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ファミレス会議

「ってどうなってんだよー。」

 顔を突っ伏しているのは、百田朱莉。

 ファミレスの一角で高校生男女5人が集まって話している。言わずもがな2年1組の生徒達だ。男子3人と女子2人が向かい合っている構図だ。

 特別親しいメンバーという訳でもなく、どこかよそよそしさを感じる。実際それぞれが過去1年間、廊下ですれ違ったかも…ぐらいの間柄であり、話すのも今日が初めてである。

「まさか、あんな事態になったのに、ホームルーム後の呼びかけに応えたのがたった4人だったとはな。」

 呟くのは渡辺優。

「悪かったわね。誰も誘いに乗らなくて…。」

 と百田がいじけた様に返す。

「そういう意味じゃなくて…。」

 渡辺がやんわりと否定する。2年生になって最初のホームルームで百田を含むクラス全員にミッションと異能、そして報酬が示された。それもクラスメイトの消失という見せしめを伴って…。

 放課後になって百田がクラスメイトに声を掛け、近くのファミレスでの会議を提案して回っていたのだ。了承をした者から順にファミレスへ誘導していたので、大多数が少しでも情報を得ようとすると予想していたのは間違いない。だが、実際に来たのは百田と他4人のみ―――。

「皆状況が飲み込めてないんだよ。」

 相良が独り言のように吐露する。

 そこに今まで一言も発していなかった緒方凛が会話に割り込む。

「悪いけど、”会議”ってことだから私は来たの。有意義な時間にならないなら帰るけど。」

 と、教室での自己紹介の時と同様、さっぱりした印象だ。

「まあまあまあ。とりあえず、改めて自己紹介しよっか。私は百田朱莉。ミッションは一定期間のスマホの禁止。異能は動物との会話。報酬は芸能界への進出でーす。」

 ピースサインを片手に溌溂と自己紹介を行う。

「スマホ禁止とか、きっつ。」

「そうなんだよー。スマホないと生きていけないよ。私、立派なスマホ依存症だよ。現代の闇だよ。」

「何で偉そうなんだよ。」

 百田の自己紹介に渡辺がツッコむ。

「というか、スマホを一定期間止めれたら、芸能人ってこと?めっちゃいいじゃん!」

「NO!NO!スマホ禁止ってことはSNSだけじゃなく、非常時の連絡手段やスマホゲームも禁止ってことだからね。これはかなり難易度高いクエストだよ。」

「クエストって言ってんじゃん。ゲームじゃねーんだぞ。」

「分かってるわ。もう私のはいいでしょ。じゃあ次は…。」

 と振られたのは一番奥に座る暗そうな眼鏡男子。

「相良紬。ミッションは告白。異能は鑑定。報酬はある出来事に関する記憶を消去する権利。」

「ある出来事って?」

 百田が素早く問いかける。

「教えない。」

「えー、けちー。」

 一瞬百田は口をとがらせるが、女子としてはそれ以上に気になる単語について言及する。

「ちなみに告白ってプロポーズのことだよね?相手に心当たりは?」

「あると思う?」

「思わない。」

 相良の言葉にニコッと笑い、即答する。これ以上は踏み込むべきではないと話を次の人に振る。

「緒方凛。ミッションは正義執行。異能は視覚情報を保存できる。報酬はある人の救済。」

「正義って曖昧だな…何したらいいんだろう?視覚情報の保存って単に記憶力が凄いみたいなの?」

「そういうのじゃない…と思う。」

 ただ、ぶっきらぼうに答える。百田も「ふーん」ぐらいで返す。

「というより、ある人の救済って何?」

 相良が興味本位で問うが、瞬間緒方に睨まれる。明らかに「深入りするな」という牽制だ。

「ひえっ」という声が零れるが、「つ、次は俺だな。」と切り替え自己紹介をする。

「渡辺優。ミッションは着替えを常備。異能は音・声のコピー。報酬は自己の本質に気づく。」

「何それ?」

「あんただけイージー過ぎない?」

「っていうか自己の本質ってなんだよ。モラトリアムなの?」

「何か俺の時だけ辛辣すぎない?助けてよ本田―。」

「無理無理無理。」

 助けを求めた渡辺を本田が回避する。

「んな奴より、えっと、本田さんだっけ?あんたは?」

 今度は緒方が「早く。」と言わんばかりに急かす。

「ああ。名前は本田樹。ミッションは仲間と協力し、被害をなくす。報酬は親友ができる。異能は怪力。」

「へー。何かすごいじゃん。」

「”被害”ってどんなのだろう?」

「怪力ってどれくらい?」

「俺の時と違い過ぎない?」

 自分の時との女性陣の反応の違いにぼやく渡辺を他所に本田は何かを握りしめた手を前に出す。

「試しにやってみたらできた。」

 と手を広げると。変形して丸められた金属がテーブルに落ちる。

「何これ?」

 と一同がのぞき込み、百田が手に取る。相良がいち早く気づき「えっ、やばっ。」と驚愕の声を挙げる。本田の思考を読んだのだろう。

 百田が金属に入った数字を見つけ、その正体を言う。

「ひょっとして500円玉?」

「正解。」

「やったー。」

 クイズ番組で正解したかのように百田が喜ぶ。その手に握られたのは元々500円玉だったものだが、本田の異能によって変形し丸められたのだ。


 それからというもの、飲食をしながら1時間半にも及ぶ会議によって導かれた結果は…“分からん!!”というものだった。テーブルには食べかけのフライドポテトや人数分のコップが置かれている。

「もー何なの。あいつ。そもそも時を止めるって何?異能って厨二じゃないんだから。」

 百田が足をバタバタさせながら、自棄になる。

「だから、あいつについて考えても、意味ない。考えたところで、私達では理屈なんて分からないんだから。これからについて話し合うのが先決でしょ。」

「といっても、何したら良いかも分からないんだよね。」

 女子2人がこの日何度目かのループに陥る。

「せめて全員のミッションと異能が分かれば方向性も決められるんだけど…。」

「って言っても、言いたくない人もいるだろうし…。」

 男子3人も会話に入るも手詰まり。先ほどの緒方の様子を見るに積極的に話したくはない人もいるだろう。

「あっ、相良君の鑑定で全員のミッションとか異能とか分かったりしない?」

「それは無理。」

 百田の意見もすぐさま否定される。

「どうやらこの異能は名前とか年齢とか分かりやすいものしか鑑定できないし、それに読みやすい人、読みにくい人がいるみたい。クラス全員のミッションや異能を見るなんて不可能。」

「そんな簡単には行かないかぁー。」

「…完全に手詰まりだな。」

 完全な沈黙がファミレスの一角に流れる。

「あー、もう。仕方ないから、私達は今回の件に関しては協力をする。以上。これでいい?」

 と痺れを切らした百田が立ち上がり要請に見せかけた宣言をする。それぞれの反応は、

「了解。」

「うん。」

「分かった。」

「私にできて、過度に負担のかからない範囲で、他に優先する事項がない場合という条件でなら。」

 と、条件付きで同意を得た。ちなみに最後の発言は緒方だった。


 これにて第一回の会議は幕を閉じた。

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