文化祭-5
1大イベントを終え、達成感と共に、どこか寂しさを感じる片付け。
小早川の異能はあくまでも“創造”である為、片付けには使用できない。クラスの装飾から呼び込みの為の看板まで綺麗に処分をしなければならない。また、片付けを終えたクラスから解散できる為、大忙しで行った。ちなみに全体の優秀賞発表は後日行われる。
「大瀬良君―。」
日高が呼び止める。
「おう。ってその服全部持ち帰るのかよ。」
「勿論。」
文化祭で使った10着の衣装が日高の腕に乗せられている。日高自身が小柄なのもあり、ギリギリ床に着かないよう一生懸命掲げている。
「手伝うよ。」
見かねた大瀬良が衣装の大半を手にとる。
「ありがとう。じゃあ、校門までお願い。」
「迎えが来てるの?」
「まあね。」
気まずそうに頬を掻く日高。
「―にしたって、よくあんなスクープ写真手に入れたね。またするの?」
「いや、無理だろうな。あの2人はもう付き合って長かったんだよ。だけど、その分踏ん切りがつかなかった。要するに“きっかけ待ち”だったんだよ。同じ状況の人はそうはいないだろうね。」
「でも、どうやって写真は手に入れたの?」
「どうって。本人からだよ。」
「えっ?」
思いもしない返答に足を止める。
「あー、えーと。」
今度は大瀬良が気まずそうに視線を泳がせる。
「他の人には言うなよ。」
人差し指を口の前で立て、経緯について教えてくれた。
「田中先生。」
職員室でニコニコした顔で教師に話しかける大瀬良。
「どうしたんだ?」
流石に余りにも怪し気な雰囲気に身構える田中先生。その田中先生の耳元で核心を突く一言を発する。
「田中先生って、森本先生と付き合っていますよね?よければ別室でお話しませんか?」
「なっ。」
一瞬目を見開いたが、次の瞬間には冷静を装い、応える。
「良いでしょう。ではすぐに移動を。」
移動先は日本史の授業で使用される教室。担当教諭の森本先生のクラス写真や森本先生自身の写真が掲示されてある。
「私、選択教科で日本史を取っているんです。森本先生ってマメですよね。“今週の良い思い出”ってプライベートの写真と簡単な文章を掲示してるんです。」
教室の周りを歩きながら大瀬良が話す。
「そこに写っていたんですよ。田中先生の時計、ハンカチ、しまいにはネクタイまで。そして、今回の写真に決定的なものが映り込んでいたのです。テーブルの上にある鏡に田中先生の姿が。」
刑事のように徐々に、徐々に追いつめる。
「思えば、共通点の多い2人です。同じ大学の同期。そして、この高校に赴任になり、3年目。そろそろプロポーズも考える頃ではないでしょうか?」
「…。」
田中先生は無言を突き通す。
「知っていますか?森本先生は男子生徒にも非常に人気の先生です。無論、教師としてだけではなく女性として。可愛らしい見た目は勿論、距離が近く、話しやすい安心感が由来でしょう。そして私は女子生徒とこんな話をしていたところを見ました。“やはり結婚は早くしたい。結婚を考えない人とは付き合えない”と。」
「…結局、何が言いたいんだ。」
業を煮やしたのか田中先生は本題へ促す。
「プロポーズしませんか?」
「そんな…。」
田中先生は逡巡を見せる。
「万が一、森本先生が田中先生と結婚する気がなければ、即刻中止します。私が森本先生の意志をこっそり確認します。“いける”と判断したら、適切な場を設定します。その為に、2人の写真を1枚貸していただけませんか?」
田中先生は葛藤したが、スマホを操作し始めた。
「ってな感じ。」
「あんたねー。上手くいかなかったらどうするつもりだったのよ…。」
話を聞いた日高はこめかみを押さえて、呆れた声を出す。
「それは大丈夫。というか、話をしたのは、森本先生が先だったから。」
「えっ?」
「森本先生があんな分かりやすい証拠を何度も掲示する訳ないじゃん。あれは森本先生が意図的に仕掛けたトラップだったんだよ。」
「どういうこと?」
森本先生の意図が汲み取れず、疑問を呈する日高に大瀬良は名探偵のように謎の答えを示す。
「森本先生は長年交際関係にあった田中先生がプロポーズをしてくれないことに悩んでいた。だから、バレるかバレないかギリギリのラインを攻めることで、田中先生がプロポーズをするように仕向けていたんだ。」
「でも、田中先生が気づかなかったら?…あっ?」
「そう。別に生徒が気づいても良かったんだ。生徒が気づけば、確実に田中先生の耳にも入るからね。だから、“森本先生って田中先生と付き合ってるんですか?”って聞いたら、すぐに“そうだよ。”って。あっけらかんと答えたよ。」
「なるほどね。つまりは、全部森本先生の掌の上ってことか。」
若干の悔しさを滲ませる日高。
「でも、良いじゃん。楽しかったろ?」
「まあね。」
特大イベントの裏事情を説明する頃には校門近くまで到着していた。
「ここまでで良いよ。ありがとう。本当に楽しかったよ。」
そう言って日高が乗り込む車は誰もが知る黒塗りの高級車だった。




