9 八歳の見極めの儀①
出発して三日目の朝。
私たちは辺境にはまだ程遠い街にいた。それなりに人口もいて賑わっている。
大きな街道を北上しているので宿にも泊まれて、今のところ不自由はしていない。
てっきり一日目の夜から野営かと思ったよ。ほんと助かった。
私たち一行はアルフレッドを先頭に、護衛騎士二名、私の馬車、護衛騎士二名、マイア、リミたちという並びで移動している。
騎士たちの会話を聞いていると、五人の騎士たちの中ではアルフレッドが序列トップのようで、もう公爵家の騎士じゃなくなったのに、四人にあれこれ指示をしていた。
まあ王都を離れて公爵の目の届かないところにいるもんね。
公爵家の四人の騎士のうちの一人は、アルフレッドに翻意させようと必死に食い下がっていた男だった。
やっぱり彼の従者でキースという名前であることがわかった。
そのキースはまだ諦めていないみたいで、隙あらば、私を送り届けた後、一緒に公爵家に戻りましょうとアルフレッドに懇願している。うぜー。
アルフレッドとは今まで面識もなかったし、出発してからもほとんど会話がないけれど、あの時、『俺がついて行きましょうか?』と言ってくれた時の目が――まああのニヤけた顔は思い出してもちょっとムカつくけど、それでもなんとなく、あの目は信用できるんじゃないかと思っている。
だから元ベンベルク領に到着して、アルフレッドと別れることになった時のキースを笑ってやるのだ。散々誘ったのに呆気なく振られるキースの顔は見物だよねぇ〜。
「お前じゃなく、この私を選んだみたいだね」って。プププ。
「お嬢。何をニヤニヤ考えているのか知りませんけど、今日はよそ行きの顔でいないと恥をかくのはお嬢ですよ?」
「……は? 何で? それに私はいつ誰に見られても問題なく可愛いけど?」
「あーはいはい」
「ちょ、ちょっと! 言いたいことは最後まで言いなさいよ。今日はどうしたって?」
「お嬢――何というか、家を追い出されて多少はヤケになる気持ちはわかりますけど、王都を離れて性格まで変わりました? 喋り方も雰囲気もまるで別人のようなのですが」
おっと! 何て答えたらいいの?
すっかり私の地が出ているもんね。いやー、この先もこのまんまだからなー。
「お高く止まったところで相手もいないんじゃねぇ。私は現実を見ているの。これからは自力で食べていかなきゃいけないんですもの。マナーなんかに構っていられないわよ。それくらい七歳の私にだってわかるわ!」
子どもだと思って舐めんなよ!
「あーそれ、それです。お嬢が今日で八歳になったので、昼前に教会に寄ります」
「え?」
「嘘でしょう!? 毎年あんなに大騒ぎしていたのに? 誕生日の何ヶ月も前からあれこれ命令をしてパーティーの準備に取り掛からせていたのに! はっ‼︎ 大好きな誕生日を忘れるほどショックだったのか……まあ、そうか……」
何を勝手に分かった気になってんの?
まあ都合よく勘違いしてくれたんなら、それでいいけど。
そういえば、なぜか王都を出てから、アルフレッドには「お嬢」と呼ばれている。
気がついた時にはそう呼ばれていたので、注意し損なったというか。それも別にいいけど。
それにしても今日が私の、シャーロッテちゃんの誕生日だったんだ。
出発の準備が忙しくて忘れていた。
あーそういえば、毎年ド派手な誕生日パーティーをぶちかましていたねー。
うーん。大人たちを下に見て、暴君のように威張り散らしていたねー。
生意気な子には、「何よその目は!」とかって、目つきが気に入らないっていうだけで手が出ていたねー。
手が届くくらいの子どもにしか手を出せていないところが笑っちゃうけど。
どこかの令嬢が、少しでも誰かにチヤホヤされようものなら、顎をしたからグイッと掴んで、「この顔のどこが?」って、それはそれはもう、おイタの連続だったなー。あははは。
「お嬢! お嬢!」
「ん?」
「何を呆けているんですか?」
「なっ! ちょっと遠い目をしていただけでしょ? 口の聞き方に気をつけなさい!」
「ほら。やっぱり変わりましたね。昔なら、俺が顔を近づけただけで、横っ面を引っ叩いていましたよね?」
やってたねー。めちゃくちゃ記憶があるんだよねー。あははは。
大人でも顔が近くにあれば手が届くもんねー。そういや侍女の顔も引っ叩いていたなー。こえー。
「い、今更、昔の話を蒸し返して何になるの? あなたも私に付いてくると決めたのなら過去を振り返っていないで、未来を見てちょうだい!」
「確かに。今日を境にお嬢の未来が変わるかもしれないですね。では急ぎましょう」
勝手に会話を打ち切って踵を返したアルフレッドは、そのまま馬に乗ってしまった。
……は? 私は?
普通はご主人様が馬車に乗ったのを見てからその場を離れるんじゃないの?
コイツ……マジで暇つぶしに王都を離れただけなんじゃ……?
私の護衛って約束を忘れてるんじゃない?
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