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修学旅行-1

 2学期に入って1ヶ月以上経ったが残暑が厳しい。学生達の顔にも汗で髪がびっちりと張り付いている。

 しかし、その暑さもこの日ばかりは、いや今日から数日間は学生達には気にならないだろう。さあ、学生に聞く楽しみなイベント第一位(百田朱莉調べ)―修学旅行である。

 ところが、一人―百田は密かにイラついていた。

(何でこのタイミングなんだよ。ふざけんじゃねーぞ。修学旅行ぐらい自由にさせろやコラ。)

 現代において単なる連絡手段ではなく、娯楽道具かつ必須道具となっているスマホだが、使用制限がかかったのだ。勿論ギガには余裕を持たせている。制限をしたのは始業式の時の奴〈アスター〉だ。思い出すのも腹立たしい。


 あの時、百田はテンション爆上げ中だった。

(えっ、なにコレ。大当たりじゃん。異能ってなんだよ。厨二かよ。つーか、ウチの担任、演技うまっ。)

 しかし、外の世界が止まる、大柄の倉岡がドアをこじ開けようとするも、開かない。

(何?ドッキリ?壮大過ぎるんだけど…)

 更には佐倉大翔が消えた。マジックで布を被せられたり、箱に入った人が消えるのは見たことあるが、今回のは次元が違う。何もなく、人が一人消えたのだ。

 終いには実際に異能とミッション、報酬が提示される。ホログラムだとしても、機器もなく空間に表示されるなんて聞いたこともない。見た感じ、他のクラスメイトも同様だろう。

 そんな非日常への強制的な招待をされたのだが、そんなことは最早どうでもいい。ただ、なぜこの時期に合わせてなのだろうか。


【百田朱莉】異能―動物と会話、報酬―芸能界からのスカウト、ミッション―スマホの禁止(月に指定した日のみ)


 この指定日が、修学旅行丸被りだったのだ。旅行先で珍しいものや面白いものを見つけても写真を撮ることができないのだ。腹立ちすぎて、つい顔がしかめっ面になってしまう。

「どうしたの?あかりん?」

 百田を「あかりん」と呼ぶのは永瀬葵である。

「いや、実はスマホ忘れてね。」

「おわー、大問題じゃん!」

「そうなんだよ。取りに帰る時間もないし…。」

「災難だったね。もし必要な時は私の貸すから何かあったら言ってね。」

「ありがとう。」

 百田は大きな不満を抱えたまま、桜彩学園2年生は京都・東京への修学旅行が始まる。


 大阪空港を経由し、京都へ行くことになっている。機内でもバスの中でも浮ついた雰囲気だ。

 スケジュールとしては、初日は移動と京都で能や狂言を鑑賞する。二日目は京都で自由行動。三日目東京へ移動し、東京タワーに昇る。四日目は東京で自由時間。五日目に帰宅の流れである。修学旅行銘打っているが、最早学習する気はさらさらない。全く以て楽しい旅行である。

 自由行動は二日目と四日目であるが、子どもたちにとっては全く異なる性質を持つ。表向きは共に班行動だと言われている。しかし、実際は異なる。二日目の京都では班行動をきっちりと守るつもりだが、四日目は守る気などない。一生に一度の修学旅行なのだ。自由に彼氏・彼女や気の置ける友人と過ごしたいではないか。

 その為に、二日目は最大限楽しみながらも無難に過ごしたいのだ。

「なのに…、なのに何で?何でこうなるのっ?」

 百田は空に叫ぶも何も返ってこない。


 なぜこうなったのか?それは2時間前に遡る。

 自由行動は6人の班での活動である。百田の班は百田朱莉、永瀬葵、日高由衣、本田樹、八木奏多、雪乃日葵の6人である。班行動もしっかりと計画を立てていたが、直前に日高があるお願いをしてきた。

「ごっめん。実は実家の親戚が近くに住んでいるみたいで、ちょっと顔出してくれないかって頼まれたんだ。本当にごめんだけど、別行動させてくれないかな?」

「まあ、仕方ないね。」

 日高の”家庭の事情”を把握しつつあるクラスメイトには、手を合わせて依頼をする日高を否定することはできなかった。

「私も別行動させてくれないかな?」

 雪乃も同じ意見を表明する。

「えっと…。」

 日高の依頼を許諾した手前、雪乃だけダメだとは言いづらい。その態度を肯定と受け取った雪乃は更に続ける。

「私は別に親戚とかじゃなくて、単に美術館とか龍安寺とかに行きたいだけだから。でも、旅行先で女子高生が一人ってのも心配なわけよ。そこで、その時間、本田君を貸してくれない?」

