5 騎士の勧誘
メイドと馬の面倒を見れる下働きの男性を確保した。
あとは騎士だ。
さすがにマイアは騎士の知り合いはいないだろうし、あの強面の騎士たちに近づくのも無理だろう。
仕方がないので、騎士団の訓練場に自ら出向くことにした。
公爵邸の中にある騎士の訓練場に来るのは初めてだ。
そもそも令嬢の来る場所ではないし、シャーロッテは騎士に一ミリも興味を持っていなかったからね。
彼らはただの護衛。何かあれば自分の盾になるもの。それだけ。
お互いの姿が見えるところまで近づくと、まあ、分かりやすく騎士たちの動きが止まった。
あからさまに侮蔑の表情を浮かべる者もいれば、訝しげに首を捻っている者もいる。
どう思われているかなんて、知ったこっちゃない。
さて。騎士の中にも貴族と平民がいる。さっきと同じことを言う。
「平民の騎士はここに集まってちょうだい」
身分に厳しい貴族社会の中で、ことさら序列がものを言う騎士の世界。まだ公爵令嬢の私の命令だから気に入らなくても従うしかない。
さすが騎士。メイドたちみたいにだらだらしていない。サササッと集合した。
「あなたたち。私がこの家を出ることは聞いているわよね? 私について来る物好きはいる? いたら一歩前に出て」
シーン。
さっきと一緒じゃん。
まあぶっちゃけ騎士は難しいと思っていた。
騎士はなるまでが大変で、なったらもう、ひたすら上を目指す生き物だもんね。
「ま、そうよね。それが正しいわ。邪魔したわね」
「フン」と強がって踵を返すと、「おいおいマジか」と低い声が聞こえた。
振り返ると、精悍な若い騎士が歩み寄って来る。
あれ? 見たことある顔だな。
「あなたの顔は知っているわ」
シャーロッテが知っているということは貴族のはず。
「顔を知っている? ここは名前を呼ぶところだと思うんですけどね。まあいいや。俺はアルフレッド。アルフレッド・ヒットフィールド」
「そうね。アルフレッド。もちろん知っていたわ」
名前は言われて思い出しただけ。知ってはいた。あれ? ヒットフィールド? うーん。ヒットフィールド?
「まあいいんですけどね。なんですか、その顔は? ああ、うちの家ですか? 侯爵家ですよ」
「そうだったわね」
公爵家に次ぐ上位貴族じゃないの!
「――それで、どうして平民だけを集合させたんです? 貴族は無理でも平民なら事情をよく知らないでついて来るとでも考えたんですか? それなら逆ですね。平民が騎士の仕事を放り出すはずがないでしょ? 一か八か聞くなら貴族に聞くべきです」
確かに。一理ある。アルフレッド、頭いいじゃん。
「そうね。確かにその方がまだありそうな話だったわ。それで? あなたは、『子どもの浅はかな考え』だと私のことを笑いたかったの?」
「ははは。相変わらずですね。でもさすがにこんな子どもを一人で行かせるというのは……。それこそ騎士道精神? それに反する気がするような……」
「は?」
「俺がついて行きましょうか?」
ニヤつきながら言われると揶揄われているみたいだ。
「アルフレッド様、正気ですか?!」
後ろの方で青い顔をした男性が引き止めようとしている。
「俺はいつだって正気だけど?」
「そ、そんなあ!」
部下かな? それとも従者? 侯爵家のボンボンなの?
「もしかして、ここの人間関係に嫌気がさしていたとか?」
「ん? 別に」
「じゃあ、もっと外の世界を見てみたいとか?」
「は? 見たいなら行けばいいだけでは?」
確かに。何も騎士をやめなくても休暇を取って出かければいい。
「じゃあ何で?」
「うーん。何でだろう? まあ、何となく、かな」
「へ?」
「それに、アレですね。いくら悪評だらけの令嬢といっても八歳でしたっけ?」
「まだ七歳です。八歳になるのは十七日後です」
「細かいですね」
「一応言っておきますが、給金は出世払いの可能性があります」
「ん? 金には困っていませんけど?」
そりゃあ侯爵家の坊ちゃんだもんね。
「急に『やーめた』って言われても困るので、最低でも三年は働いてもらうつもりですけど」
「いいんじゃないですか?」
何なの? ただの変わり者なの?
「本当にいいのね?」
「いいって言っているんですけど」
なんで売り言葉に買い言葉みたいになってんだろ……。
「じゃあ出発は二週間後よ。最悪、何にもないところかもしれないから、物資は十分過ぎるくらい用意しておいてね」
「そうですね」
「コホン。できれば余って他人に施せるくらいに準備してくれると助かるわ?」
「え? まさか公爵閣下はお嬢様に身一つで出て行けなどとおっしゃったんじゃないでしょうね?」
「さすがにそこまでではないけれど、まあ似たようなものよ」
「……そうですか。わかりました」
まあ騎士だから、馬関連や武器防具の類を実家から色々持ち出してくれると助かる。
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