51 いざ教会へ
そういや、ここは寂れた町だった。
どうしてみんなからジロジロ見られるんだろうと思ったら、ちゃんとした騎士を護衛につけて旅をしている一行に見えたからかも。
荷馬車もこんな辺鄙な町に来るには立派すぎだもんね。
町に入る前に三人には、「ここでは調査はしないでさっさと通り抜ける」と言い聞かせてあるので、誰も口を開かない。
馬車らしくのんびり進んだけど、多分三十分もしないで抜けられた。
ほんと小さな町だ。
町を抜けると、記憶にあるだだっ広い土地が広がっていた。
これから町へ入ろうとやって来る人影はない。
今がチャンスだね。
ここからは、もうちょっとスピードを出せるデザインにしなくちゃ。
人とすれ違う時だけスピードを落とせばいいようにね。
いや、逆に振り切った方がいいか?
まじまじと見られる方がヤバいか?
すれ違いざまに「ん? 馬が引いていたか?」くらいで済む程度の変身なら大丈夫だよね。
まぁ、アルフレッドたちが馬に乗っているから、少しは目眩しになると思う。
「メイスン。馬車を止めて」
「はい」
「じゃあ、降りるわよ」
え? また? っていう顔はやめて。
「キース! あなたも降りて!」
キースの返事は聞こえなかったけど、ガタガタ音がしているから降りているんだろう。
アルフレッドが何事かと近寄って来た。
「アルフレッド。ここから目的地までは、あなたたちの馬が付いて来られる程度に、もう一度変身させてスピードを出すから、馬を引き取ってちょうだい」
「また、さっきのような魔法を使うのですか?」
「そうよ。離れていなさい」
有無は言わせない。
じゃあ第二形態のお披露目だ。
「トランスフォーム!」
再び、キューン、ガシャーン、ガシャーンと変形を繰り返す。
間近で見るとなかなか面白い。
バスの名残を残しながらも、バギーをイメージして運転席の屋根を取ったので、御者台に見えると思う。
ハンドルも丸い輪っか型から、昔見たF1のハンドルみたいな小ぶりなデザインにした。ぱっと見はスイッチ2。
後ろの荷台は大きな幌を被せたデザインだ。
どうかな?
三人とも驚いているみたいで、誰も何も言ってこない。
「どう? 万が一、商人や旅人とすれ違っても、すぐには不審がられないでしょう? こんな見た目だけど、スピードはバス並みに出るのよ」
「……お嬢」
「あ。ここからはあなたとキースが先導してね。何かあっても騎士にイチャモンをつける平民はいないだろうから」
「……お嬢」
「それとね――」
「お嬢!」
もぅ。
「何よ」
「もうこれ以上魔法を使うのは止めてください」
「え?」
「お嬢の魔法はあまりに規格外なので、領地の外で使うのは危険です。人の噂というのは侮れませんから」
「あぁ、まぁ、そうね。今日は仕方がないから、人影を気にしながら使うことにするわ」
一度だけ昼食休憩をして二時間ほど走ると、あの、誕生日に訪れた街が見えてきた。
◇◇◇ ◇◇◇
大きな街なので、念の為、かなり手前から荷馬車に変形することにした。
そして、いざという時は馬車を捨ててアルフレッドと一緒に逃げられるようにということで、私は街に入る前に彼の馬に乗せられた。
街の中は、馬で移動しようが馬車で移動しようが、どっちでもいいので彼の案に乗る。
しばらく進むと、街へ入るための行列ができていた。
そういえば、この街には関所みたいな門があって、役人っぽい人がいたね。
前回同様、こういう時の対応はアルフレッドの役目だ。
あれ? お金を払うの?
へえ。入国税や出国税みたいな概念があるんだ……。
うちの領地にも往来があればシステムを導入するんだけどね。
◇◇◇ ◇◇◇
さっきのしょぼい町とは比べ物にならないほど、街の中が整備されている。
店も人も多い。
この街までが、普通に開拓されて、それなりの人口がいる賑わいのあるエリアになるのかな?
アルフレッドの指示で、街の中では、キースとメイスンのペアが馬車で先を行くことになった。
私を馬に乗せているアルフレッドは、連れだと思われないように結構な間を空けた。
物流に問題がないかとか、近隣の農作物の出来だとかはメイスンが商人としてヒアリングしてくれるはず。
そして、もし売れそうなら野菜を売って小銭を稼ぐことになっている。
あれ?
前方を行く荷馬車が止まったぞ。
どうやら住人と話をしているみたいだけど、さすがに聞こえない。
「アルフレッド。何を話しているのか気になるから、ゆっくり追い越してみて」
「そうですね。どのみち二手に別れなきゃいけませんからね」
近づくと会話が聞こえてきた。
数人に囲まれているな。
「どれだけ積んでいるんだい?」
「騎士を雇う余裕があるんだろ?」
「次の街で買い込む余裕があるなら、いいだろう?」
お!
もしかして、住人に野菜を売ってくれってせがまれてる?
「商品は並んでいるじゃないか。この街の規模が分からないが、普段はもっとあるのかい?」
メイスンが探ってる!
「そりゃ、ここは王都から一番遠いけどさ、それでも普段はどこの店先だって、今の三倍は並んでいるさ。ジャガイモがこのままなら冬は越せても春まで持たないんじゃないかって、みんな心配しているのさ」
「それよりも小麦の方が心配だよ」
なんだかきな臭いぞ。
「この街の周辺は同じくらい不作だったのか? 王都の郊外はどうだろうな?」
「オレはどこもかしこもおんなじだって聞いたぞ」
「あっ、でも、金があるなら大丈夫さ。物が全然無い訳じゃあないんだから、あんたなら平気だろう。だから、な? 頼むよ」
「そうだな。まあ確かに買い込みすぎた分が傷むのは勿体無いからな」
「そうだとも! 頼むよ」
「物はなんでもいいんだよ。一つでも二つでも!」
これはどうやら売買が成立しそう。
相場についても簡単に聞けそうだね。
「あれ? お前――メイスン? メイスンじゃないか!」
おっと! まさかのメイスンの知り合い登場?
ここは知らんぷり。
メイスンはゲルツ伯爵領を出て行商にチェンジしたことになっているからね。
「お嬢。後はメイスンに任せましょう。キースもついているので大丈夫だと思います。お嬢と俺は教会へ向かいますよ」
おうよ!
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