 雪乃が本田の腕を引っ張り言う。

「それって?」

 女子達は言外に真意を聞く。すなわち「どういう関係?」と。

「違う違う。皆が思っているようなことじゃないよ。本田君の能力はボディーガードに適切だってこと。それに本田君は私の邪魔はしないだろうし。」

 余りにあっけらかんと答える雪乃にそれ以上の追求は意味がないと悟った。

「俺の意思は…?」

 本田は好きでもない人に振られたような、変な感覚に陥ったのだった。


 そうして急遽、3人行動となった。流石、日本有数の観光地である京都。名物の八つ橋や雑貨類などの店が立ち並んでいるにも関わらず、どこか落ち着いたわびさびの空気を感じる。

「ねえねえ、これめっちゃ可愛くない?」

 某有名キャラクターのご当地キーホルダーやぬいぐるみを見つけた永瀬が興奮して商品を漁っている。

「そうね、とっても可愛い…あっ。」

 何かを見つけた百田は突如として走り出す。

「ちょっ…。」

「先に行ってて。すぐに追いつくから。」

 八木の制止も及ばず、百田は走り出した。


「と、別行動をしたのは良いものの、何でこうなるの?」

 頭を抱えて、道端に座り込む。

「舞妓さんを追いかけ続け、舞妓さんも見失い、自分の場所すら分からなくなったと…。」

 自分の過去を振り返り、項垂れる。

「あっ、そうだスマホスマホ。」

 ポケットの中をまさぐってみるが、目当ての物はない。

「そっだー。持ってきてないんだ。もう、どうしたら良いの?」

 とうとう悪態を吐く。

「ニャー。」

 猫が一匹。百田の腕に頬を擦りつける。

 百田を心配してくれたのだろう。猫の頭を優しく撫でる。

「ほんと、どうしたらいいんだろうね。」

「「「ニャー。」」」

 一匹に対して言ったつもりだったが、帰って来た反応は余りにも多かった。次第に猫の数は増えていく。道を埋め尽くすほどの猫。小道から屋根の上からどこからともなくやってくる。

「ちょ、ちょっと、どうなってんのよ。」

「「「「「ニャー。」」」」」

「えっと…。私の友達を探してくれたり、しないかな…なんて。」

「「「「「ニャー。」」」」」

 不安げな呼びかけに応えるような団結力を見せる。

「これが…私の能力?」


 百田朱莉―異能:動物との会話


 百田が初めて異能を使った時だった。


「おいおい、どうすんだよ。」

 永瀬はおろおろと見渡すが、そこには百田はいない。

「ちょっと待て。スマホは?とりあえず連絡してみろよ。」

「あかりん、今日スマホ持ってねーんだよ。」

「マジかよ…。どうすんだよ…。」

「一回宿に戻るか?いや、それより先生に電話するか?」

「ダメ。そしたら今後の日程が変わるかもしれない。最悪、四日目の自由行動が無くなるかもしれない。」

 そんなことになれば、残りの高校生活は真っ暗になるだろう。すれ違いざまに笑われ、後ろ指を指される。想像しただけで体が震えてくる。

 一般的にパニックの時は周りの声が無くなるものだと言うが、寧ろうるさい。どうなっているんだと顔を上げると、猫が道を作っていた。そして一匹の猫が八木の足に手を置く。

「どうなってんだよ。」

 他の観光客も猫を移動させる訳にもいかず、奇怪な光景にただ驚いている。

 ただ、二人はこんな異常事態を引き起こす現象に思い当たる節がある。互いに顔を見合わせ頷くと猫の道を走り抜けていく。

「やあ、遅かったね。」

 10分ほどすると、百田の姿がそこにはあった。暢気なもので、猫を膝に抱えて撫でまわしている。

「最初は焦ったんだけど、猫ちゃん達が頑張ってくれたから安心しちゃって。」

 純粋な笑顔を見せるのだった。


 日高、雪乃、本田、その他のクラスメイトもそれぞれ思い出に残る1日となるが、それはまた別の話。


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