4 メイドの勧誘
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完結まで毎日更新する予定ですので引き続きよろしくお願いします。
二週間で準備か。悩んでいる暇はない。この家にいられない以上、もう前に進むしかない。
とにかく身の回りの世話をしてくれる人と護衛は絶対に必要だから、何とかして勧誘しないとね。
私として目を覚ましたのが昼前だったので、とりあえず腹ごしらえをしてから、マイアに平民メイドを呼んできてもらった。
メイドが仕事中だろうとシャーロッテには関係ない。
四の五の言っていられない状況なので、悪いとは思ったけれど今まで通りに権力を振りかざすことにした。
追放予定であっても私はれっきとした公爵令嬢だから、面と向かって文句を言うことはできないもんね。
という訳で平民メイドが私の部屋に全員集合だ。
みんなビクついているな……。
シャーロッテちゃんさあ、もうちょっと使用人とも仲良くしていたらさあ、こういう時、味方になったり助けてくれたりする人がいたかもよ?
もう後の祭りだけどね。
「あなたたち。私がこの家を出ることは聞いているわよね? 私について来る物好きはいる? いたら一歩前に出て」
シーン。
ま、そうだよね。
学がどうとかじゃなくて、普通に考えることができるなら、野垂れ死ぬ未来しか見えない子どもに好き好んでついて行こうなんて思わない。
よっぽど人間関係に嫌気がさしたか、後先考えずにただ外の世界を見てみたいだけとか、とにかく普通じゃない変わり者じゃなきゃ手を挙げないよね。
「はぁ」
まあ確認できただけよかった。気が済んだわ。
「戻っていいわよ」と言いかけた時、びくつきながらもマイアがそろりと前に出た。
ん? それって一歩前に出たの?
「ちょっと、マイア。あなた、今、自分の意思で前に出た? それとも誰かに嫌がらせされて背中でも押された?」
「わ、私はお嬢様が癇癪を起こして汚された部屋を掃除するためだけに雇われたので、お嬢様がいなくなったら、いられ、おられ――なくなったらクビにされると思います。でももう帰るところはなくて――どうか私を連れていってください」
へえ? 実家に帰れないんだ。それでついて来るの?
うん? でも今、何気にとんでもない職務内容をバラしてくれたような。
そういえばうっすらとだけど、シャーロッテが癇癪を起こして、しょっちゅうティーカップを投げていた記憶がある。
「他には?」
「わ、私も同じです」
おっと。もう一人進み出た。
「あなたも自分の意思よね? 間違いない?」
「は、はい! 間違いありません」
へえ。この子はハキハキ喋れるんだね。
「名前は?」
「リミです」
「そう。他には?」
みんな俯いて私と目を合わせないようにしている。
「そ。いないのね? じゃあ、二人は残ってあとは出ていって」
マイアとリミ以外が脱兎の如く逃げて行く。
嫌われてるねー。
最後の一人が部屋を出て、ドアを閉めたのを見てから二人に目をやると、わかりやすくビクついた。
いや、こんな子ども、力づくでどうとでもなるでしょ?
「マイア。それにリミ。こんな私にこれからも仕えてくれなんて嬉しいわ。ありがとう。辺境の地がどんなところかも分からないから、食べさせてあげると保証できないのが辛いわ。生活も楽じゃないだろうし、もしかしたら給金も出世払いになるかもしれないわ。それでも本当にいい?」
マイアが左右の拳を握って胸の前で合わせて、コクコクと頷いた。
変わった仕草だ。
「実家にはクビになった連絡がいくと思います。だから仕送りもする必要がありません。帰っても追い出されるだけなので、食べさせていただけるのなら、もうそれだけでいいです」
リミも負けじと大きく頷いて続いた。
「私も、教会に戻ったところで、一日中働いて、それでもお腹いっぱい食べられるかどうか分かりませんから。自由になるお金なんか貰える訳ないし、食べることができるならついて行きます」
ふうん。二人ともなかなかハードな人生だね。
それにしても教会って?
「リミ。教会にいたってことは、孤児院のようなところで育ったの?」
「はい。おっしゃる通りです。随分前に視察にいらっしゃった前の奥様が読み書きの先生を派遣してくださって、それ以来、私たち孤児も教会で勉強ができるようになったのです。奥様は、あ、申し訳ありません。奥様は――」
「いいのよ。昔のことだわ」
ほんの一瞬だけ、シャーロッテの記憶にある甘酸っぱい感情が蘇った。
今とは全然違う家庭環境の記憶。
私は他人なので浸ったりしないけどね。
「そういえばここ数年は、孤児院から何人か採用していたわね……」
母親が亡くなっても採用を止めなかったのは、ノブレスオブリージュってやつかな?
社会貢献しているとアピールできるもんね。
「はい。感謝しております。あ、あの!」
「なあに?」
「その孤児院で一緒に育った子が馬丁の見習いをしているのですが。といってもほとんど下働きと変わりませんが。その――その子も一緒に連れて行ってもらえないでしょうか」
「は?」
「ローリーと言います。一通り何でもできます。男手もあった方が何かと便利ですし」
ふーん? 幼馴染の彼氏? まあ確かに力仕事も山程あるだろうから男手はほしいかもね。
「いいわ。その子も希望するなら連れて行ってあげるわ」
「ありがとうございます! きっと希望すると思います!」
「あっそ」
まあ、女性メイド二人と男性の下働きが一人いれば、日常生活は問題なく送れそうだな。
「確認だけど、あなたたち二人は掃除係だったわね? 洗濯はできるの?」
「はい。できます」
「わ、私もできます」
まあ洗って干して畳むだけだもんね。
「じゃあ裁縫は?」
「できます」
「わ、私もできます――少しなら」
ん? マイアは苦手なのかな?
まあガタガタでもできればいいよ。見栄えは気にしない。誰に見せるものでもないんだしね。
「馬はどう? 馬車を扱える?」
これ大事。何しろ大荷物を馬車に積んで引っ越すんだからね。一人一台の荷馬車でも少ないかもしれない。
「私は経験があります」
マイアはできると。
「リミはどうなの?」
「申し訳ございません。私は経験がありません」
「そ。ああ、そのローリーはできるよね?」
「はい!」
じゃあカップルで一台ね。合計二台の馬車か。