34 領民の家をリフォーム
「お嬢!」
翌朝、まさかのアルフレッドの大声で起こされた。
……ったく。これ……禁止にしようかな。正式に『命令』して。
せめてマイアかリミに起こしてくるよう頼むとかさぁ。
私、八歳だけど女性で領主様なんだよ?
「何の騒ぎよ、まったく」
「お嬢。まさか本当に朝までに用意されるとは! いえ、そうですよね! もうお嬢の魔法には驚かないと思ったんですけど。それにしてもまた何だってあそこまで大量に作られたのです?」
……ん?
あぁぁ。服と靴のこと?
「一人一着って訳にはいかないでしょ。洗い替えもいるし」
「あの。それにしても一気にあれだけの量を作られるとは……。応接室のテーブルの上に山積みされているのをマイアが見つけて大騒ぎしていましたよ」
……ん?
「昨夜到着した者たちだけでなく、元々いた領民全員に配布したとしても半分以上は余ると思います」
小人たち‼︎
加減てもんを知らないのか。そりゃ驚かせるほど作れとは言ったけどさ。
まあ作ってしまったのなら全領民に支給するけどさ。
なんかこう……いまいち私の支配が甘いというか、うまく制御できていない気がする。
「余った物を保管する場所くらいあるでしょ? キースにでもやらせなさい。それより部屋から出て行って! 朝の身支度をするから!」
「はい! 朝食前に全員をしっかり洗って、お嬢の作った清潔な服を着せます!」
「よろしく」
◇◇◇ ◇◇◇
新領民たちには、体力が回復するまでは簡単な手伝いくらいで仕事の割り振りはしなくていいと指示していたけれど、男性たちは早々に元気を取り戻したので、それぞれゲルツ伯爵領でしていた仕事を参考にキースが分担を決めていた。
一人だけ農業とは縁遠い商売人がいたらしいけれど、うちに商店はないし、今後も店を開く予定はないので、畑仕事を覚えてもらうしかない。
本人も生きるためと割り切ったらしいので、まあ大丈夫だろう。
そんな感じで、無事に新領民の受け入れが出来た訳だけど――うるさい。
あれだ。女三人寄れば姦しいってやつだ。
領主館の中で四六時中、話し声や物音がする。
子どもの声って、壁があるのに何であんなにクリアに通るの?
「ここは旅館じゃないんだぞ!」と、ブチギレる前に家をどうにかしないと駄目だな。
◇◇◇ ◇◇◇
「アルフレッド! 視察に行くわよ!」
この、大声で呼び出す方式も落ち着いたらどうにかしなきゃね。
それでも、私がこうして叫んでエントランスに行けば、彼がそこで待っているというお約束ができてしまった。
「お嬢。もう飽きて止めたんじゃないですか? またどうして急に行く気に?」
「うるさいわね。この屋敷もすっかりうるさくなったから、平穏を取り戻すために行くのよ」
「……?」
「今日は領民の家を見て回るわ」
「家……ですか」
「そうよ。そういえばキースに調査を命じたけれど、進捗を聞いていない?」
「それなら、ほぼほぼ終わっていると思いますよ」
じゃあ、なぜ報告に来ない!
「ははは。あいつは意外に完璧主義なんで、おそらく彼女たちの住まいの割り当てまで考えてから報告と提案をするつもりなんでしょう」
いらねー。
早いところ、空いている家に引っ越してほしいだけなんだけど。
「早く報告するように言っておいてね。じゃあ行きましょう」
「はいはい」
◇◇◇ ◇◇◇
領民たちの家は領主館から少し離れたところに集中して建てられている。
効率的に建築するためだったのかな?
ただ、どれもこれも、おそろしくボロい。
多分、新築の時からボロかったんだと思う。
どう見ても小屋にしか見えない。壁と屋根があるだけなんじゃない?
中はどんな風になっているんだろう?
「ねえ、アルフレッド。あなた、王都以外の平民の家を見たことある?」
「そりゃあ、ありますよ。あちこち遠征したことがありますからね。ただ、ここはさすがに辺境の村っていう感じですね。全体的に活気がなくて寂れています。家の造りも簡素ですね」
「じゃあ、他はもっとちゃんとした家に住んでいるのね?」
「ええ。この領地の家々は、おそらく一時的な仮住まいとして建てられたのではないでしょうか。順調に開拓できる見込みが立ったところで、本格的な村として整えていくつもりだったのではないでしょうか」
なるほどねー。そうかもね。
それがグズグズの状況で、今に至ると。
「でも、仮住まいっていうのは、普通、期間限定よね? 引き上げる可能性もあったのかしら? いずれにせよ、もう永住確定なんだから、もっとちゃんとした家にしないといけないわね」
「……! 建て替えるということですか? 一体どうやって――あ!」
「そうよ。元々ある物に手を加えるだけだから、一から建てるよりも簡単なはず。私なら訳ないわ!」
きっとね。
小人どもー。出来るだろー?
「そうと決まればお昼寝するわ」
「え? お嬢。家の改築を始めるのなら、領民たちにその旨を――」
「いいのいいの。中はそのままで大丈夫だと思うわ。そこら辺はうまくやるから」
小人たちが。
「さあ! 戻るわよ!」
◇◇◇ ◇◇◇
領主館に戻ると、早速お昼寝開始。
ベッドの上で仰向けになって、家について考えを巡らす。
以前ぼんやりと考えていたように、マンション繋がりで、『マンションデベロッパーの開発した戸建て』なのだと自分に言い聞かせて、シンプルなデザインを想像する。
木材じゃなくてレンガの壁。2LDKの間取り。窓にはガラス。
あ、そうだ。せっかく住民のリストを作ったんだから、ドア横に表札をつけて入居者の名前を書かせることにしよう。
ああ、それと。風呂だ、風呂! 公衆浴場だな。
洗濯とか出来る洗い場も併設して二、三箇所作ろう。
五右衛門風呂みたいに、直接薪をくべて湯を沸かせればいいかな。
そうなると領主館の風呂も改修しておくか。メイドたちのために。
優雅なバスタブはそのままにしておきたいから、壁に水道管のようなものを通して、外で沸かした湯をそのまま注げるようにしておこう。
それにしても小人たちはどうやって作業しているんだろう?
私の前世の知識が丸ごと移管されているのかな?
そういうのも会話できれば聞けるんだけどなぁ。




