32 受け入れ
「一応、聞くけれど。あなたたち、真面目に働く気があるってことよね?」
ブレッツが連れてきた面々を見回しながら尋ねると、全員がこっくり頷いた。
声を出す気力もない感じ。
「それなら約束通り、私のところで面倒を見るわ!」
「あぁ」と声にならないような歓声が聞こえた気がする。
咽び泣いている子もいる。
「お嬢。急いだ方がよさそうです。もう日が傾きかけています」
「え? そうなの?」
まあ春とはいえ、日は沈み始めると早いもんね。
「ブレッツ。まずは女性と子どもから乗せてあげて。小さな子は膝に乗せるようにして、可能な限り詰めて座ってね。二人掛けの席には三人座らせて」
「はい」
「一番後ろは詰められるだけ詰めて、五、六人座るようにね。男性は最後に乗って、全員、間に立たせて」
「はい」
三十二人の内、成人男性が六人で、残りが女性。その内女児が二人。
まず、前方の二人席に、幼児を膝に乗せた女性と小学生と高校生くらいの子の計四人が座った。
全員痩せているから座れたんだな……。
そんな風に全部の二人席には漏れなく三人が座り、成人女性が反対側の一人席に座った。
後列のシートには八人が座っているよ!
どっかの国みたいに、窓から上半身を出して乗車することを考えれば、まあギュウギュウだけど我慢できる範囲じゃない?
「お嬢。全員乗りました。出発しましょう!」
「そうね。じゃあ、みんな動くから立っている人は、座席とかにしっかり掴まっていなさい」
あ、そういえば、連れて来られた人たちって、このバスを見てもリアクションがなかったな。
もう驚く気力も残っていないってこと?
あー、もう!
戻ったら速攻何か食べさせてあげるから!
ブレッツがあまりに恐縮するので、帰りの助手席にはアルフレッドが座っている。
キースはもちろん後ろで立っている。
走り始めると、夕方になっていたことに気が付いた。
本当に日が傾きかけていたんだ。鋭いな。
「お嬢。この馬車は随分と速いようですが、それでも日没までには帰れそうにありません。真っ暗になる前に灯りを確保しないと――」
あ。言うの忘れてた。
「それなら、ほら。これで見えるでしょ。あとは道から逸れなきゃ帰り着くはずよ。ナビよろしく」
ヘッドライトを点けると、隣のアルフレッドは言葉を失ったまま前を見ている。
「は、はい。……え?……光‼︎ そんな……まさか……光……魔法……? いや、そんなはずは……は? なびとは?」
「道をよく見ていろって言ったの!」
「は、はぁ」
春だから日没までは時間があると思っていたのに、あっという間に日が沈んで辺りが急速に暗闇に覆われていく。
車内の状況は特に変化なし。もう寝ててもいいよ。
それにしても本当にこの世界って、日が暮れると真っ暗闇になるんだねー。
「ねえ、道見えてる? 大丈夫?」
あ、星とかで方角が分かるんだっけ? 星見てんの?
「大丈夫です。このまま行ってください」
まあ、任せるよ。
◇◇◇ ◇◇◇
暗闇の中に突然二つの光が現れたことで、領内はちょっとした騒ぎになっていた。
人工的な光を見たことがない人たちばかりだもんね。
大きな四角い塊がものすごいスピードで目を光らせながら突進して来たみたいに見えるよね。
すまんかった。
昼間のうちにお披露目しておくんだったな。
「鎮まれー!」と言う代わりにクラクションを鳴らしたら――それこそ気絶するか。
それでも危険なものには近寄らない本能で、みんなバスを見たそばから散り散りに逃げて行く。
領主館の前で停めてエンジンを切ると、アルフレッドが、「私が説明してきます」と言って、先に降りた。
立ち去る前に、「キース! シャーロッテ様と相談した上で、ひとまずお前が面倒を見てやれ!」と声をかけてくれた。
よしよし。
キースはアルフレッドにはYESしか言わないから助かる。
私は先にマイアたちに食事の用意を言いつけなくっちゃ。
「じゃあ、キース。悪いけれどリスト作りをよろしくね。それができたら、全員を厨房に入れてちょうだい」
「かしこまりました」
一応、キーを持って車から降りる。
同時に降りたキースは、どうやら連れてきた人たちを、列を作って並ばせるみたいだ。
丁寧に仕事をしそうだから、少し時間を稼げるかも。
◇◇◇ ◇◇◇
「マイア! リミ!」
屋敷に入って叫ぶと、遠くから、「はーい」という声が二つ聞こえた。
「厨房に集合!」
それだけ言って、私も厨房へ向かう。
「はーい」
「はい」
呑気に返事をしているけれど、すぐに戦場になるからね。
厨房には二人が先に到着していた。
「あなたたち。今から作れるだけスープを作ってちょうだい。具は玉ねぎだけでいいわ。よーく炒めてから煮てちょうだい。味付けは少し濃くてもいいわ。とにかく具は少なくてもいいから、たーっぷり、三十人がお代わりしても大丈夫なくらい、ありったけの鍋で作ってちょうだい」
「……」
「……」
「返事は?」
「はい」
「はい。あの、でも」
今から説明するから。
「新たな入植者を連れてきたの。多分、ここ数日はまともな食事をしていないだろうから、柔らかいものを食べさせてあげたいの。小さな子どもが二人と大きな子どもが三人。それ以上が二十七人いるわ」
「食事ができていないのですか?」
リミが涙目で聞いてきた。あっそういえば、孤児だったんだっけ。
お腹を空かせていたこともあったんだね。
「まともな食事が取れるようになったらお肉も食べさせてあげるけれど、今は胃が受け付けないだろうから、まずはスープね。パンもスープに浸して柔らかくして食べるように言ってあげてね」
「はい!」
「はい!」
あ。やる気が出たみたいだね。
テーブルには十人くらいは座れそうだけど、今日は立ち食いでいいよね。
明日から入れ替え制にするなり何なり考えてちょうだい。
「シャーロッテ様」
あれ? キース一人?
「こちらがリストです」
「ありがとう。それでみんなは?」
「ローリーが案内して井戸に行きました」
あー、なるほど。喉が渇いていたんだね。
あるいは、せめて手と口だけでも清めて屋敷に入れようという配慮か。
「戻ってきた者から厨房に入れて大丈夫ですか?」
「ええ。裏口から入ってもらって。分かってると思うけれど、子どもと女性を優先ね」
「かしこまりました」
すごい。もう玉ねぎを炒めるジュージューと言う音が聞こえてきた。
その横でお湯がぐつぐつと煮えたぎっている。
やるじゃん、二人とも!




