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6 家庭教師の先生①

「私はれっきとした公爵令嬢よ!」と、威張り散らさんばかりにふんぞり返って日々を過ごしている。

 それくらいしないと、『もう媚びへつらう必要のない小娘』って、使用人から舐められそうだから。

 なので、食事についても細かく指示を出す。マイアに命じて。

 マイアが震え上がっていても関係ない。食事は大事だからね。


 今朝はフレッシュジュースで喉を潤わせてから、焼きたてのブリオッシュとプレーンオムレツを食べてきた。ちゃんとクリームチーズも出てきた。よしよし。

 公爵家を出るまでは公爵令嬢として贅沢な暮らしを満喫してやるからね。


 少し膨らんだお腹を叩いてソファーの上でぐでぇとだらけていたら、リミが部屋に駆け込んできた。

 侍女としては失格だけど、まあいいか。


「いったい、何事?」

「あ、あの。お嬢様。家庭教師の先生がご挨拶にお見えだそうです」


 ん? そんな約束はしていないけど?

 家庭教師の先生がそんな無作法を――! もしかして、父親に来訪を断られた?

 だから今日突然やって来たの? 父親が今日留守にしていると知って?


「そう? まあ、来てしまったんなら仕方がないわね」


 なんか口が勝手にシャーロッテ風の言葉を吐いちゃう。

 着替え――なくてもいいか。面倒だし。そこまで令嬢風を吹かしたい訳じゃないし。





 応接室に向かいながら、記憶の中から家庭教師の先生についての情報を取り出す。

 うへっ。

 ちょっ、ちょっと! シャーロッテちゃんよぉ!

 なんちゅう態度で授業に臨んでたの。

 しかも(ろく)に聞いちゃあいないし。

 いや、逆に先生の我慢強さに感服するよ。すごい人だね。

 あー、どうしよう。これから会うんだよ?

 思い出すだけで私の顔が真っ赤になるよ。


 あ! もう気の利く侍女がいないから命令しないとお茶も出てこないんだ。


「リミ。厨房に行ってお茶とお菓子を大至急準備するように言いなさい。そして、あなたがそれを応接室に持って来るのよ。いい?」

「え? あ、はい」

「マナーは気にしなくていいから。ポットからティーカップに注げればいいわ。それくらいやったことがあるでしょ?」

「は、はい!」


 大丈夫かな?

 廊下を小走りに走って行くし……。

 気を取り直して一人で応接室へ向かう。侍女を連れずに歩くのも初めてかもしれない。





 先生は立ったまま私を待ってくれていた。遅くなってすまん。


「シャーロッテ様。お約束もなく押しかけてしまい申し訳ございません。お忙しい中、面会をお許しいただき恐縮でございます」


 うわぁ。こんな立派な人を相手にシャーロッテちゃんは……。


「構いませんわ。先生。どうぞお掛けになって」


 そう言って私も向かいに座る。

 気のせいか、先生の視線が鋭い。


「シャーロッテ様――まずは、お元気そうで安心いたしました。ここ数日の変化にお心が追いついていらっしゃらないのではないかと心配しておりました」


 すごっ。あんなに威張り散らして、ちっとも勉強しなかった生徒なのに、教え子っていうだけで心配してくれていたんだ。


「先生。既にお聞きお呼びの通り、全ては私の身から出た錆ですわ。甘んじて受け入れたいと思います」

「『身から出た錆』? 面白いことをおっしゃいますね」


 あ。日本の諺だった。この世界にはないのかな?


「コホン。自業自得と言いたかったのです。既に王命が下っておりますので、私は命に従って辺境の地へ参ります」


 ん? 先生がなんとも言えない顔をしているんだけど、おかしなことは言っていないよね?

 シャーロッテちゃんならヒステリックに拒絶するとでも思ったのかな?

 我儘っぷりを見せるべきだった?

 せめて年相応にもう少し弱気な面を見せた方がよかったかな?

 ――と思っているところにノック音が聞こえた。


「入りなさい」


 リミがグイッとドアを開けて、ワゴンを押して入ってきた。

 ドアは開け過ぎだし、ワゴンもガタゴト音をさせているし、あー、ドアを閉めたバタンという音が響いちゃった。

 あれだな。厨房の誰かが武士の情けで、ワゴンで持って行くようリミにアドバイスしたんだろうな。

 トレイなら間違いなく途中で、ドンガラガッシャンってやっちゃってたよね。


「先生。正式に家を出るまでは一応公爵令嬢待遇なのですが、既に侍女もおりませんので、不躾なところは目をつぶってくださいませ」

「え、ええ」


 先生は目をつぶるどころか、何なら目を白黒させている。


「シャーロッテ様。随分とお変わりになられましたね。とても――寛容になられて」


 あ! ほんとだ!

 ここは、昔のシャーロッテちゃんなら、「この私に恥をかかせるなんて!」と、メイドを叱りつけて手が出ていたところだ。

 あは。あははは。もういいか。このままいっちゃえ。


「私も目が覚めたのです。先生にもこれまでの非礼をお詫びいたします」


 今度こそ先生は目を見開いて前傾姿勢で何かを言いかけた。


「――! し、失礼いたしました。まあ、そう――でしたのね。謝罪を受け入れますわ。ただ――もう少し早くお気づきになられておりましたら、このようなことにはならずに済みましたのに。本当に残念ですわ」


 本当に! 私も、もっと早く思い出したかったよ!

 せめて一日早かったらなぁ。

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