文化祭-1
「それでは、2年1組の文化祭の出し物を決めます。」
大瀬良理久が教卓を叩きながら、議題を発表する。和やかな雰囲気の中、クラス中の視線を集中させる。
「皆、知っている通り、桜彩学園の文化祭のメインは2年生です。3年生は受験を控えた為、生徒会や委員会長などを除いて、当日の参加のみです。つまり、フルで参加する文化祭は今年が最後となります。だからこそ、」
大瀬良は両手を横に広げ、高らかに言い放つ。
「さあ、悔いのない文化祭にしましょう。」
文化祭の出し物決めだが、意外とすぐに決まった。
王道中の王道―メイド・執事喫茶である。
この手の物は思春期の、とりわけ女子のモチベーションが肝となって来るが、生憎、2年1組の女子はノリが良い。寧ろ、発案者は高橋愛梨だった。
「はいはーい。メイド喫茶が良いでーす。」
「良いね。いらっしゃいませ、ご主人様ってね。」
追随したのは永瀬葵だ。この2人が声を上げると、場の空気が雰囲気が柔らかくなる。生徒達の顔にも自然と笑みが零れる。
「では、メイド喫茶で良い人―っ。」
短期決戦で持ち込んだ永瀬だが、勢いよく10人程が手を挙げる。ノリで数人増える。それを見てまた数人。少数派になった人も逡巡して、手を挙げる。最終的には全会一致となった。
「じゃあ、中身を詰めてもらいますか?大瀬良君?」
「じゃあ、役割決めと当日の動きを決めていきます。」
圧を感じる笑顔を大瀬良に向けるのだった。
文化祭準備初日。学校からの予算と必要な物一覧が表示されている書類が配布される。そこには明らかに予算額と必要額がかけ離れた計画書だった。
「どう考えても予算が足りないような気がするんですけど…。」
「その通り、永瀬さん。しかーし、俺達には他のクラスにはない裏技がある。」
大瀬良が教卓の前で得意気に話す。“裏技”とは何か、言わずもがな理解する。
「そう、異能だ。小早川さんの異能はグッズ作成。そして日高さんが持っていた衣装などを参考に作成すると、あら不思議。何と次のページの予算内で作成できるのです。」
大瀬良が言ったことには嘘がある。小早川の異能は“推し”グッズの作成である。一見気づかないような場所に推しのロゴやデフォルメされた姿が印刷されていたり、ワッペンが刺繍されていたりする。また、なぜ日高がそのような衣装を持っていたかなどは敢えて伏せていた。正直、他の人からすると経緯はどうでもいいのだ。異能の能力の詳細や、個人の趣味などは些細な事なのだ。
目の前に広げられた布類や糸などに手を翳す。すると材料が輝きを放ち、数秒後美しいメイド服が作成された。ドヤ顔の小早川。
「ということなので、他のメンバーは前日の設営と本番などを宜しくお願いします。」
準備は早く終わりそうだと大瀬良が要望を出した。
文化祭前日―――。
設営係のメンバーと監視兼指示役の大瀬良と雪乃が準備を終わらせる。準備と言っても、小早川が作成したグッズ類や机などを並べたり、壁の側面に張り付けたりする程度であった。
では、なぜ監視役に雪乃が抜擢されたのか。それは、
「監督…。なんでここに?」
「お前が文化祭の準備をしているって聞いてな。…まさかとは思うが、サボってはいないだろうな?」
「いえ、ちゃんとやっています。」
「じゃあ、今からすべきことは分かっているな?」
「イエス、マム!」
要するに駿河がサボらないか、ケガしないかの監視役なのだ。雪乃の手助けにより、準備は更にスピードを増していった。
文化祭当日―――。
普段とは異なる学校の装いを見せる。校門から教室や廊下に渡るまであらゆる所が華やかに彩られている。まさに学校の祭りである。
それに呼応するように、皆が頬を緩ませる。それは外部のお客さんだけではなく、生徒達、そして先生たちもどこか表情が違う。いつもは厳しい岡田先生もこの日ばかりは和やかな顔をしている。
文化祭は2日間に渡って実施される。初日は10-16時、2日目は10-13時、その後は片付けと後夜祭が予定されている。
2年1組はその期間を3つに分けて、キッチンとフロントそれぞれのシフト制を取り入れた。
・第一部(初日10-13時)
キッチン…倉岡湊、八木奏多
フロント…井口正、谷﨑遥、永瀬葵、黛蒼空、百田朱莉
・第二部(初日13-16時)
キッチン…琴葉詩織、中川結月
フロント…上原結奈、緒方凛、森翔太、若菜新、渡辺優
・第三部(2日目10-13時)
キッチン…浅沼博、小早川澪
フロント…相川すず、相良紬、高橋愛梨、日高由衣、本田樹
・助っ人役…大瀬良理久、雪乃陽葵
・事前準備(当日は試合遠征の為、欠席)…駿河蓮
キッチン役が少ないのは、火を使う料理は規制され、皿洗いも紙皿を使い捨ての為不要。当日は電子レンジでのチンやコップに飲み物を注ぐ程度であるからだ。
さあ、楽しい文化祭の始まりだ。




