃ、わりぃ。」

「別に待ってないよ。」

「えーと、遥ちゃんと八木君だっけ?遅れてごめんねー。」

「いえいえ。大丈夫ですよ。」

「深津さんは大学生なんですよね。勉強とか就活とか忙しいですよね?」

「まあ、そういう訳じゃないけど…、とりあえずどっか行こうか?」

 慎也の誘導にて、場所を移動させるのであった。


 ということで、水族館に来た。Wデートとはいえ、ずっと4人一緒に行動するのではデートとは言えないだろう。その為、水族館を回る時には見える範囲で少し距離を取り、昼食などは一緒にと計画していた。

「うおーー。凄ーーい。見てみて奏多。」

「おおー、デカいな。スゲーー。」

「ねえねえ、写真撮ろう。写真。はいチーズ。」

 魚をバックにキャッキャウフフしている。その隣5m程開けて、相川達も会話を繰り広げる。

「ねえ、この魚形が面白いね。」

「そうだね。」

「ねえねえ、エイの裏側ってこんな顔なんだね。」

「そうだね。」

 慎也はスマホを操作しながら、相槌を打つ。

 もしかして、水族館が好きじゃなかった?と気になりはするものの、谷﨑たちもいるので今更場所を変える訳にもいかない。

 相川はめげずに慎也に一方的に話しかけ続ける。


 お昼時になったので、水族館内でランチをすることになった。

 4人テーブルである。谷﨑はイルカが描いてあるパンケーキ、八木は魚のフライがあるカレーを注文した。水族館で魚を食べるのは気が引けないだろうか…。と思いながら、相川は魚のキャラクターがこれでもかとデザインされているパンケーキとパフェ、深津はカルボナーラを注文した。カルボナーラにはスプーンに魚が印刷されただけだった。

「それでどうだった?」

「凄くおもしろかったです。」

「寧ろ、私達ばっかりはしゃいじゃってすみません。」

 慎也の問いに谷﨑カップルが答える。

「いいよ。いいよ。それに楽しんでいる遥ちゃんを見てると、俺も楽しくなるし。」

「そう言ってもらえると有難いです。」

「ちなみに、遥ちゃんは大学はどこに行くの?」

「竹ノ内大学を目指してます。」

「竹ノ内大学か。じゃあ、近くだね。実家から通うの?」

「そうですね。できれば一人暮らしもやってみたいですけど。」

「一人暮らしが良いよ。俺も一人暮らしだし、お世話になった不動産も紹介するから、ライン教えて。」

「いやー、それは…。」

 グイグイと谷﨑に迫る慎也。

「はいはいはい。ちょっと待った。料理が来たよ。」

 慎也がウエイトレスに目を向けた隙に、こっそり谷﨑が相川に「ありがとう」と感謝を伝える。

 気まずい空気のまま昼食を終えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